はじめに

今回のアンケートが行われたのは2012年1月30日から2月1日までです。前回2011年12月26日を基準日としたアンケートの際、これほどまでに課題山積のまま年末を迎えることは珍しいとコメントさせていただき、投資家が「リスク・オフ」の状態になっていることをご紹介しました。しかしながら、年明け後は欧州債務危機についてやや楽観論が台頭したことや、引き続き米国経済の回復が続いている様子が確認されたため、個人投資家のリスク選好がやや回復した感じがあります。ただ、今回のアンケート実施時点においては、それら外部環境については若干トーンダウンしたものもありますが、結果的には年初からの流れを踏襲したイメージです。今回、過去のアンケート結果のヒストリカル・データをもとに、その時系列の整合性についてチャートにして確認してみました。それらも含めて皆様の今後の投資活動にお役に立てて頂ければと考えます。次回も是非ご協力頂ければ幸いです。

楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長 大島和隆

1.日経平均の見通し

個人投資家の見方「漸くリスク・オフから、ややリスク選好へ動き始めた?」

  • Q1:1月31日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △3.35
    (12月26日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △23.80)
  • Q2:1月31日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +9.61
    (12月26日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △5.20)

今回の基準日となった2012年1月30日の日経平均株価の終値は8,793.05円です。前回アンケートを行いました昨年末12月26日に比べると日経平均株価は金額にして+313.71円、率にして3.81%の上昇となっています。これは同期間の米国NYダウの+2.76%の上昇率を1%以上も上回るもので、このところの“米国市場の終わり方で翌日の日本市場の動向が決まる”という状況からするとやや様相を変えてきた感じがあります。

その背景にあるのは欧州債務問題に対する危機感がややトーンダウンしたことにより、ユーロが対ドルでも対円でも買い戻されて反発したことなどがあげられます。ただ実際のアンケート実施時点においては、前回の水準と比べてじつは為替は円高になっています。12月26日時点では対ドルが77.99円、対ユーロが101.94円であるのに対して、アンケート実施時点の1月30日のそれは対ドルが76.69円、対ユーロが100.89円なのですから。

そこで下記に2008年10月に初回を実施した時からのDIの推移と、その時点の日経平均株価をプロットし、その推移をチャートにして比較してみました。ご覧の通り、まず概ね日経平均株価のトレンドと、DIの変化トレンドは方向性が一致していることがわかります。さらに詳細に見比べてみると、じつはDIの方がやや先行してその後の日経平均株価の傾向を示していることが分かります。確かに上にも下にもややDIの方がオーバー・シュートする傾向は見られますが、少なくとも方向感は一緒であり、ひと月以上は先行してその傾向を示していると言えます。


(作成:楽天投信投資顧問)

これによると、今回のDIの結果は、数値的視点だとには1カ月先の数値はまだマイナス圏内ではありますが、前回からの変動の視点で見るとプラスの方向に大きく動いており、日経平均株価のそれをやや上回る傾向を見て取ることができます。3カ月先に見通しについては今回の結果はプラスになっており、外部環境の好転以上に投資家センチメントは改善の兆しを示していることが分かるのと同時に、このDIのトレンドが2月以降の株価の方向性を示している可能性は高いかもしれないとも言うことが可能です。結局は売る人よりも買いたいと思う人が多い時、株価は上昇するものなのですから、ある意味、それは理屈ではないのです。

2.為替相場の見通し

  ドル/円 ユーロ/円 豪ドル/円
1月30日 DI=△12.81 DI=△17.90 DI=+6.84
12月26日 DI=△2.60 DI=△38.40 DI=+3.40

調査時点のドル/円は76.69円、ユーロ/円は100.89円です。前述の通り、調査時点の為替水準は前回の調査時点より対ドルでも対ユーロでも円高に動いています。ただし、この期間において一旦は円安に動く場面が見られ、対ドルでは77.92円、対ユーロでは101.59円(ともに日本経済新聞新聞朝刊で確認できる東京市場の終値ベース)をつけています。今回のアンケート実施直前の週末までの市場トーンは円安を見込むものであり、週末を跨いで一気にセンチメントが反転したからなのかも知れませんが、結果は対ドルではさらなる円高を強く見込み、対ユーロでもまだ円高を見込んでいる感じです。

しかし一方で対豪ドルでは前回よりも強く豪ドル高を見込むようになっており、ファンダメンタルズを踏まえながらも、「リスク・オフ」一辺倒からややリスク選好に投資家マインドが傾いていることを示唆しているのかも知れません。このアンケートでは調査対象に含まれていませんが、このところのブラジル・レアルなどの動きも同様な展開となっています。

3.今後注目する投資先

(複数回答)

  今回 前回
アメリカ 30.28% 34.20% △ 3.92%
EU諸国 9.32% 6.40% 2.92%
ブラジル 32.46% 36.00% △ 3.54%
ロシア 8.15% 8.80% △ 0.65%
インド 40.47% 41.60% △ 1.13%
中国 19.65% 18.40% 1.25%
中東・北アフリカ 8.44% 7.80% 0.64%
東南アジア 42.94% 41.00% 1.94%
中南米 6.84% 8.80% △ 1.96%
東欧 3.06% 4.00% △ 0.94%

前回、大きく注目度合いを回復させた米国ですが、ややトーンダウンしています。同じことがブラジル市場に対しても見て取ることができ、個人投資家は、市場にやや過熱感を感じ始めているのかもしれません。一方、久しく低迷していたEU諸国に対する見方がややポジティブなものとなっており、これは全体に欧州債務危機に対する危機感が和らいで、投資家が「リスク・オフ」からややリスク選好型に変わり始めたという全体認識と整合しています。

その意味では今回、中国や東南アジアもポイントを伸ばしていますが、これらも前述の通り、現時点で最もファンダメンタルズが安定していると思われるところにのみ集中していたリスク・オフの目線が、やや広がりを見せ始めた兆候とも見て取れます。

4.今後注目する投資商品

(複数回答)

  今回 前回
国内株式 70.89% 66.80% 4.09%
外国株式 25.04% 24.00% 1.04%
投資信託 29.99% 30.40% △ 0.41%
ETF 17.47% 21.20% △ 3.73%
FX(外国為替証拠金取引) 16.89% 23.00% △ 6.11%
国内債券 8.59% 11.20% △ 2.61%
海外債券 9.17% 11.80% △ 2.63%
18.34% 16.60% 1.74%
原油 8.01% 5.80% 2.21%
商品 4.51% 5.40% △ 0.89%
REIT 10.63% 11.00% △ 0.37%
CFD 3.35% 4.80% △ 1.45%

じつは国内株式が注目度合いを70%台にまで回復したのは2010年3月の以来のことです。これはリーマン・ショックで急激に落ち込んだ世界景気が、オバマ米国大統領の2009年1月の就任後、世界的な金融緩和政策と相俟って「何とか回復軌道に乗る」と思われていた最後の局面です。この後、ギリシャ問題をはじめとした諸問題に世界経済は突き当り、現在のトーンダウンした状況を生み出しているわけですが、何と国内株式への注目度合いはその頃の水準にまで回復しています。実数的には当時が70.57%ですから、今回はそれよりも若干ながらより高いということに、正直、集計をしながらやや驚きをもってこの数値を見ています。

一方、大きくポイントダウンしたものと言えばFX(外国為替証拠金取引)です。この16.89%という水準は、本アンケート始まって以来の低水準となります。為替市場の、取り分け対ドルの動きがほぼこう着状態が続いていることなどが、トレーディング対象としてのFXの魅力を低下させているのかもしれません。ややリスク選好に傾いたマインドから見れば「面白くない」と思われても仕方ありません。その意味ではETF(上場投信)、国内債券、海外債券などパッシブな消極的投資先と考えられる金融商品も注目度合いを落としています。逆に金や原油といったボラティリティーの高いコモディティ関係がポイントを集めていることも、前述のロジックと整合していると思われます。「リスク・オフ」の局面は終わりつつあるのかも知れません。

「DI(Diffusion Index)」とは

景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替   DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。