はじめに
今回のアンケートが行われたのは10月31日から11月2日です。世界の資本市場にとって最大の懸案事項である欧州債務危機問題については、欧州首脳会議によりギリシャへの包括支援策がまとまり、ある一定以上の安心感が株式市場をリバウンドさせました。また為替市場についても、単独介入とはいえ政府・日銀が円売り介入を行ったことで、75円台前半という史上最高値を更新していたドル円が一気に3円以上円安に動いた局面です。さらに付け加えると、アンケート2日目にはギリシャのパパンドレウ首相がこの包括支援策を受け入れるか否かを国民投票に図ると突然発言したため一気に期待感が萎んでしまうという事態も起こりました。そしてこの問題は現時点においてはまったく過去の話となり、ギリシャにおいてはパパンドレウ首相の辞任と大連立が成立する流れになり、じつは原稿執筆時点においては、市場の関心事はギリシャからイタリアに移っているというありさまです。このような急展開が続く中ですが、今回もこの結果が皆様の日々の投資活動に、少しでもお役に立てればと願っております。
楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長 大島和隆
1.日経平均の見通し
個人投資家の見方「最悪期は脱するものの、なお弱気センチメント継続」
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Q1:10月31日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △16.82
(9月26日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △36.73) -
Q2:10月31日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △1.17
(9月26日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △9.85)
今回の基準日となった2011年10月31日の日経平均株価の終値は8,988.39円です。前回の基準日9月26日の8,374.13円よりは7%以上も株価は上昇したというものの、それでもなお、本DIは本年6月以降の震災復興特需などを期待した市場センチメントの水準までも回復できず、1カ月先においても、3カ月先の見通しにおいても弱気センチメント(マイナス圏)のままの状態が続いています。
このアンケートが行われた10月31日の前営業日に当たる10月28日には、日経平均株価が約2カ月ぶりに9,000円台、と一時回復しました。株価上昇の背景は、欧州債務危機問題のきっかけとなったギリシャ問題について、欧州首脳会議などを経て包括的な支援対策が決まり、市場が過度なリスク回避的な動きからやや平時の状況へ戻り始めたということが挙げられます。しかしながら、アンケートの基準日となった週明け31日にはギリシャ問題の解決に向けた市場の楽観は、ギリシャ国内世論(緊縮財政策受け入れ)の統一が計られないままにやや行き過ぎではないかという意見も、すでに見られるほどで、事実、週明けにパパンドレウ首相が包括策受け入れの是非を国民投票にかけるとの意向が伝わると、市場は再び総崩れの様相を呈することになりました。これを受けてNYダウは週末に比べ合計で約570ドルの下落を演じ、これらを受けて日経平均株価も2日には週末の終値に比べると約410円安い8,640.42円まで沈む展開となりました。
10月31日の為替市場では、単独介入とは言え約8兆円と言われる円売り介入が行われ、円を対ドルで75円台から一気に79円台にまで押し戻しました。ユーロに対してもやはり111円台まで押し戻す展開となりましたが、株価は思いのほか反応せず、ギリシャ問題への市場懸念が再び高まっていることを示唆しました。
一方、この間の市場にとってのネガティブ要因のもうひとつはタイの大洪水の被害が留まることなく拡がり続けていることが挙げられます。東日本大震災で寸断した自動車やハイテク製品のサプライチェーンが、再び寸断されてしまったことがはっきりするにつれて市場は弱気に傾いていったとも言えます。
2.為替相場の見通し
ドル/円 | ユーロ/円 | 豪ドル/円 | |
---|---|---|---|
10月31日 | DI=△36.92 | DI=△28.74 | DI=△3.04 |
9月26日 | DI=△27.21 | DI=△38.90 | DI=△13.52 |
調査時点の円/ドルは78.80円、円/ユーロは110.67円です。この結果の最大のポイントは為替介入が行われたにも関わらず、市場が円高予想を変えていないどころか、対ドルではより強めている点です。つまり市場は為替介入の威力について、なお極めて懐疑的だということでしょう。もし為替介入の効果が持続的だと判断するならば、きっとこの現状を是認するか、もしくは円安方向を見込むDI値になっていたはずです。対ドルに関して言えば、先月が△27.21のところがさらに強く円高を見込む△36.92にも上昇しています。
数値で見る限り、対ユーロでは先月ほどは円高を見込んでいない状況ですが、それはあくまでも先月が異常に円高を見込んでいたからであり、△28.74という数値自体は、このアンケート開始してから5本の指に入るくらい、円高を強く見込む値です。
ちなみに今回の為替介入の規模は約8兆円で過去最高の規模にのぼり、8月4日の4兆5,129億円のそれに比べると約1.8倍の規模ということになります。それでもなお、市場の円高センチメントを消し去ることができなかったというのはいかがなものかと思わざるを得ません。
3.今後注目する投資先
(複数回答)
今回 | 前回 | 差 | |
---|---|---|---|
アメリカ | 25.23% | 27.38% | ↓△ 2.15% |
EU諸国 | 8.41% | 8.85% | ↓△ 0.44% |
ブラジル | 32.24% | 30.72% | ↑1.53% |
ロシア | 10.51% | 9.02% | ↑ 1.50% |
インド | 48.36% | 40.73% | ↑7.63% |
中国 | 18.69% | 22.20% | ↓△ 3.51% |
中東・北アフリカ | 9.58% | 7.18% | ↑ 2.40% |
東南アジア | 42.76% | 33.56% | ↑ 9.20% |
中南米 | 10.28% | 8.01% | ↑ 2.27% |
東欧 | 6.54% | 4.01% | ↑ 2.54% |
今回は、東南アジアとインドの注目度合いが頭抜けて飛び出た感じです。その一方で、まさに「欧米」はポイントを下げています。また、中国の注目度剥落も目を見張るものがあり、何か大きな流れが変わってきていることを示唆しているのかも知れません。欧州債務危機により揺れる欧米、そして欧州景気にかなり左右される状態になっている中国景気に対して懐疑的になる一方、新興国の中で発展が望めるところを探しだしたということとも映るからです。
6月以降のこのアンケートでは、注目する投資先として大きく数値を伸ばすところは、ほとんど見られませんでした。うがった見方をすれば、それは投資家が「どこに投資しても一緒だろう」と、リスク回避的になっていたからかも知れず、今回、これだけ積極的に数値を伸ばした投資先があるということは、それはすなわちそろそろリスクテイクに動いても良いと思いだしたことの示唆とも取れます。この次の問いでも、全アセットクラスにおいてプラスになるという、初めての調査結果になっており、投資家はリスク回避であることに飽き始めているのではという見方を裏付けているようにも思います。
4.今後注目する投資商品
(複数回答)
今回 | 前回 | 差 | |
---|---|---|---|
国内株式 | 62.15% | 61.60% | ↑ 0.55% |
外国株式 | 24.53% | 23.21% | ↑ 1.33% |
投資信託 | 36.68% | 34.22% | ↑ 2.46% |
ETF | 21.03% | 17.20% | ↑ 3.83% |
FX(外国為替証拠金取引) | 20.79% | 19.70% | ↑ 1.09% |
国内債券 | 9.58% | 7.85% | ↑ 1.73% |
海外債券 | 15.89% | 13.86% | ↑ 2.03% |
金 | 20.09% | 17.86% | ↑ 2.23% |
原油 | 7.94% | 5.01% | ↑ 2.94% |
商品 | 7.01% | 4.84% | ↑ 2.17% |
REIT | 11.21% | 10.35% | ↑ 0.86% |
CFD | 4.67% | 2.67% | ↑ 2.00% |
前述のように、本アンケート開始後初めてとなる「すべてのアセットクラス(投資分野)について注目度が前月比でプラスになる」という結果になりました。過去の結果では、普通は「あれは良いけど、これは駄目だろう」と思うものが必ずあるのが通例だと考えていましたが、現預金とは違う、何かしらリスクを伴う金融商品について、全項目でプラスというのは特筆に値すると考えています。ただ内容を精緻に観ると、投資信託やETF(上場投信)が大きく人気を伸ばす一方、国内株式も外国株式も伸び方としてはやや見劣りするという感じです。原油や金、あるいは商品そのものが伸びているのも、有価証券投資を主たる業務としている当社としては、やや気になるところです。
欧州債務危機が終息を迎えることができるのか不透明な状況の下、投資家はまずそれらに関係のない地域、そしてアセットクラスという選択に入ったのかも知れません。ただいずれにしても完全なリスク回避的な姿勢がいつまでも続くよりは、リスクテイクに前向きな投資家がより増えることを期待したいものです。
「DI(Diffusion Index)」とは
景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替 DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。