はじめに

今回のアンケート集計期間は5月31日(月)~6月2日(水)です。昨年8月末に圧倒的な支持率を獲得して誕生した鳩山民主党連立政権が、市場の多くが予想した通りの“5月末危機説”のままにその連立が崩壊し、そして2日後には首相及び幹事長辞任が発表されるという劇的なタイミングで今回の楽天DIは集計されました。市場に「連立政権崩壊はポジティブか?ネガティブか?」あるいは「首相辞任を市場は好感するのか?」などといった様々な憶測が飛び交う中でのアンケートなので、内容的にも大変興味深いものになったと思われます。また当然にして、その背後にはギリシャ問題に端を発したユーロ危機問題や、あるいは米国経済回復継続への期待など、様々なテーマが織り込まれています。今回の楽天DI集計結果も、皆さまの今後の投資のご参考にして頂ければ幸いです。

楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長 大島和隆

1.日経平均の見通し

個人投資家の見方「短期見通しは一気にネガティブへ。政局の不透明感を投資家は嫌気している。」

Q1: 5月31日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △0.34
(4月26日と1カ月後の日経平均の見通し DI= +21.28)
Q2: 5月31日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +12.14
(4月26日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +23.60)

今回の基準日となった2010年5月31日の日経平均株価の終値は9,768.70円です。前回の基準日となった4月26日の日経平均株価の終値は11,165.79円ですから、そこからは約1,400円もの下落を演じた中での集計となりました。この間、終値ベースの最安値は5月25日の9,459.89円です。そこからは少し戻していますが10,000円の大台を割り込んだままであることは確かな事実です。

この間の下落をリードした主たる材料は、ギリシャ問題に端を発したユーロ危機問題であり、世界的に景気が二番底を付けにいくのではないかという漠然とした不安でした。中国がバブル抑制のための金融引締めや不動産規制を進めることを嫌気することも多々ありましたが、市場が強く気にし始めているのは世界景気回復のための2つのエンジンと目される中国と米国が、このユーロ危機問題の中で失速するのではないかという漠然とした不安でした。それは中国にとって最大の輸出相手は欧州圏であり、その欧州の景気がダメージを受けるならば、中国経済もダメージを受けるだろうというストーリーです。実際、中国が欧州債投資を控えるという噂が流れると市場は下落し、それが否定された途端にリバウンドするというような展開が見られたのもこの5月です。

そしてこの楽天DIのアンケート期間となった5月31日から6月2日の間に国内の政治が大きく動きました。昨年8月末に70%を超える支持率をもって誕生した鳩山民主党連立政権が社民党の離脱で崩壊し、鳩山首相と小沢幹事長のいわゆるツートップが揃って辞任するという事態に政権誕生後わずか9カ月で追い込まれました。首相自らが期限を定めた普天間問題が散々ダッチロールのように揺れ動いた揚句に結局元のままに戻ってしまったというのが引き金ですが、市場では早くから予想されていた「5月末危機説」の通りになってしまったという感じです。

問題はこの流れをポジティブと捉えたか、あるいはネガティブと捉えたのかということですが、今回のアンケート結果を見る限りにおいて、市場はネガティブに捉えたようです。ただその争点が「政権崩壊」にあるのか、「首相辞任」にあるのか、あるいは「後任人事」などにあるのかはこのアンケート結果からだけでは解りません。ただ少なくともこの集計時点において、市場はこの一連の流れをプラスには評価していません。次期首相に誰が就任するのか、あるいは民主党が野党時代に主張していたように衆院を解散して国民に信を問うのか、これからの政治の動きでこの結果は大きくまた動くのだろうと思われます。市場は時々政治に対しても催促相場を行う場合があります。そうならないうちに手立てが講じられることを願っています。

2.為替相場の見通し

  ドル/円 ユーロ/円 豪ドル/円
5月31日 DI=+8.03 DI=△22.74 DI=+16.92
4月26日 DI=+33.48 DI=+1.87 DI=+26.80

調査時点の円/ドルは91.47円、円/ユーロは112.02円です。前回のアンケート集計時と水準を大きく変えたのはユーロです。ドルは3円弱の円高に過ぎませんが、ユーロは125.72円から14円近く急激に円高に動いたことになります。にもかかわらず、今回の集計結果では、ユーロに対してはまだ円高を予想する見通しの方が多いことが解ります。

このユーロに対する見通しでここまでDIが円高見通しに傾いたのは、リーマンショック後の2008年年末に「欧州系金融機関の危機」が市場で喧伝された時にまで遡ります。経験則的にはドルの方が「ドル暴落説」に象徴されるようなドル安論の方がこのDIの結果にも表れやすい傾向がありましたが、ここまでドルと流れを異にしてユーロが弱く考えられたことは過去にほとんどありません。

ただ一方で、円がラスト・リゾートではなくなったことも確かなようです。つまり従前は対ドルと対ユーロの見通しは程度の差こそあれ同じ方向に傾くことが多かったのですが、今回は強い順に「ドル→円→ユーロ」となるようになっています。そしてさらに言えば、豪ドルのような所謂「資源国通貨」が高く評価されていることがわかります。これは4.にあります「今後注目する商品」の中で注目度が高まっているものの筆頭が“金”であることに象徴されているように思われます。国内政治問題もさることながら、大きな問題として世界経済が二番底を付けに行く可能性を市場は懸念しているということだろうと思われます。

3.今後注目する投資先

(複数回答)

  今回 前回
アメリカ 21.03% 22.26% △1.24%
EU諸国 7.86% 7.93% △0.06%
ブラジル 44.27% 45.15% △0.87%
ロシア 10.09% 11.40% △1.31%
インド 43.25% 46.57% △3.32%
中国 45.98% 47.37% △1.39%
中東・北アフリカ 7.52% 9.71% △2.18%
東南アジア 25.13% 26.27% △1.14%
中南米 9.06% 9.08% △0.02%
東欧 3.25% 3.38% △0.14%

アンケート集計開始後、初めてのことが起こりました。3.と4.では複数回答をお願いしていることもあってこういう結果になったのだと思いますが、すべての投資先について前回比がマイナスになっています。個人投資家がどこにも注目していないというわけではないと思いますが、全地域に対してマイナスになってしまったというのは、やはり世界経済全体の先行きに自信が持てなくなっていることの証なのかも知れません。全地域に対してプラスになったこともありませんから、総てのベクトルが同じ方向ということがいかに特異なことであるかお解りいただけるかと思います。それだけ、今の市場に見通しを立てることが難しいという意味だろうと考えます。次回、どんな結果になるかが極めて注目されます。

4.今後注目する投資商品

(複数回答)

  今回 前回
国内株式 69.23% 67.32% ↑ 1.91%
外国株式 27.86% 29.47% △1.61%
投資信託 31.79% 36.51% ↓ △4.71%
ETF 15.21% 17.81% ↓ △2.60%
FX(外国為替証拠金取引) 20.17% 18.79% 1.38%
国内債券 6.84% 6.32% 0.52%
海外債券 16.07% 13.54% 2.53%
21.03% 15.94% ↑ 5.09%
原油 7.35% 7.39% △0.04%
商品 4.62% 2.67% 1.94%
REIT 11.79% 11.67% 0.13%
CFD 4.44% 4.10% 0.35%

今回、対前回比で最も変化が大きくポジティブな展開になったのが金です。前述のように世界景気の見通しがユーロ危機で不透明さを高める中で、安心な投資先を考えたら金になったということだと思いますが、投資家のリスク許容度低下の証でもあり、今後の展開が気になります。

一方で国内株式が若干ですがポイントを上げているのは、株価水準の低下と2010年度企業収益の見通しの中で約17倍台まで低下した日経平均採用銘柄の予想PERのように割安感を示す指標がだいぶ増えてきたからなのではないでしょうか。そんな中で投資信託の注目度が大きく低下していることは気掛かりです。ただ、ETFも低下しているところをみると、ほとんどの投資信託が何らかのインデックスをベンチマークとすることもあり、強気で見られるインデックスがないということを言い換えているようい思います。過去も傾向として投資信託とETFは同じ方向性になる特徴を持っています。

「DI(Diffusion Index)」とは

景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替   DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。

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