保有していたAT&T社がスピンオフで一般口座へ払い出し?

 個人投資家の読者の方からこんな質問をいただきました。

「特定口座で保有していたAT&T社がスピンオフにより、一般口座に払い出されてしまいました。どうすればよいでしょうか?」

 最近は日本株のみならず米国株に投資している個人投資家も増えており、AT&T社は有名企業で高配当銘柄でもありますから、実際に投資して保有している方も多かったようです。

 そもそもスピンオフとは何か? そして一般口座に払い出された持ち株はどうすればよいのか?

 今回はこの点について税制面を中心に考えてみたいと思います。

スピンオフとはいったい何か?

 そもそもスピンオフとは何でしょうか? スピンオフとは、「企業が特定の事業を切り離して新会社として独立させること」を言います。

 今回のAT&T社の場合、今年3月、メディア事業のMagallanes社をスピンオフして米国の娯楽番組放送会社であるDiscovery社と併合させ、Warner Bros. Discovery社(以下「WBD社」)とすることを発表しました。

 そして、それに伴いAT&Tの株主には、保有株式1株につきWBD社の株式0.24株を交付分配することとなりました。

 ただし、証券会社の特定口座では、税計算上スピンオフに対応していないため、株主に交付される新会社の株式のみならず、スピンオフを行った会社の株式までもが一般口座に払い出されてしまうことになります。

AT&T株は保有していた口座ごとに取り扱いが異なる

(以下は楽天証券の場合の取り扱いです)

 スピンオフによりAT&T株を保有している株主が取得することとなったWBD株については、一般口座に入ります。

 一方、保有しているAT&T株は、保有していた口座ごとに取り扱いが異なります。

 もともと一般口座で保有していた場合は、一般口座のままで変更ありません。

 もともと特定口座で保有していた場合は、特定口座から払い出され、一般口座へ移ることになります。

 そしてもともとNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で保有していた場合は、そのままNISA口座で保有することができます。

 まとめると、NISA口座の場合はNISA口座のままで保有できるが、それ以外の口座の場合は一般口座で保有することとなります。

 なお、このあたりの対応は証券会社により異なりますので、詳細はお使いの証券会社にお問い合わせください。

一般口座へ移された株の税務上の扱いは?

 では、一般口座へ移された株の税務上の扱いはどのようになるでしょうか。

 一般口座へ移された株の配当金については、特定口座の時と同様源泉徴収されます。また、源泉徴収ありの特定口座かつ、株式数比例配分方式を選択している場合、一般口座からの配当金についても、証券会社が自動で特定口座内の譲渡損益と損益通算してくれます。

 また、保有株を売却した場合、自身で税計算を行い、必要であれば確定申告をご自身で行う必要があります。特定口座のように証券会社が税計算・申告を代行してはくれませんので注意が必要です。

 ネット上での口座管理画面では、AT&T株を特定口座で保有していた場合、一般口座へ払い出し後、取得単価が「ゼロ円」となっている証券会社が多いようです。

 しかし、実際のところ取得単価はゼロ円ではありませんので、証券会社から郵送される特定口座払出通知書に記載されている取得単価をしっかり記録・保管しておくようにしましょう。

 この取得単価が分からなくなると、保有株を売却した際、みなし取得費の特例を使う必要があり、その結果多くの税金を支払わなければならなくなってしまう恐れがあります。

 また、割り当てられたWBD株の扱いについては、どの証券会社も明確な記載はありませんが、おそらく配当所得(みなし配当)として課税対象となると考えられます。

 そして、源泉徴収はされていませんので、給与所得以外の所得が20万円以内の方など、確定申告が不要な方を除き、ご自身で配当所得として申告が必要となるものと考えます。

 WBD株の取得価格は、「割り当て株数×株価」で計算すればよいと思います。

スピンオフの税金・まとめ

 以上をまとめると、スピンオフがあった株の税金は次のようにまとめることができます。

配当金

 スピンオフの元株も、交付された新株も源泉徴収された後の残額が入金される。スピンオフにより変更となる事項はない。

 ただし交付された新株そのものはみなし配当として配当所得課税がなされる。源泉徴収がされていないため、自身で申告をする必要がある。

譲渡損益(売却損益)

 一般口座での取り扱いになるため、「取得価格」をしっかり記録しておく必要がある。

 今回のAT&T株では、元株を特定口座で保有していた場合の取得価格は一般口座でもそれを引き継ぐ。

 交付されたWBD株については交付時の株価×株数が取得価格になると考えられる。

 なお、本コラムの記載内容に従って行動した結果不利益を被った場合でも、筆者は一切責任を負いませんので何卒ご了承ください。

 これらの税金の取り扱いについてははっきりしない点も多いため、税務署・税理士に相談の上対応されることをお勧めします。