2.半導体デバイスセクターの動向-先端半導体需要は活発だが、汎用半導体は上海ロックダウンの影響を受けた模様-
先週の楽天証券投資weekly6月17日号「アメリカの金融政策と半導体関連株の今後―大幅利上げ後の半導体関連株に対して、短期ではキャッシュポジション引き上げも、中長期では買い場を探したい―」において、私は足元の半導体需要は好調と書きましたが、これは先端半導体についてです。TSMCの2022年5月売上高は前年比65.3%増と過去最高を更新しました。
一方で、汎用半導体(おおむね10~20ナノ台から昔の微細化世代)については、地域によっては需要が鈍化しています。
表2は、WSTS(世界半導体市場統計)が公表している世界半導体出荷金額(単月)の2022年4月までの動きを見たものです。2022年4月の世界半導体出荷金額(単月)は、478.95億ドル(前年比11.8%増、前月比12.2%減)となりました。2022年3月の前年比23.1%増から鈍化しました。向け先地域別に見ると、欧州が2022年3月前年比23.1%増から2022年4月同6.0%増へ鈍化、半導体の最大需要地であるアジア・太平洋が同16.6%増から同5.9%増へ鈍化しています。一方で、南北アメリカと日本は鈍化していません。
欧州とアジア・太平洋の需要鈍化は、少なくとも4月については理由がはっきりしていると思われます。欧州の鈍化はウクライナ戦争とエネルギー価格上昇による景気悪化と自動車用部品の不足による生産停滞など、アジア・太平洋の鈍化は上海のロックダウンによるものと思われます。中国と東南アジアは半導体とそのユーザー工場のサプライチェーンがつながっているので、半導体需要が同じ方向に動く傾向があるのです。
ウクライナ危機は長期化する可能性があるため、欧州の半導体需要の減速も長期化する懸念があります。ただし、欧州の半導体需要は規模が小さく、通信、コンピュータ系産業よりも自動車、産業機器などの伝統的産業が多いため、先端半導体よりも汎用半導体の需要が多く、半導体市場全体に欧州が与える影響は軽微と思われます。
一方で、アジア・太平洋向け半導体出荷金額の鈍化については、新型コロナの感染拡大に伴う上海ロックダウンが3月28日から5月31日まで続いたため、5月も4月同様アジア・太平洋向け半導体出荷の前年比は鈍化が続くと思われます。ただし、アメリカの利上げがアメリカ経済の鈍化につながるのが今後(来年?)になるのであれば、6月のアジア・太平洋向け前年比は回復するはずです。
ただし、アメリカの利上げと株価下落が続いている中では、実際に6月の世界半導体出荷金額の数字を見るまでは安心できないという考え方もあると思います。6月の世界半導体出荷金額(単月)が公表されるのは8月になるため、7月から8月にかけて実施される2022年4-6月期、5-7月期の半導体デバイスメーカーの決算発表と経営者のコメントが注目されるところです。特に、最先端半導体の生産販売を行っているTSMC、インテル、AMD、エヌビディアの決算や、汎用半導体(汎用ロジック半導体)のテキサス・インスツルメンツ、オン・セミコンダクターの決算に注目したいと思います。
また、DRAMのスポット市況と大口価格が下落しています。パソコン、スマートフォンの需要鈍化に加え、一部のサーバー向けでもDRAM需要が鈍化しているという観測があります。メモリの中でもDRAM価格は半導体景気をある程度表すと思われます。6月30日発表のDRAM大手、マイクロン・テクノロジーの2022年8月期3Q(2022年3-5月期)決算発表に注目したいと思います。
グラフ6 世界半導体出荷金額(3カ月移動平均)
表2 世界半導体出荷金額(単月)
グラフ7 TSMCの月次売上高
グラフ8 DRAMのスポット市況
グラフ9 DRAMの市況
グラフ10 NAND型フラッシュメモリの市況(2017年5月29日から)
3.日本製半導体製造装置販売高は、2022年4、5月に鈍化。一時的なものか
グラフ11、表3は日本製半導体製造装置販売高の2022年5月までの推移を表したものです。2022年3月は前年比30.8%増だったものが、4月同8.6%増、5月同0.8%増と前年比での伸びが止まった状態になっています。ただし、販売高の水準は高水準です。上海のロックダウンで、中国向けの半導体製造装置出荷が停滞したこと、メーカーにもよると思われますが、部品不足で生産が停滞した可能性などが考えられます。
6月の数字は日本半導体製造装置協会から7月26日に公表されます。また、7月中旬から8月上旬にかけて有力半導体製造装置メーカー、(決算発表日順に)ASMLホールディング、ディスコ、アドバンテスト、KLAコーポレーション、レーザーテックなどの2022年4-6月期決算が相次いで発表されます(東京エレクトロンは発表日不明)。TSMC、インテル、サムスンの設備投資動向もこれら3社の決算発表の中で公表されると思われます。
従って、7月から8月上旬にかけて半導体設備投資の動向が改めて明らかになると思われます。大手半導体メーカーの半導体設備投資が下方修正されないのであれば、日本製半導体製造装置販売高は、6月以降は再び高い伸びに戻ると思われます。
グラフ11 日本製半導体製造装置販売高(3カ月移動平均)
表3 日本製、北米製半導体製造装置の販売高(3カ月移動平均)
4.今の軟調な半導体関連株相場は、決算発表が転機となるか
半導体セクターは依然として高い成長性を持っています。これは、経済、社会の隅々に先端、汎用、各々の半導体が数多く装着され、それらが定期的にグレードアップされることによります。10~20年前はパソコンや携帯電話など特定の製品にのみ高性能半導体が装着されていましたが、特にこの5~10年で高性能半導体が装着され、定期的にグレードアップされる分野が増えました。
7月のスケジュールを見ると、7月13日に6月のアメリカ消費者物価指数が公表されます。FOMC(米連邦公開市場委員会)は7月26、27日になります(表1)。この過程で、表4のように半導体デバイス、半導体製造装置と半導体の大口ユーザーであるアメリカ大手ITの決算が相次いで発表される予定です。
従って、7月が半導体関連株にとって重要な転機となる可能性があります。私は株価が上昇する転機となる可能性があると考えていますが、これは足元のファンダメンタルズから見てPERに割安感が強くなっており、下げ過ぎた銘柄がでていると考えられるためです(表5)。例えば、足元ではエヌビディア、ASMLホールディング、シノプシスなど、このセクターを代表する銘柄の株価が徐々に上昇しています。
しかし、半導体関連各社の決算の中身やアメリカの金融政策と金融市場の動きによっては、半導体関連株が再度下落する可能性や、株価が横ばいで推移する可能性もありうると思われます。当面は、6月30日のマイクロン・テクノロジーの決算発表から始まる各社の決算に注意しつつ、半導体関連株の買い場を探したいと思います。
また、このような難しい局面では、注目企業は一部の人気企業に絞りたいと思います。決算に注意すべき企業としては、TSMC、インテル、AMD、エヌビディア、オン・セミコンダクター、ASMLホールディング、シノプシス、東京エレクトロン、レーザーテックなど、買い場を探したい企業としては、これらの企業群からTSMCとインテルを除く、AMD、エヌビディア、オン・セミコンダクター、ASMLホールディング、シノプシス、東京エレクトロン、レーザーテックなどです。
なお、前回レポートでも指摘しましたが、日本株の東京エレクトロン、レーザーテックは、最低投資金額が大きいため、資金力がない場合は株価が安値圏にある時に投資する際に有効な小口投資による時間分散ができません。その場合は、アメリカ株中心に投資するほうが、分散効果が発揮されやすいと思われます。
表4 2022年4-6月期、5-7月期決算発表スケジュール
表5 半導体関連株の業績とPER、PEG
本レポートに掲載した銘柄:エヌビディア(NVDA、NASDAQ)、AMD(AMD、NASDAQ)、オン・セミコンダクター(ON、NASDAQ)、ASMLホールディング(ASML、NASDAQ)、シノプシス(SNPS、NASDAQ)、東京エレクトロン(8035)、レーザーテック(6920)