現下のガソリン価格と地政学的情勢を鑑みれば、ガソリン車でパラジウムの代わりにプラチナを使うのはコスト的にも戦略的にも非常に合理的な選択である。新しい車種で代替が行われれば、自動車メーカーは年間6.71億ドルから11.18億ドルも節約でき、プラチナ需要は年間15.9トンから26.5トン増える。需要の増加量が上限に近ければ、市場はプラチナの供給不足となりうる。 

 パラジウムは2020年の初めからプラチナに対して平均1,300ドル/oz以上のプレミアムで取引されており、ロシアに対する制裁の発動でプレミアムは最高2,014ドル/oz に達した。コスト面だけでも、ガソリン車の浄化触媒装置のパラジウムをプラチナで代替する動きを加速するに足りる。既に使われている車で代替を行うのは限界がありコストもかかるが、新しい車種で、排ガス規制承認前にプラチナとパラジウムを1対1の割合で代替を行うことは非常に容易である。 

 プラチナに代えることが経済的にも有利であることは、2018年にパラジウム価格がプラチナ価格を超えた時点から明らかで、さらにプラチナとニッケル生産の副産物であるパラジウムの、安定供給の面からもなおさらである。さらにロシアのウクライナ軍事侵攻に対するロシアへの制裁によって、代替の正当性はさらに強まった。世界のパラジウムの38%を生産するノリリスクニッケルは今は制裁の対象になっておらず、鉱山生産物の輸出を続けているが、ロシアが軍事侵攻を継続すれば、制裁対象となる可能性もある。それに加えロシアの戦争に反対する国々の会社がロシア産の原料を買うべきかという問題も考えなければならない。

新しい車種でパラジウムの代わりにプラチナを使うことは、経済的かつ、ロシア産原料を避けるという大きなインセンティブがある

資料:メタルズフォーカス、WPICリサーチ、ブルームバーグ *2020年1月からの平均

パラジウムはプラチナに対し今も1,311ドル/ozのプレミアムで取引されている*

資料:WPICリサーチ、ブルームバーグ *2020年1月からの平均

 我々は、ガソリン車に使われているパラジウムの75%までは、熱安定性を損なうことなくプラチナで代替できると考える。しかしここで提示する二つのシナリオは保守的なもので、年間の自動車販売のうち20%の新しい車種で、パラジウムの30%、あるいは50%をプラチナで代替した場合のものとなる。2022年の全車両クラスのガソリン車の生産台数、5,900万台をベースにすると、自動車メーカーは6.71億ドルから11.18億ドルの節約が可能となる。プラチナ需要は年間15.9トンから26.5トンの増加となり、26.5トン増えれば市場は供給不足に転じる(図6)。節約額が最大となるのは中国、次にその他の地域で、欧州はガソリン車の割合が少ないため最も少ない。自動車メーカーには代替に関するデータを開示する義務がないため、現在既に行われている代替や今後それが増えることを証明する直接的なデータを提示することは難しい。我々にできることはコスト的、戦略的にプラチナで代替することは合理的であると強調することだけだ。さらにこのシナリオは、2022年以前に販売された車種で行われたと考えられる代替は含まれていない。

 新たな車種のガソリン車で、パラジウムの代わりにプラチナを使うことはコスト、戦略面から合理的

 パラジウムの30%をプラチナで代替すれば、自動車業界は年間6.71億ドルの節約、プラチナ需要は15.9トンの増加

 パラジウムの50%をプラチナで代替すれば、自動車業界は年間11.18億ドルの節約、プラチナ需要は26.5トン増加し、市場はプラチナの供給不足に

投資資産としてのプラチナの魅力

- 新たな金属鉱山への投資にもかかわらず、向こう3年間の供給は大幅に制限されている。
- プラチナ価格は依然として過小評価されており、金とパラジウムと比較しても大幅に低い。
- 自動車のPGM需要は排ガス規制の厳格化により今後も成長。
- プラチナとパラジウム市場の需給バランスと価格のミスマッチが代替としてのプラチナ需要を加速。
- 機関投資家需要は2年続いた歴史的高水準から若干弱まっているが価格とファンダメンタルズは依然として良好。

図1:パラジウムとプラチナの価格差が1対1の割合でプラチナを代替として使うことの合理性を示しているだけでなく…

資料:WPICリサーチ、ブルームバーグ

図2:パラジウムの大半がロシア産であることから、安定供給の面からもプラチナで代替することに戦略的合理性がある

資料:メタルズフォーカス、WPICリサーチ

図3:年間約1,200万台に上る新たな車種が、容易に代替を導入できる対象

資料:WPICリサーチ

図4:ガソリン車でパラジウムの30%あるいは50%をプラチナで代替すれば、プラチナ需要は15.9トンあるいは26.5トンの増加

資料:WPICリサーチ

図5:自動車メーカーが年間節約できる額は30%の代替で6.71億ドル、50%の代替で11.18億ドルに

資料:WPICリサーチ

図6:新しい車種で、50%の代替率が実現するだけで2022年のプラチナ市場は供給不足に転じる

資料:メタルズフォーカス、WPICリサーチ

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