新常識:「脱炭素」起因の需要が増加する

ウクライナ危機で「脱炭素」加速

「古い常識」と共存しつつある「新しい常識」とは、いったい何でしょうか。「脱炭素」起因で、プラチナの新しい需要が生まれ、需要全体が増加していくことです。

 目下、人類共通の壮大な課題に「環境配慮」が掲げられ、それを実現する策である「脱炭素」が世界規模の潮流になっています。

 ウクライナ情勢が悪化する中、ロシアからの供給が著しく減少する懸念があり、化石燃料(石炭、石油、天然ガス)の需要と供給のバランスは、不安定化しています。化石燃料に頼る社会ほど、ロシアからの供給が途絶えることに危機感が強まります。

 とはいえ、今回のウクライナ危機をきっかけに、化石燃料を使わない社会作りが本格化する可能性もあります。「真の脱ロシア」は、そもそも化石燃料を使わなくなることであるためです。

 このように考えれば、ウクライナ危機が、人類共通の壮大な課題「環境配慮」を推し進めるために必要な「脱炭素」の流れを加速させる可能性が浮上します。

「脱炭素」を目指す上で、「水素社会」を目指すことが有用であると言われています。昨年のCOP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議 英国グラスゴーで開催)を機に、日本や欧州でこうした議論が加速しました。

 水素は無色透明ですが、どのような過程を経て生成されたのかを便宜的に示すため、色分けされています。大別すると、グリーン水素、ブルー水素、グレー水素の3つです。

図:便宜上、色分けされる水素

出所:筆者作成

 グリーン水素は、精製過程で温室効果ガス(二酸化炭素など)を排出しなかった水素、ブルー水素は、精製過程で温室効果ガスを排出したものの、その温室効果ガスが回収されたとみなされた水素、グレー水素は、精製過程で発生した温室効果ガスを大気中に排出した水素です。

プラチナが水素技術に貢献

「グリーン水素」の精製に、プラチナが一役買います。精製装置の電極部分にプラチナが用いられるケースがあります。原理は「水の電気分解」です。

 水の電気分解は、中学の理科の実験の記憶がある方もいらっしゃると思います。水をH型試験管(H字管)に満たし、電極部分に電流を流し、陰極から水素、陽極から酸素を発生させます(電気を通しやすくするため、水に少量の水酸化ナトリウムを混ぜる)。

 化学反応式は「2H2O→2H2+O2」です。水(H2O)を水素(H)と酸素(O2)に分解するわけですが、このH型試験管の電極部分にプラチナが用いられるケースがあります(ニッケル、ステンレスなどの場合もある)。

 用いる電力が再生可能エネルギー(風力、地熱、原子力など)由来の電力である場合、精製された水素は「グリーン水素」となります。

 色分けされた3つの水素のうち、世界共通の課題である「環境配慮」を実現し、「真の脱ロシア」を達成に導き得る水素は「グリーン水素」に他ならないでしょう。ブルー水素は精製時に発生する温室効果ガスの回収が万全かを担保する仕組みや、回収後の同ガスをどのように扱うのかが課題です。

 また、プラチナが「脱炭素」に貢献するのは「グリーン水素」の精製だけではありません。水の電気分解の逆の原理で、充填(じゅうてん)した水素と大気中の酸素で発電し、その電気で自動車が走ります。「燃料電池車」です。燃料電池車の発電装置の電極部分にもプラチナが用いられるケースがあります。

図:プラチナの「新しい常識」

出所:筆者作成

 WPICは、水素技術向けのプラチナ需要が増加することで、2035年までにプラチナの全需要は1.3倍強になると予想しています(増加予想93.3トン。足元の需要248.9トン)。

 プラチナは、人類共通の後戻りしない「環境配慮」に水素技術で貢献し得ます。ウクライナ危機で、「真の脱ロシア」を目指す動きが強まっていることもあり、今後ますます、プラチナの「脱炭素」起因の需要が増加する可能性があります。プラチナの「新しい常識」が芽生えつつ、あるわけです。