「プラチナ婚」もあり得る。節目でプラチナが登場
人生の節目に「プラチナ」登場
今回は、人生と「プラチナ」の関わりについて、書きます。先週、新社会人になられた皆さまはもちろん、ベテラン社会人の皆さまにも関わる話です。皆さま、最後までどうぞ、お読みください。
価値観が年々多様化しているため、個人のライフサイクルは、以前ほどシンプルに示すことができなくなっていますが、ここでは、社会人デビュー後のライフサイクルを、就職をし、結婚をし、家を持ち、子育てをし、退職し、老後を過ごし、生涯を終えることを想定します。
こうしたサイクルにおいて、仕事や趣味が充実してくれば、さまざまな場面で登録する会員制度において、ゴールド会員よりもランクが上の場合が多い「プラチナ会員」になることがあるでしょう。また、結婚をしてから数十年が経過し、金婚式よりも年数が長い「プラチナ婚式」を迎えることもあるでしょう。
婚姻の際、「プラチナ製の結婚指輪」を贈り合ったり、何かの節目に、自分を飾る・誰かへ贈るものとして「プラチナ製の宝飾品」を購入したりすることもあるでしょう。また、長期視点で、「プラチナ積立」を行い、自身や家族の資産を殖やすこともあるでしょう。
このように、「プラチナ」は人生の節目に、しばしば登場し得るのです。
図:人生の節目に登場するプラチナ
プラチナを単なる金属と思うことなかれ
余談ですが、筆者の娘(この4月から高校2年)に「プラチナ」と聞いて何を連想するか? と問うたところ、とりあえず金属、化学の授業でイオン化しにくい性質を持つことを習った、などの返答がありました。
会話の流れで、授業で使っている元素の周期表を見せてもらうと、「Pt」の日本語表記は、プラチナではなく「白金」でした。もしかしたら、白金とプラチナが同じものだということを知らなかったのではないか? と、心配にすらなりました。高校の授業ではプラチナは「白金」であり、単なる金属でしかないわけです。
なんともったいないことでしょう。プラチナの魅力をあまりにも知らなさすぎます。(いずれ社会人になる娘を含め)たくさんの新社会人の皆さまやベテラン社会人の皆さまに、世の中に浸透しきっていないプラチナの魅力を伝えたい、という思いを強くしました。
魅力を確認する上でまずは、「プラチナ」に関わる「古い常識」と「新しい常識」を確認します。
古い常識:触媒需要は急減する
まことしやかに語られた触媒消費急減→価格暴落説
プラチナの魅力を知るためには、「プラチナ」に関わる常識が変化しつつあることに注目しなければなりません。「古い常識」の衰退がはじまり、「新しい常識」が芽生えつつあるためです。以下は環境の変化を確認する上で重要な、プラチナの全需要の内訳です。
図:プラチナの需要内訳(2020年)
プラチナと聞くと「宝飾品」や「輝く高価なもの」という言葉を思い浮かべる人は少なくありません。特に日本人にそのような傾向があると言われています。ですが、世界全体で見ると、自動車の排ガス浄化装置向け需要を含む産業用需要が、全需要の半分以上を占めています。
プラチナには、自分の性質を変えずに相手の性質を変える、「触媒作用」があります。排ガス浄化はこの作用を用いています。
自動車の内燃機関(エンジン)と消音器(マフラー)の間に、筒状の排ガス浄化装置が設置されており、この中を排ガスが通過します。装置の中にはプラチナなどの触媒作用を持つ貴金属が、ハチの巣状の型の表面に薄く塗布してあり、高温の環境下で、通過する排ガス内に含まれる有害物質を水などに変えています。
「古い常識」は、自動車排ガス浄化装置向け需要と深く関わっています。
「古い常識」は市場や資産運用に限らず、身の回りのどの分野においても存在するものですが、ことさら、プラチナにおいてはその存在が際立っています。「2015年の問題発覚がきっかけで、排ガス浄化装置向け需要が激減して価格が暴落する」という話が、まことしやかに語られました。
2015年の問題発覚とは、同年9月に米国の政府機関が、ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン社が違法な装置を使い、排ガス浄化テストを潜り抜けていた問題を明るみにしたことです。
多くの人々は、この問題発覚がプラチナの主要な需要である自動車排ガス浄化装置向け需要を急減させ、その需要急減がプラチナ価格を急落させる、と考えました。
こうした経緯を経て、問題発覚→ディーゼル車の信用が失墜→同車の排ガス浄化装置に使われるプラチナ需要急減→プラチナ価格急落、という「古い常識」が生まれたのです。
実際に、問題発覚を機に、プラチナ相場は長期低迷を強いられました。
図:プラチナの「古い常識」
触媒向け需要は急減していなかった
しかし、以下の図のとおり、プラチナの全需要に占める自動車排ガス浄化装置向け需要は、急減していません。問題発覚直後の2016年、2017年は逆に増加しています。2018年と2019年は緩やかに減少しましたが、「古い常識」によって語られた急減は起きていません。
2020年の減少は、新型コロナのパンデミック化により世界的に自動車の需要が減少したためですが、2021年は回復、2022年はさらに回復することが見通されています(World Platinum Investment Councilの見通し)。
図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移 単位:千オンス
自動車排ガス浄化装置向け需要が急減していないにもかかわらず「急減する」と言われてきた2015年以降、プラチナ相場は、「古い常識」起因の下落圧力にさらされ、リーマンショック直後の安値水準を這いつくばるように、推移してきました。
「古い常識」が台頭し、プラチナ相場は辛酸をなめてきたわけですが、統計では、プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の動向がプラチナ相場の足かせになる理由はほとんどなかったわけです。本当の足かせは「古い常識」起因の風評被害だったのかもしれません。
以下の通り、自動車1台あたりに使われる排ガス浄化装置向けの貴金属の量(プラチナ、パラジウム、ロジウムの合計 筆者推計)は、年々増加傾向にあります。自動車の生産台数が減少したり、環境配慮に適合した次世代車(燃料電池車や電気自動車など)が注目を集めたりしても、増加傾向にあります。
自動車会社や部品を製造する会社が、世の中の排ガス規制の厳格化に対応すべく、排ガス浄化装置の有害物質を除去する性能を向上させ続けていることが要因であると、考えられます。
図:自動車1台あたりの排ガス浄化装置向け貴金属の量(筆者推定) 単位:グラム
自動車の生産台数が減少したからといって、必ずしも、排ガス浄化装置向けの貴金属の需要が減少するとは限らないのです(「古い常識」にとらわれた人は、この考え方が欠けていた可能性がある)。
新常識:「脱炭素」起因の需要が増加する
ウクライナ危機で「脱炭素」加速
「古い常識」と共存しつつある「新しい常識」とは、いったい何でしょうか。「脱炭素」起因で、プラチナの新しい需要が生まれ、需要全体が増加していくことです。
目下、人類共通の壮大な課題に「環境配慮」が掲げられ、それを実現する策である「脱炭素」が世界規模の潮流になっています。
ウクライナ情勢が悪化する中、ロシアからの供給が著しく減少する懸念があり、化石燃料(石炭、石油、天然ガス)の需要と供給のバランスは、不安定化しています。化石燃料に頼る社会ほど、ロシアからの供給が途絶えることに危機感が強まります。
とはいえ、今回のウクライナ危機をきっかけに、化石燃料を使わない社会作りが本格化する可能性もあります。「真の脱ロシア」は、そもそも化石燃料を使わなくなることであるためです。
このように考えれば、ウクライナ危機が、人類共通の壮大な課題「環境配慮」を推し進めるために必要な「脱炭素」の流れを加速させる可能性が浮上します。
「脱炭素」を目指す上で、「水素社会」を目指すことが有用であると言われています。昨年のCOP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議 英国グラスゴーで開催)を機に、日本や欧州でこうした議論が加速しました。
水素は無色透明ですが、どのような過程を経て生成されたのかを便宜的に示すため、色分けされています。大別すると、グリーン水素、ブルー水素、グレー水素の3つです。
図:便宜上、色分けされる水素
グリーン水素は、精製過程で温室効果ガス(二酸化炭素など)を排出しなかった水素、ブルー水素は、精製過程で温室効果ガスを排出したものの、その温室効果ガスが回収されたとみなされた水素、グレー水素は、精製過程で発生した温室効果ガスを大気中に排出した水素です。
プラチナが水素技術に貢献
「グリーン水素」の精製に、プラチナが一役買います。精製装置の電極部分にプラチナが用いられるケースがあります。原理は「水の電気分解」です。
水の電気分解は、中学の理科の実験の記憶がある方もいらっしゃると思います。水をH型試験管(H字管)に満たし、電極部分に電流を流し、陰極から水素、陽極から酸素を発生させます(電気を通しやすくするため、水に少量の水酸化ナトリウムを混ぜる)。
化学反応式は「2H2O→2H2+O2」です。水(H2O)を水素(H)と酸素(O2)に分解するわけですが、このH型試験管の電極部分にプラチナが用いられるケースがあります(ニッケル、ステンレスなどの場合もある)。
用いる電力が再生可能エネルギー(風力、地熱、原子力など)由来の電力である場合、精製された水素は「グリーン水素」となります。
色分けされた3つの水素のうち、世界共通の課題である「環境配慮」を実現し、「真の脱ロシア」を達成に導き得る水素は「グリーン水素」に他ならないでしょう。ブルー水素は精製時に発生する温室効果ガスの回収が万全かを担保する仕組みや、回収後の同ガスをどのように扱うのかが課題です。
また、プラチナが「脱炭素」に貢献するのは「グリーン水素」の精製だけではありません。水の電気分解の逆の原理で、充填(じゅうてん)した水素と大気中の酸素で発電し、その電気で自動車が走ります。「燃料電池車」です。燃料電池車の発電装置の電極部分にもプラチナが用いられるケースがあります。
図:プラチナの「新しい常識」
WPICは、水素技術向けのプラチナ需要が増加することで、2035年までにプラチナの全需要は1.3倍強になると予想しています(増加予想93.3トン。足元の需要248.9トン)。
プラチナは、人類共通の後戻りしない「環境配慮」に水素技術で貢献し得ます。ウクライナ危機で、「真の脱ロシア」を目指す動きが強まっていることもあり、今後ますます、プラチナの「脱炭素」起因の需要が増加する可能性があります。プラチナの「新しい常識」が芽生えつつ、あるわけです。
超長期の積立投資になじむのがプラチナ
ここまで、「古い常識」の衰退がはじまり、「新しい常識」が芽生えつつある、プラチナを取り巻く環境の変化を確認しました。こうした環境の変化は、プラチナ相場を超長期的視点で、上昇に導く可能性があると、筆者は考えています。
図:プラチナ価格(税抜)の推移と今後のイメージ3パターン 単位:円/グラム
「新しい常識」は、いずれ本流になると考えていますが、現時点で、そのタイミングを見定めることが困難でしょう。まだまだ「古い常識」が市場を支配する可能性もあります。このため、30年先の2052年をいったんのゴールとし、現在の価格であるおよそ4,000円/グラムを起点に、3つの超長期的な上昇パターンを描いてみました。
仮に、この超長期的上昇局面を、シンプルで人気がある手法である「プラチナ積立」で活用した場合、資産の額は以下のように推移します(毎月1万円を積立てた場合。売買手数料は当社のルールに準じ、買付け時に1.65%(税込)を適用)。
投資額は合計360万円(1万円×360カ月)でした。2052年3月で決済した最終的な損益は、パターン1が+69万円、パターン2が+71万円、パターン3が+76万円でした。積立投資は「保有数量」と「最終的な価格」によって損益が大きく変動することが、わかります(価格だけが重要事項ではない)。
図:3パターンの損益推移 単位:円
パターン2やパターン3は、最終的に、順調に価格が上昇したパターン1を上回る利益を出しました。積立を開始した後、価格が横ばいでも価格が下落しても、最終的に価格が一定程度上昇していれば利益をあげることができます。パターン3が示す通り、取引開始の価格水準に回復していなくとも、です。
価格が今、急上昇している銘柄は耳目をひくため、心理的に手掛けやすいかもしれません。しかし、こと積立投資の場合、最終的に価格上昇が起きるのであれば、取引期間中の価格下落は「保有数量を増やす要因」となるため、歓迎される要素と言えます。
「今は上昇しない、今後上昇しそう」という値動きは、「古い常識」に支配されて上昇しない傾向が続いているものの、「新しい常識」によって今後上昇しそう、というこれからのプラチナの環境そのものと言えるでしょう。
これからのプラチナは、他の急上昇している銘柄に比べて、積立投資に適している可能性が高いと言えるでしょう。
プラチナと「大器晩成」を目指す楽しさ
「古い常識」の衰退のはじまりと「新しい常識」の芽生え、というプラチナの環境を確認した上で、それらから想定される値動きを積立投資に用いる有用性について、述べました。
本レポートを書きながら感じたことは、「プラチナ積立は大器晩成型なのではないか?」ということです。今のプラチナは、イケイケで上昇している華々しい銘柄と一線を画す、目立たない、暗い存在に見えるかもしれません。
しかし、20年後、25年後に、「新しい常識」に支えられて価格が大きく上昇した場合、それまで「古い常識」によってもたらされた苦労や強いられた我慢(価格低迷=保有数量増加)が、豊かな果実となって返ってくるわけです。まさに「大器晩成」と言えるでしょう。
図:プラチナ積立の意義「大器晩成」の体現
激動の世の中を本格的に歩み始めた新社会人の皆さんは特に、今すぐに成功することよりも、超長期的な人生のイメージを持つようにするとよいと筆者は思います。力をためていた時間が長ければ長い程、数十年後に飛び跳ねた時、その高さは大きくなると思うからです。
冒頭で述べたとおり、プラチナはさまざまな場面で人生をともにしてくれます(プラチナ会員、プラチナの宝飾品、プラチナ婚など)。とりわけ、これからの「プラチナ積立」は「大器晩成」を実現できる可能性があるため、皆さんの人生の「大器晩成」と歩調が合う可能性があります。
新社会人の皆さんもプラチナも、目先は忍耐や我慢が必要かもしれませんが、数十年後、ともに、きっと華やかな世界にいると、筆者は思います。積立をしながらプラチナと一緒に苦楽をともにする(プラチナを人生のお供にする)ような感覚で、プラチナ積立をご検討いただいては、いかがでしょうか。
[参考]プラチナに関わる具体的な投資商品例
純金積立・スポット購入
国内ETF
1541 純プラチナ上場信託
1682 NF日経・JPX白金指数連動型
国内商品先物
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