ウクライナ危機が緩和する期待がほんの少しだけ出た

 先週の世界的な株高のもう1つの背景に、ウクライナの停戦交渉が進展する期待があります。現状、ウクライナとロシアの主張の隔たりが大きすぎて、停戦が実現するメドはまったくありません。それでも、徐々に歩み寄りも見られます。

 ウクライナのゼレンスキー大統領はNATO(北大西洋条約機構)加盟を目指していたほか、2月末にはEU(欧州連合)への加盟申請を行いました。しかし、3月15日にはゼレンスキー大統領がNATO加盟を断念する発言を行い、翌16日には、ロシア側も「ウクライナがNATO加盟を断念して中立化すれば妥協が可能だ」としました。停戦協議が少しだけ前進する可能性があります。

 その背景にあるのが、ロシア側も苦境に陥(おちい)っていて、停戦を求めざるを得なくなってきているとの見方です。3つの可能性が考えられています。

【1】ロシアへの経済制裁がロシア経済に大きなダメージを与えている。
【2】SNSを通じてウクライナでのロシア軍の非人道的行為が世界に拡散、世界中からロシアに非難が集中。ロシア国内からも反戦の声が出つつある。
【3】ロシア軍の損害も拡大。物資補給に困難が生じつつある。

 ただし、事態は予断を許しません。これからウクライナで起こることを予測するのは不可能です。そこで、最悪シナリオと最善シナリオを考えてみました。

【最悪シナリオ】
 ロシアによるウクライナでの戦争が1年以上継続。NATOとロシアの軍事的緊張がさらに高まる。対ロシア制裁でロシアだけでなく、制裁する欧州や日本などの経済にもダメージが大きく、ウクライナ危機を発端として世界的な景気後退期に入る。

【最善シナリオ】
 ロシア国内でウクライナ侵攻への批判が高まり、プーチン大統領が失脚して停戦が実現する。ロシアは国際社会に謝罪し、欧米日本による対ロ制裁の多くが解除される。ウクライナ危機が去り、世界景気は好調を維持する。

 これからのウクライナ情勢が、最悪・最善のどちらに近い方向で進むか、慎重に事態の推移を見守る必要があります。