世界株高を受け、日経平均も急反発
先週の日経平均株価は急反発、1週間で1,664円(6.6%)上昇して2万6,827円となりました。ウクライナ危機&インフレ・ショックに緩和の兆(きざ)しが出たことを受け、世界的に株が急反発、日経平均先物にも外国人投資家と見られる買い戻しが入りました。
ウクライナ危機【注1】、米インフレ・ショック【注2】については、以下を参照してください。
【注1】ウクライナ危機
2月24日、ロシアがウクライナに侵攻を開始したことが、世界の株安を加速させました。米欧日本などがロシアに経済制裁を実施。これにより制裁を受けるロシア経済だけでなく、制裁する側の欧州・日本などにもダメージが大きくなりました。ロシアの主要輸出品である原油・ガス・穀物の供給不安から市況が高騰、世界のインフレを加速する懸念が高まりました。米欧日本のロシア事業停止・撤退の発表が続いていますが、それが撤退企業の巨額の損失につながるリスクも出ています。
【注2】米インフレ・ショック
米インフレ率(CPI総合指数前年比)が7.9%(2月時点)と、1970年代のオイルショック以来の高水準となったことを受けて、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融引き締めを急いでいます。金融緩和で押し上げられてきた世界の株式市場はFRBのタカ派転換を嫌気して昨年10月以降、下落していました。米長期金利が2%を超える上昇となったことを受けて、大型成長株の比率が高い米ナスダック総合指数の下落が目立ちました。
ナスダック総合、S&P500、日経平均とDAX指数の動き比較:2019年末~2022年3月18日
ウクライナ危機が緩和する期待がほんの少しだけ出た
先週の世界的な株高のもう1つの背景に、ウクライナの停戦交渉が進展する期待があります。現状、ウクライナとロシアの主張の隔たりが大きすぎて、停戦が実現するメドはまったくありません。それでも、徐々に歩み寄りも見られます。
ウクライナのゼレンスキー大統領はNATO(北大西洋条約機構)加盟を目指していたほか、2月末にはEU(欧州連合)への加盟申請を行いました。しかし、3月15日にはゼレンスキー大統領がNATO加盟を断念する発言を行い、翌16日には、ロシア側も「ウクライナがNATO加盟を断念して中立化すれば妥協が可能だ」としました。停戦協議が少しだけ前進する可能性があります。
その背景にあるのが、ロシア側も苦境に陥(おちい)っていて、停戦を求めざるを得なくなってきているとの見方です。3つの可能性が考えられています。
【1】ロシアへの経済制裁がロシア経済に大きなダメージを与えている。
【2】SNSを通じてウクライナでのロシア軍の非人道的行為が世界に拡散、世界中からロシアに非難が集中。ロシア国内からも反戦の声が出つつある。
【3】ロシア軍の損害も拡大。物資補給に困難が生じつつある。
ただし、事態は予断を許しません。これからウクライナで起こることを予測するのは不可能です。そこで、最悪シナリオと最善シナリオを考えてみました。
【最悪シナリオ】
ロシアによるウクライナでの戦争が1年以上継続。NATOとロシアの軍事的緊張がさらに高まる。対ロシア制裁でロシアだけでなく、制裁する欧州や日本などの経済にもダメージが大きく、ウクライナ危機を発端として世界的な景気後退期に入る。
【最善シナリオ】
ロシア国内でウクライナ侵攻への批判が高まり、プーチン大統領が失脚して停戦が実現する。ロシアは国際社会に謝罪し、欧米日本による対ロ制裁の多くが解除される。ウクライナ危機が去り、世界景気は好調を維持する。
これからのウクライナ情勢が、最悪・最善のどちらに近い方向で進むか、慎重に事態の推移を見守る必要があります。
FRBは0.25%利上げ、0.5%でなかったことに安堵
先週の世界株高のもう1つの背景が、米インフレ・利上げへの不安がやや緩和したことです。3月16日、FRBは0.25%の利上げを実施しました。今回を含め、年7回の利上げを行い、2022年末にはFF金利を1.875%まで引き上げる可能性を示唆しました。また、5月ころから保有資産の縮小(量的な引き締め)も始める可能性を示唆しました。
事前予想通りでサプライズはないものの「非常にタカ派的」と評されました。利上げ後、米長期(10年)金利は一時2.3%台まで上昇しました(その後2.1%台へ反落)。為替市場ではドル高(円安)が進み、一時1ドル119円台をつけました。
そうした中で、米国株も日本株も急反発しました。利上げ後に世界的に株が上がった理由は2つ考えられます。
【1】利上げ幅が0.5%ではなく、0.25%だったことが安心感を与えた
市場が恐れていたのは、米インフレを一時的と見ていたパウエルFRB議長が、金融引き締めの判断が遅れたことに焦りを感じて、一気に0.5%の利上げ行うことでした。焦りによって急激な利上げ・引き締めに動き、米景気・株式市場を一気に冷え込ませることを恐れていました。一時、3月の利上げは0.5%となるというコンセンサスが金融市場でできていました。それと比べると、今回の0.25%利上げは、慎重な判断ととれます。ウクライナ危機が加わって、世界景気に下押し圧力がかかることを考慮したとも取れます。
【2】利上げ後もしばらく、金利水準は低く金融緩和的状況が続く
利上げしたといってもFF金利はまだ0.25~0.5%、長期金利はたかだが2.2%程度にすぎません。量的な緩和をやめたばかりで、まだ当分、金融緩和的な状況が続くことには変わりありません。0.5%ずつ利上げするような急激な引き締めにならず、米景気・企業業績が好調を維持すれば、米国株は金融相場から業績相場への移行によって、上昇トレンドに復帰する可能性もあります。
米FF金利、長期金利、NYダウ推移:2004年1月~2022年3月(18日)
過去の経験則では、米景気が過熱から失速に向かい、米国株が本格的な調整に入るのは、利上げが始まった時ではありません。利上げが何回も実施されて米長短金利が逆転した後です。リーマンショック前の2006~2007年、コロナショック前の2018年に見られたことです。16日の米長期(10年)金利は、政策発表後に一時2.24%まで上昇しましたが、その後、2.2%前後で推移しています。FF金利(中央値で0.375%)とのスプレッドはまだ大きく、過去の経験則では米国株が本格的な調整に入るシグナルはありません。
7.9%まで上昇した米インフレが心配ですが、米景気が好調で長期金利のスプレッドがまだ開いた状態であることを考えると、米国株がここから大きく下落する可能性は低いと判断しています。
ウクライナ危機が世界景気を悪化させる不安が高まっていますが、米景気にとってウクライナ危機が与える影響はマイナスばかりではありません。米国は世界最大の産油国なので、原油高騰はマイナスだけではありません。穀物輸出国なので、穀物市況高騰もプラスです。米景気は減速しても好調を維持すると考えられます。
ウクライナ危機が継続する中、原油先物が急落したことは、株式市場にとってプラスとなりました。一時、1バレル=130ドルまで急騰したWTI原油先物が、一時95ドルまで急落したことが、世界的な株の反発につながりました。ウクライナ危機で原油がどんどん高騰して、第三次オイルショックが起こる懸念は低下しました。
WTI原油先物(期近)推移:2000年1月~2022年3月(18日まで)
日本株は割安で、長期投資で買い場の見方を継続
結論は毎回述べていることと同じです。日本株は割安で長期投資で良い買い場となっていると思います。短期的な下値不安はまだ完全には払しょくできませんが、時間分散しながら割安な日本株を買っていくことが、長期的な資産形成に寄与すると判断しています。
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