今回のレポートは2010年6月23日(水)のセミナー「どうやって為替相場を予測するか」の核となる損失パターンの認識と相場変動予測の話である。

筆者の「順張り(トレンドフォロー)」取引におけるメインの取引手法は、この連載で何度もとりあげている「ボリンジャーバンド1σブレイク+ADXと標準偏差ボラティリティの上昇局面」である。下のチャートは、ユーロ/ドルの日足である。筆者がポジションを持っている局面は、相場が21日のボリンジャーバンド1σを飛び出し、14日ADXとボリンジャーバンドが上昇している局面である。

ユーロ/ドル(日足)

上段:四角い枠の部分がトレンド相場
下段:21日ボリンジャーバンド1σの飛び出し局面


(出所:石原順)

この順張り手法で筆者が損をするのは黄色の枠で囲った部分で、14日ADXと26日標準偏差ボラティリティが上昇し、相場も21日のボリンジャーバンド1σを飛び出したものの、大きなトレンドに発展しなかったケースである。この損失について筆者は何の防御もしていない。相場が21日のボリンジャーバンド1σの内側に入ったら相場から撤退してしまうため、損失が比較的軽微だからである。

では、トレンドのない相場、すなわち14日ADXと26日標準偏差ボラティリティの下落局面をみてみよう。黄色の枠で囲った14日ADXと26日標準偏差ボラティリティの下落局面は、筆者の独断と偏見で「相場にトレンドはない」と決めつけている。上げては下げのランダム相場、“往って来い”的なジグザグ相場になりやすく、大きなレンジ相場が形成されやすい。この局面で相場を深追いすると、カウンターパンチでノックアウトされることが多い。

ユーロ/ドル(日足)

上段:黄色い枠の部分が方向性のない相場
下段:ランダムなレンジ相場


(出所:石原順)

相場の醍醐味はトレンドをとることであり、一番上のチャートの緑の部分で収益を上げるのが王道である。黄色の枠のトレンドがない局面では、筆者は方向性に賭ける大きなポジションをとっていない。代わりに相場の変動率(ボラティリティ)を売るか、相場が一定のレンジに収まれば儲かるポジション(オプション取引)を作っている。この黄色の枠の部分は順張りが機能しにくいので、調子に乗って大きなポジションを持つと痛い目にあうことが多い。言い換えれば、この黄枠の部分は押し目買いや戻り売りがワークしやすい局面である。

昨今のユーロ/ドル相場はトレンドが明確で組みしやすい。しかし、相場は時々異常な振る舞いを見せる。「大きなトレンド相場の後はしばらく調整が必要で、大きなトレンド相場のすぐ後に大きなトレンド相場は発生しない」というのが筆者の基本的相場認識なのであるが、これを覆すような相場が結構ある。以下のチャートはドル/円相場の日足で、2004年前半の強烈な“往って来い”相場の記録である。チャートの黄色のところで、筆者はレンジ相場を想定した商いをしていたが、円安トレンドの直後に大きな円高トレンドが発生して散々な目にあった。大きなトレンドがピークアウトしかけたあと、すぐに大きなトレンドが出る場合、筆者のトレードは大きな損を被りやすい。

ドル/円(日足)トレンドがピークアウトしたと思ったら……

トレンドの短期ダブル・ループ(こういう局面はATRも長期上昇中であることが多い)


(出所:石原順)

標準偏差ボラティリティやADXなど、筆者の相場予測の基本となっているのはボラティリティや方向性指数の推移である。この2004年のドル/円相場の損失以降、新しいポジションを取るときは、必ず「未来の価格変動が標準偏差ボラティリティやADXにどのような変動をもたらすかのシミュレーション」をおこなっている。

ここ数日、「投機筋がユーロ・ドルのダブル・ノータッチ・オプション(下限1.21・上限-1.25)の下限を狙った売りを仕掛けるのではないか?」との観測がでているユーロ/ドル相場であるが、その場合でもユーロ/ドル相場の売りトレンドは発生しないだろう。

筆者は表計算ソフト(EXCEL)のシートに、6月15日までの下げ相場を想定した滅茶苦茶(ランダム)な値段を入れている。6月4日以降のデータは仮の値段で、6月10日には1.2050まで下げることになっている。その場合でも26日標準偏差ボラティリティは上昇しない。

ユーロ/ドル(日足) 標準偏差ボラティリティの計算シートとシミュレーション


(出所:石原順)
※ 標準偏差ボラティリティの計算は、相場の終値のデータがあれば、
表計算ソフト「エクセル」のSTDEVPという関数で簡単に計算できる。
標準偏差ボラティリティの計算方法については、先週のレポートを参照されたい。

週足のユーロ安トレンドは継続中(ブログ日々の泡:週足の標準偏差ボラティリティ 参照)なので、ユーロの下落リスクは依然大きい。しかし、日足ベースでユーロが下げても標準偏差ボラティリティが上がらない局面では一旦ユーロがリバウンドをみてもおかしくない。したがってユーロ上の昇リスクにも注意が必要である。

ユーロ/ドル(日足) 26日標準偏差ボラティリティのグラフ

黄色の部分は筆者が入力した仮想値段


(出所:石原順)


(出所:石原順)

この先の7営業日くらいでユーロ売りトレンドが発生するとすれば、ユーロが現時点から400ポイントくらい下げる必要があろう。仮に、そのような相場展開になれば、おそらく標準偏差ボラティリティが上昇してくるので、ユーロの調整局面は終わりである。

ユーロ/ドル(日足)26日標準偏差ボラティリティのシミュレーション

黄色の部分は筆者が入力した仮想値段


(出所:石原順)

標準偏差ボラティリティやADXが上昇中は「トレンド相場」だが、このトレンドがいつ終わるのかもおおよそ想定が付く。標準偏差ボラティリティに天井感が出たとき、5日~10日先の価格に、上げ相場なら過去2週間程度の高値や、下げ相場なら過去2週間程度の安値を入力すればよい。それで標準偏差ボラティリティが上がらなければ、トレンド相場は最終局面である。