1月21日にオバマ大統領が発表した金融規制案で市場は荒れ模様となっている。

  • (1) 商業銀行のヘッジファンドおよびプライベート・エクイティ・ファンドへの投資の禁止
  • (2) 市場占有率の上限(預金市場のシェア10%超をもつ金融機関は解体)
  • (3) 自己裁定取引の禁止

を柱とする金融規制案は、オバマ政権の大統領経済回復諮問委員会委員長であるポール・ボルカー元FRB議長の発案で、“Volcker Rule”(ボルカー・ルール)と呼ばれている。内容は1933年の「グラス・スティーガル法」(銀行と証券業務の分離)の復活である。

全米30州で増税が行われ、広義の失業率が17%を超える米国では、オバマ政権への支持が急落中だ。既に1550億ドル規模の雇用対策法案や、大手金融機関に最大1170億ドルの金融危機責任料の課金などを発表したオバマ政権だが、大衆の不満は収まらず、民主党が負けるはずのないマサチューセッツ州の上院議員選挙の補選で負けてしまった。金融危機で焼け太りとなっている金融機関への米国民の怒りはすさまじく、11月の中間選挙が危ないオバマ政権は、「ウォール街との対決」という大衆迎合路線に舵をきっている。

金融市場の懸念は、これまでのサマーズ国家経済会議委員長やガイトナー財務長官のソフトランディング路線から、ボルカー大統領経済回復諮問委員会委員長のハードランディング路線にオバマ政権が方針転換した(可能性がある)ことである。オバマ政権の方針転換で、バーナンキFRB議長の金融緩和(ジャブジャブ)路線も危うくなる可能性がある。“Volcker Rule”は、1999年にルービン・サマーズ・グリーンスパンのバブルトリオが作った「グラム・リーチ・ブライムリー法」(銀行と証券会社の垣根の撤廃)の否定だからだ。

もっとも、この金融規制案は金融機関の反対が強い。金融機関はロビー活動などで議会に圧力をかけ、規制対象となっている自己裁定取引の禁止を骨抜きの案にすり替えると言われている。また、法案が通ればゴールドマンなどは銀行免許を返上し、投資銀行に戻るだけだろう。

現在、リスク回避一色となっている金融市場は、どこかでオバマ政権の金融規制法案はダメージが少ないとして揺り戻しに転じるだろうが、今年の相場の“買い”は前半が勝負だ。「量的緩和の終わる4月以降の相場」は、金利の動向をはじめとして不安感がぬぐえない。この時期にインフレファイターであるボルカー元FRB議長の“Volcker Rule”が発表されたことは、一応、注意が必要だろう。

いずれにせよ、今回の金融規制案はまだ詳細が分からない。市場の動揺が収まるまでは、慎重な姿勢で相場に対処したい。

ドル/円・豪ドル/円(1時間足)1月25日13時現在、次のトレンド待ち


(出所:石原順)

ドル/円(日足)今週の順張りゾーン(緑)・逆張りゾーン(黄)

上段:20日ATR(赤)


(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)今週の順張りゾーン(緑)・逆張りゾーン(黄)

上段:20日ATR(赤)


(出所:石原順)