ドル/円相場が14年ぶりの安値をつけた。相場変動率がそれほど上がっていないので、下げ止まるかといえば、難しいだろう。通貨の歴史を教えてくれる米国の通貨政策の結論は、極めて単純である。米国は好景気の時はドル高政策を、不景気の時はドル安政策をとっている。

米国では職探しをあきらめた人を含む“広義の失業率”が17.5%を超えて、1929年の大恐慌のときを上回る水準に達している。カリフォルニア州では失業率が20%を超えている。各国政府がなんのために経済政策をやっているかと言えば、それは雇用の安定である。株や資産価格を上げるためにやっているのではない。2009年は中央銀行バブルとも言うべき資産バブルが進展したが、雇用なき景気回復であり、雇用の問題が解決しないかぎり、先進国経済はまだ不景気の最中にある。このような不景気のご時世で、(ドル安のスピードを緩和する介入などはあるが)米国がドル高政策をとることは考えにくい。

米国がドル安政策をとる理由は明確で、それはサマーズ国家経済会議(NEC)委員長が発言しているように「ドル安を誘導し、米国の輸出力を回復することで、米国経済の中心を消費から生産に戻したい」という一点に尽きる。一方で、ドル安政策については米国内で反対の意見もある。「ドル安は米国への投資を減少させ、それは景気悪化と雇用減につながる」という意見である。米国の輸出回復より、投資減少のデメリットを心配する声も多い。

しかし、現在の米国がドル高政策をとることはないだろう。オバマ大統領は、11月21日のラジオ演説で、「米国はこれまでのような借金による消費で経済を回してはならず、アジア諸国への輸出で経済発展しなければならない」「米国のアジア輸出が5%増えるだけで米国の失業はかなり減る」「米国民は消費を控えて貯蓄を増やし、政府も財政赤字を減らさねばならない」と事実上のドル安歓迎発言をしている。アジアへの輸出で儲けて景気を回復させようというオバマ大統領の主張は、『第102回 G7からG20へのパワーシフトと米国の通貨政策』で述べたように、世界経済がG7からG20に取って代わったことを明確に示すものといえるだろう。

G20で既に確認されているように、国際貿易不均衡を是正するにはドル安が不可欠であり、ドルの急落や暴落(要するにドル安のスピードが問題)が起こらない限り、ドルの穏やかな下落は米国にとって歓迎すべき現象なのである。この副作用はインフレであるが、現在の米国でインフレは起こりそうにない。ドル安の進行で米国の製造業や多国籍企業は恩恵を受けており、ドル安のなかで米株価が堅調なのはその証である。

NYダウ(左)とフィラデルフィア銀行株指数(右)の日足


(出所:ストックチャートドットコム)

米国のドル安政策路線が明確なので、海外中央銀行や政府は、外貨準備の一部を、他の通貨やゴールドなどのコモディティ市場にシフトさせる動きをとっている。昨今のゴールド高は、このような実需の動きが引っ張っているので、押し目があるとすぐに買いが入ってくる。

ドルインデックス(左)とゴールド(右)の日足


(出所:ストックチャートドットコム)

グローバル規模の資本家の商売がG7からG20に移行している経済の多極化のなかで、日本は無視されつつある。米国のドル安政策は、ペッグ制(ドルと連動する人民元)のおかげで中国に強力な輸出競争力を与えている。一方、日本は円高で輸出競争力を削がれ、政府がデフレ宣言をするなどデフレ圧力が高まっている。このままでは、日本全体が“シャッター商店街”になってしまいそうだ。どこかで介入を行う可能性があるが、市場ではドルインデックスの72ポイントやドル/円の80円が話題となっている。

11月相場は眠くなるような凪(なぎ)相場が続いてきたが、11月の後半になって突如として相場は動き出した。相場で儲けるためには“大きなトレンドが出るタイミングをはずさない”ことが重要である。今週の相場は“トレンド・ウイーク”で、筆者のような順張り取引者はリスクテイクしなければならない局面であった。

「外為市場アウトルック」では、これまでにトレンドが出るタイミングをとらえるツールや相場についていくための順張りツールをいくつか紹介してきたが、“トレンド・ウイーク”であった今週の相場をここで検証しておこう。

トレンドを読む一番簡単なツールは「平均足」である。緑が買い・黄色が売りというトレンド判定のなかで、相場に参入すればよい。注意すべきは、移動平均線に傾きがないときは相場に参入しないことである。

豪ドル/円(左)とユーロ/円(右)の平均足(日足)


(出所:楽天証券 マーケットスピード Ver8.2)

ユーロ/ドル(左)とドル/円(右)の平均足(日足)


(出所:楽天証券 マーケットスピード Ver8.2)

次は「ボリンジャーバンド1σ(1STD)のブレイクアウト手法」(相場がボリンジャーバンドの1σを飛び出したら新規ポジションを作り、相場が1σの中に入ってしまったら手仕舞うという手法)をみてみよう。このシステムも移動平均線に傾きのないときは相場に参入してはいけない。下のチャートは11月25日~11月27日(NY時間)の円相場の1時間足である。ボリンジャーバンドの拡大と移動平均線の傾きが確認された11月26日~11月27日の1σブレイクアウト局面が、赤枠の部分である。(移動平均線に傾きのない期間は水色の枠)

豪ドル/円(1時間足)21時間ボリンジャーバンド

移動平均線の傾きが確認され、1σ(緑のライン)をブレイクした局面


(出所:楽天証券 マーケットスピード Ver8.2)

ユーロ/円(1時間足)21時間ボリンジャーバンド

移動平均線の傾きが確認され、1σ(緑のライン)をブレイクした局面


(出所:楽天証券 マーケットスピード Ver8.2)

ポンド/円(1時間足)21時間ボリンジャーバンド

動平均線の傾きが確認され、1σ(緑のライン)をブレイクした局面


(出所:楽天証券 マーケットスピード Ver8.2)

ドル/円(1時間足)21時間ボリンジャーバンド

移動平均線の傾きが確認され、1σ(緑のライン)をブレイクした局面


(出所:楽天証券 マーケットスピード Ver8.2)

この手法は、単純に取引を行うなら、移動平均線またはボリンジャーバンドの傾きと1σ抜けだけを注視していればよい。筆者は臆病なので、もう少し慎重に取引している。これまでの「ネット勉強会」でも説明してきたように、ADXをトレンド確認の補助ツールに使っている。ADXは相場のノイズを取る(相場のダマシに引っかからない)ための筆者の必須のツールである。実際の取引場面では、ボリンジャーバンドの傾きと、ADXの傾きだけに注目している。

ボリンジャー1σのバンドとADXの推移


(出所:石原順)

マーケットスピード Ver8.2のFX「1時間足のテクニカル」のなかには、現在、ADXが表示できるDMIが入っていないので、よりリスクを抑えた慎重な取引を好む投資家は、旧システムのチャート画面だけを表示しておくのがよいだろう。

豪ドル/円(右)とユーロ/ドル(左)の1時間足

21時間ボリンジャーバンドと14時間ADX


(出所:楽天証券)

マーケットで儲けるためには、トレンドを探さなくてはならない。トレンドの発生を確認しても、常に「損をするのではないか」という懐疑心が生まれてくる。昨今の買われすぎのゴールド相場など、とても恐くて買えないことになる。この心理的抵抗を排除してくれるのが、ストップ・ロス注文(あらかじめ計算された損切り注文)である。相場を続ける以上は、損が避けられない。「まあ、やられてもいいか」という余裕がないと、相場に参入するのは難しいのである。ストップ・ロス注文を入れない投資家で、長期的に成功した人はいない。相場の要諦は防御にある。大局ドル安相場とはいっても、相場は上がったり下がったりの循環である。今後は介入などもあるかもしれない。資産管理上のストップ・ロス注文をかならず置いておきたい。

ドル/円(週足)とRSI 週足RSIが示唆する逆張りのタイミングは12月以降か?

ドル安のスピードに注目したい。


(出所:楽天証券 マーケットスピード Ver8.2)