バブル環境にある現在の相場はすべて「いいとこ取り」をするので、ドル売りをドルキャリー取引と呼んでいる。しかし、その底流にはインフレ懸念、実質17%と言われる失業率、商業用不動産市場の下落に伴う金融機関の破綻予測など、ドルの信用力を失墜させるドル安バブルの萌芽をみることができよう。

FRBが9月17日に発表したバランスシートをみると、総資産は住宅ローン担保証券(MBS)の買い入れで6週間連続の増加(前週比519億ドル増の2兆1400億ドル)となっている。また9月15日には イングランド銀行のキング総裁が「商業銀行の準備預金の金利を引き下げることを検討している」ことを明らかにした。現在のJobless Recovery(雇用なき景気回復)を受けて、出口政策がとれないままバブル政策が続いていけば、市場にインフレ懸念が浮上するのは当然と言えよう。実際、現在の外為相場は過剰発行通貨(紙幣のプリント枚数が多い)が売られている。その結果としてのドル安・ポンド安というトレンドが現在発生中である。

外為市場はドル売りを中心にまわっており、円相場はドル/円を除くとトレンドがはっきりしない。ドルインデックスをみると、5月以降はドル売りトレンドが明確である。このトレンドが消滅するには協調介入が必要となるが、筆者のみるところ下のチャートの黄色いゾーンまではその可能性は小さい。

ドルインデックス(日足)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

対ドルの通貨ペアは、大雑把に言えば(英ポンドを除いて)すべての主要通貨でドル安となっている。

ユーロ/ドル(左)とドル/円(右)の日足


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/スイス(左)とポンド/ドル(右)の日足


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/ドル(左)とドル/ランド(右)の日足


(出所:石原順、ブルームバーグ)

上記の通貨ペアの中で、筆者はユーロ/ドルと豪ドル/ドルの取引を好む。ファンドや投機筋の間で人気があるからだ。「動きがわかりやすい豪ドル/円相場」で、当たり屋ファンドが「豪ドル/ドルが0.85を上抜いてくると利益が出るポジションを組んでいる」ことを紹介したが、豪ドル/ドルは9月17日には0.8775まで上昇し、このポジションは評価益となっている。次は0.8950をターゲットに豪ドル買いのポジションを構築しているようだ。また、ドル安・ポンド安相場を映して、現在ユーロ/ポンドに日足ベースでトレンドが発生(ユーロ買い・ポンド売り)しており、投機筋の注目を集めている。

ユーロ/ポンド(日足) 21日ボリンジャーバンド1σとADXの推移


(出所:石原順、ブルームバーグ)

クロス円相場は、(ポンド/円を除いて)ドル売りとドル円の円高で方向感が乏しい展開が続いている。日足ベースでは相場がどっちを向いているのかわからない状況だ。

豪ドル/円(左)とユーロ/円(右)の日足
上段:21日ボリンジャーバンド1σ 下段:14日ADX


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(左)とランド/円(右)の日足
上段:21日ボリンジャーバンド1σ 下段:14日ADX


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル安相場なので、現在比較的わかりやすい動きとなっているのはドルストレートの通貨ペアである。ユーロ/ドルやドル/円は日足ベースでもトレンドが発生しやすい状況となっており、久しぶりにトレンドにつく相場環境となっている。

ユーロ/ドル(日足) 21日ボリンジャーバンドと14日ADXの推移


(出所:石原順、楽天証券)

ドル/円(日足) 21日ボリンジャーバンドと14日ADXの推移


(出所:石原順、楽天証券)

上に述べたように、クロス円相場はトレンドレスである。日足ベースで豪ドル/円をみても、移動平均は横這い、14日ADXは低下中で、売りでも買いでもない状況だ。

豪ドル/円(日足) 21日ボリンジャーバンドと14日ADXの推移


(出所:石原順、楽天証券)

今週はオプションがらみの防戦買いが多くて、相場の変動率が上がらなかった。とくに直近の相場は相場の値幅が小さく、筆者の好きな1時間足の取引も面白くない相場となっている。

豪ドル/円(時間足) 21時間ボリンジャーバンド1σと14時間ADXの推移


(出所:石原順、楽天証券)

現在の外為相場は紙幣の印刷需給相場である。それ以上のファンダメンタルズを考えると動けなくなってしまう。現在、世界経済が今後インフレになるのか、デフレになるのかエコノミストの間でも見方が分かれている。現状は大きなデフレ相場(債券が売られない)の中の、インフレ期待相場となっているようだが、バブル環境は温存されているので、今年一杯はインフレ期待相場が継続する可能性があるだろう。この先、インフレになるのかデフレになるのか見当がつかないが、筆者はどちらになろうとドル安トレンドはしばらく継続されると考えている。

米10年国債利回り(日足) 世界経済はインフレとデフレのどちらに向かうのか・・


(出所:石原順、ブルームバーグ)

リーマンショックから1年が経過したが、次の火種は商業用不動産と言われている。8000行ある米銀の1000行程度が破たんするという予測があるように、金融危機はいまだ去っていない。日本では9月17日に、亀井静香郵政問題・金融担当相の「中小企業や個人の住宅ローンについて債務返済を最長で3年程度猶予する制度を創設する」というモラトリアム発言があったが、平成の徳政令と言うべき内容だ。これでは銀行のビジネスモデルが成り立たない。これは円売り要因だが、円安になる前にリスク収縮による円高(ストップ・ロス相場)が起こるのが相場の常である。また、同じ日に英国では「英金融大手ロイズ・バンキング・グループが英金融サービス機構(FSA)の厳格な健全性基準を満たせるだけの十分な増資計画を提示できず、財務省の資産保証スキーム(APS)からの離脱を断念せざるを得なくなった」(英紙テレグラフ)と報道されている。また、「米銀の貸し渋りが加速しており、信用供給の総量の減少スピードは、大恐慌の1930年代以来となっている」(英紙テレグラフ)ようだ。

このような不安定・不透明環境では、今後、何起こるかわからない。大局的な相場観は必要だが、相場の実践においては「相場についていくという姿勢」と「ストップ・ロス」を徹底したい。

筆者は、週足・日足・時間足など、どのようなタイムフレームにおいても、

  • (1)移動平均の傾きを確認する。(移動平均に傾きがないときはトレードしない)
  • (2)相場が終値でボリンジャーバンドの1σをブレイクしたら、相場に参入する。
  • (3)相場が終値でボリンジャーバンドの1σの内側に入ってしまったら手仕舞う。
    (利食いポイントは人それぞれ)
    さらに手堅く相場をやるには、
  • (4)(1)と(2)の条件を満たし、ADXが上昇している局面(緑の枠の部分)のみ相場に参入する。

という売買ルールを実践しているが、タイムフレーム(時間枠)が大きくなるほどリスクは大きくなる。その際、重要なのはリスクコントロールである。相場観が当たっていても、レバレッジを上げすぎると相場が続けられなくなってしまう。オーバー・トレードは厳に慎みたい。

中間期末を控えているなか、日本はこれから大型連休に入る。連休中は円相場の流動性が落ちるので、相場の乱高下に注意したい。

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年9月17日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。

豪ドル/円(左)とユーロ/円(右)の20日ATR

ポンド/円(左)とドル/円(右)の20日ATR