▼お話を伺った方

GAIA株式会社
ファイナンシャルアドバイザー
 新屋真摘(しんや・まつみ)さん

大手生命保険を経て、女性が気軽にお金の相談ができる場所をつくりたいという思いでFPオフィスを設立。2014年から現職。ファイナンシャルアドバイザーとして資産運用の提案を、ファイナンシャルプランナーとして保険、住宅ローン、相続など総合的な視点でのアドバイスを行う。

夫婦ペアローンを利用するメリットは?

 共働きが当たり前になった最近は、住宅ローンも夫婦で力を合わせて返済していこうという家庭が増えてきました。

 物件を探す上で、夫婦が仕事を続けていくなら「職場に近い都心にあり、駅近の条件は譲れない」などの希望があれば、それだけ物件価格もアップします。希望する、しないにかかわらずペアローンで借りることになったという人もいるでしょう。

 そもそも住宅ローンを借りる際は、年間返済額が年収に対して30~40%など一定の比率以内に抑えられているかという審査基準があるため、借入希望額が大きいと夫(もしくは妻)1人分の収入では審査が通らない場合があります。

 ペアローンにして夫と妻それぞれが自分の年収に対して審査を通すことで、合計してより大きな額を借りられるのがペアローンを利用するメリットです。

 また、ペアローンなら夫も妻も住宅ローン控除を使えます。住宅ローン減税は住宅ローンを借りた人の所得税や住民税が控除される制度なので、もともと税負担の小さい人はその恩恵を目いっぱい受けきれないことがあるのです。

 こういったケースでは、ペアローンを借りて夫婦それぞれが住宅ローン減税を使うことで、減税効果アップが期待できます。

ここに注意!押さえておきたい三つのチェックポイント

(1)夫婦連生タイプの団信

 住宅ローンを借りる際にセットで加入する団体信用生命保険(団信)は、ローンを借りた人が万が一亡くなったり病気を患ったりした場合に、ローンの残債を保険で返済してくれる仕組みです。これによって不測の事態が起きたときにローンが返せなくなってしまうリスクを避けることができます。

 ただし、夫婦のどちらかに万が一のことがあっても、団信でカバーされるのは本人名義のローンのみ。ペアローンの場合、片方のローン返済は続くことになります。どちらかに万が一のことがあった場合に全てのローン残債がなくなる夫婦連生タイプの団信を取り扱う金融機関がありますので、気になる人は利用を検討してもよいでしょう。

(2)持ち分の登記

 不動産を購入する際は、その物件が誰のものかを第三者に示すために登記をします。登記は必ず、物件に対してお金を払う人の名前でしなければなりません。夫婦でペアローンを借りてマイホームを買うなら、夫と妻それぞれが払ったお金に応じて持ち分を計算し、登記することになります。

持ち分=(負担した頭金 + 住宅ローンの借入額) ÷ 不動産購入額

 妻も頭金を出したり、ローンを借りたりしているのにうっかり夫の名義100%で登記してしまったら、妻から夫への贈与となるので気をつけましょう。また、返済中に妻が仕事を辞め、夫が妻分のローンも返済していくことになったら、登記を書き換えないと夫から妻への贈与となってしまいます。

(3)費用がかかる

 ペアローンは購入する物件に対して契約が2本になるので、登記のため司法書士へ支払う報酬や印紙税などの費用が若干かさみます。また、夫婦連生タイプの団信を選ぶと、金利が上乗せになるのが通常です。ただし、単独で借りてもペアローンで借りても、借入額の総額が同じであれば住宅ローンの手数料は変わりません。

将来を見据えた返済計画を

 ペアローンの良いところは、将来のライフスタイルや金利動向の変化を見越して2人が金利タイプや返済期間の異なる住宅ローンを借り、変化に対して柔軟に対応できるよう組み立てられることです。

 一方で、借入金額が大きくなりがちなため、その分慎重な返済計画が必要です。将来、出産や子育て、転職などで仕事をペースダウンする可能性があるなら、借り過ぎないよう注意しなければいけません。

 例えば、子どものいる家庭なら妻の住宅ローンはあえて短めに借りたり、積極的に繰り上げ返済したりして先に完済してしまえば、子どもの大学進学時期など教育費がピークとなる時に、住宅ローンの返済負担を抑えられます。

 定年前後のご夫婦からのご相談では、「住宅ローンを借りた時は深く考えなかったので夫がローンを借りました。でも、実際は長年夫婦共働きで頑張って返してきたのに、家が全て夫名義なのはなんとなく納得いかないです」という声を聞くことがあります。

 ローン返済も結婚生活も長きにわたって続くもの。20年、30年という時間の経過とともに当初とは考え方が変わっていく可能性を考えると、夫婦それぞれが住宅ローンを借りて、自分の収入から返済し、持ち分も分けて登記できるのがペアローン本来の良さだと感じています。

 資産形成と同じで、住宅ローンの返済もそれぞれの名義で続けていく方法が、共働き夫婦にとって実はシンプルで納得度の高いマネープランといえるでしょう。