「100年に1度の大不況」という恐怖観念をマスコミがまき散らしてくれたおかげで、各国の政府は財政出動や量的緩和を猛烈に進めることができた。その結果、現在は中央銀行バブルが発生しており、実体経済悪の中で国家主導の仕手戦(株高作戦)が展開されている。破産したGMに4兆円もの資金が投入されるように、世界規模でジャブジャブの資金投入が行われているため、クロス円・原油・株式市場などあらゆる市場が急上昇してしまった。その結果、買えていない人たちが沢山いるのが現在の市場である。
豪ドル/円(左)・原油先物(中央)・米S&P500株価指数(右)の日足

(出所:石原順、ブルームバーグ)
「どの市場も買われすぎ、過熱気味なので、無理に買う必要はないのではないか?」というのは素人考えである。ファンドや年金の運用者はインデックス(指標)に対しての評価=ベンチマークが運用成績や報酬の基準なので、たとえばTOPIX(東証株価指数)が3割さがっても(-30%)、日本株の運用者のパフォーマンスが-20%ならば、その運用者は優秀ということになる。逆にTOPIXが3割上がっているのに、+10%しかパフォーマンスが上がっていなければ、その日本株の運用者は失格となる。ベンチマークとの連動を目指す運用は「パッシブ運用」と呼ばれるが、「効率的市場仮説」というノーベル賞を受賞した運用理論が幅をきかせている運用の世界において、運用者は「パッシブ運用」から逃れることはできないのである。
昨年の大暴落で株をほとんど売ってしまったファンドや、2009年2月までのリパトリのドル高相場でユーロを持っていなかったファンド・年金・中央銀行などは、現在、「アンダーウエイト」や「リバランス」という問題に直面している。「パッシブ運用」のファンドは持たないリスクや買わないリスクの恐怖から4月以降積極的に動いているが、これが現在の株高の要因となっている。
運用者には常にベンチマークという問題がつきまとう。運用というのは基本的に指数に連動するように設計されている。したがって、運用者は「指数が上がれば上がるほど買い、下がれば下がるほど売らなければならない」という宿命にある。これはポートフォリオ・インシュアランス理論と呼ばれ、基本的に正しい運用手法であるが、とにかくインデックスに追いついていない運用者は、これを修正しなければならない。
6月3日の市場はアジアのいつくかの国の金融当局者が「米国債が格下げされても、外貨準備への影響はない」と発言したことで久しぶりのドル高となったが、翌6月4日の市場ではアジア中銀筋のユーロ買い・ドル売りが観測されている。そのため、「ユーロのアンダーウエイトを解消するための相場急落を狙った発言だった」との噂が流れているが、中央銀行も決済不安で買いすぎたドルを減らし、ユーロを増やすというポートフォリオの組み替えに動いているのかもしれない。
これらの買えていない、あるいは持っていない運用者のベンチマークがインデックスの動きに連動するまでは、株式市場は下方硬直性をもつことになる。株式市場連動のクロス円相場も同様だ。新興国の株式市場の爆発高をみてもわかるが、ファンド運用における資金配分は、「上がるから買わなくてはいけない」という実に単純なロジックで行われている。
3月18日のFRBの長期国債買い入れが金融バブル相場の号砲となり、リスク許容度が復活している現在、株式市場では買わないリスクを抱えたファンド勢が押し目買いに動いている。今後は買われすぎた相場の大幅下落調整も想定されるが(そのシグナルとして下がりすぎたVIX=恐怖指数の反転上昇には注意したい)、筆者はその前にもう一段の株式市場の上昇があるような気がしている。
シカゴCBOE市場 VIX(恐怖指数)の日足 リーマンショックの90ポイントという異常な変動率からの修正なので長期下落基調が続いている。

(出所:石原順、ブルームバーグ)
すでに安値からはかなりの上昇を記録したため、「クロス円のこんなに高いところは買いたくない」という投資家も多いと思われる。しかし、こういったバブル相場はいつまでたっても買えないものなのだ。それは「不景気の株高・クロス円高」だからである。筆者の周辺でも、現在のバブル相場に慎重な見方をとっている一部のファンドは、リスクを嫌い現在の価格から離れた行使価格のオプション買いやデイトレードを主体にしている。
「休むも相場」というが、参戦しないことには収益は得られない。このような慎重な投資家は、取引タームを短縮することでリスクの軽減を図るべきだろう。時間足(60分チャート)のボリンジャーバンドの1σの飛び出し局面(移動平均線に傾きがあることが前提条件)だけを売買するのも一つの方法だ。
豪ドル/円の時間足(60分)チャートとボリンジャーバンドの1σ

(出所:石原順、楽天証券)
筆者が使っているユーロ/ドル、ユーロ/円、豪ドル/円の「順張りシステム」は、3月以降「買いシグナル」が出て以来6月5日現在まで買いポジションを保有中である。このシグナルが「売り」に変わるまでは強気・楽観の姿勢で相場に取り組みたい。
ユーロ/ドル(週足)と順張りシステムの売買シグナル

(出所:石原順、ブルームバーグ)
ユーロ/円(週足)と順張りシステムの売買シグナル

(出所:石原順、ブルームバーグ)
豪ドル/円(週足)と順張りシステムの売買シグナル

(出所:石原順、ブルームバーグ)
円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年6月4日まで)
ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。
豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

(出所:石原順、ブルームバーグ)
ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

(出所:石原順、ブルームバーグ)
ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

(出所:石原順、ブルームバーグ)
ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

(出所:石原順、ブルームバーグ)





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