筆者が強気を述べてきた「不景気の株高」も反省局面に入ったようだ。世界景気の先行きは楽観的にみてもいわゆるL字型回復である。そのような状況下で株が上昇するとすれば、それは「売られすぎ」によるものか、「過剰流動性による金融バブル」のどちらかだろう。

筆者はここ数ヶ月のレポートで米国株のS&P500インデックスは4-6月期に960ポイントをターゲットに上昇する可能性が高いことを述べてきたが、5月8日には930ポイントを示現しており、この目標値もほぼ達成された。

S&P500インデックス(日足)
14日方向性指数ADX(赤)と26日標準偏差ボラティリティ(青)の推移

S&P500インデックス(日足)14日方向性指数ADX(赤)と26日標準偏差ボラティリティ(青)の推移
(出所:石原順、ブルームバーグ)

株高・円安の連動相場なので、この先も株価の動向が外為市場を考える上で重要となるが、14日方向性指数ADX(赤)と26日標準偏差ボラティリティ(青)の推移をみても現時点の米国株市場に相場のトレンド(方向性)が出ているとは言い難い。もう少し様子をみる必要があるだろう。

「米国の大学で最も資金力のあるハーバード大学は、ブラジルや中国、メキシコの株式相場に連動する上場投資信託(ETF)の保有を1-3月(第1四半期)に増額した。新興市場国の株式が米国株を上回る値動きを見せたことが背景にある」と5月14日のブルームバーグニュースで報道されていたが、世界で最も景気の良い話が聞こえてくるブラジルの現地の様子を聞いてみると、日本のような実体経済のひどい落ち込みは皆無である。ブラジルの株価指数ボベスパ指数は、昨年5月からの下げ幅の半値戻しを達成後、米国株の下落に連動して若干下げているが、金利も低下しており、あと1ヶ月程度は53000~48000ポイント程度のレンジで推移するのではないかという見通しのようだ。

ブラジル ボベスパ指数(日足)

ブラジル ボベスパ指数(日足)
(出所:石原順、ブルームバーグ)

USAトゥデーが「米銀危機は新局面入り、2013年まで継続も」と報道しているように、筆者は株式市場が経済実勢を素直に反映すれば、今後どこかで株式市場は下落に転じる可能性は高いとみている。そうであれば、素直に株を売りたいところであるが、現在は100年に1度の金融非常事態に対応したジャブジャブの過剰流動性が世界規模で供給されているので、一本調子の下げが起こりにくい。経済の実態悪VS過剰流動性の構図の中で、株式市場と外為市場のバリューを決めていくのは、結局のところ投資家心理となろう。

現在の企業業績や景気の本格回復を伴っていない株高・円安相場では市場が総楽観論に傾いた時が危険な兆候となる。ここ数日ブルームバーグで報道されたヘッドラインをみると「日本の主婦やビジネスマン、円安見込んだ為替投資を12兆円に拡大」「投資家の米国株見通し、07年以来初めて強気に-ブルームバーグ調査」など楽観的な報道が増えている。今まで弱気だった人たちが強気に転じると、相場は往々にして逆に動くことが多いので株安・円高の動きに対する注意が必要な段階に入ったと言えよう。

外為市場も株高が促すリスク許容度の回復と楽観ムードで2月以降円安基調が続いてきたが、4月後半からはドル/円が調整局面に入り、ここにきてクロス円相場も変調をきたしてきた。ドル/円相場は市場参加者の誰もが注目しているように、上昇サポートラインを割り込み、ネックラインも割り込んだことで、「三尊天井形成パターン」となっている。この先の最重要ポイントは相場が3月安値の93円50銭 (チャートの赤●印) を維持できるか否かであろう。テクニカル的には93円50銭を割り込むと2月以降の円安基調に重大な障害が生じるので注意したいポイントである。

ドル/円(日足)三尊天井パターンの出現と重要サポートライン(赤)

ドル/円(日足)三尊天井パターンの出現と重要サポートライン(赤)
(出所:石原順、ブルームバーグ)

相場のトレンド期と保合い期の認識に使われる指標であるADXの推移をみると、ユーロ/円ではトレンドが発生しておらず、ドル/円で円高トレンドが発生する可能性がある初期段階にある。従って、目先の相場を円高方向にみるならドル/円の売りが有効となろう。

ユーロ/円(左)とドル/円(右)のADXの推移とトレンドの判定

ユーロ/円(左)とドル/円(右)のADXの推移とトレンドの判定
(出所:石原順、ブルームバーグ)

以下のチャートは豪ドル/円とドル/円の一目均衡表とフィボナッチのリトレースメントだが、豪ドル/円の強さはきわだっている。ファンドのポジションも豪ドル/円のロング(買い)に傾きすぎており目先は波乱含みだが、キャリートレードや円売り派の投資家は今後もこの通貨を選択するのがよいだろう。

豪ドル/円(左)ドル/円(右)の一目均衡表

豪ドル/円(左)ドル/円(右)の一目均衡表
(出所:石原順、ブルームバーグ)

FRBのポートフォリオは昨年9月と比較して今年は3倍に膨れあがると言われている。ドルもジャブジャブの状況である。いくら基軸通貨とはいえ、これだけ流動性が供給されれば通貨価値の劣化は避けられないと思われる。一方で、ジャブジャブの過剰流動性は株式市場を押し上げる効果があり、豪ドル/円等のクロス円通貨には上昇バイアスがかかりやすい。

実態悪と過剰流動性の狭間で、相場はランダムな動きとなりやすいが、結局、「円買いはドル/円で、円売りは豪ドル/円で」というのが筆者の結論である。あとはそれを仕掛けるタイミングである。5月13日の1時間半のネット勉強会「FXの極意とトレードツールの活用方法!~着実なトレードを実現するために~」では、相場エントリーのタイミングについて解説している。筆者の相場技術のエッセンスを公開しているので、動画配信されればぜひご覧いただきたい。

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年5月14日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:楽天証券)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)