注目のストレステストが本日発表された。10行に対して746億ドルの資本増強要請をするというほぼ市場のコンセンサスに近い数字となっている。不良債権買取プログラム(TARP)の資金があと1000億ドルしか残っていないため、このような数字となったのだろう。厳密に査定すれば違う数字がでてくるのだろうが、先週のレポートでも述べたようにこの問題は「先送り」ということで市場に織り込み済みである。株式市場が上昇したことで、「とりあえず世界的な金融システム不安の最悪期は過ぎた」という楽観論に市場は傾いている。

昨日、ECBが非伝統的な金融政策の導入を発表したが、市場にインパクトを与えていない。景気回復期待と金融バブルによる「不景気の株高」の様相を呈しているなかで、外為市場を予測する場合も個別の材料や経済指標よりも米国株の動きがポイントとなる。

米国株についてはこれまでのレポートで述べているように、2009年4~6月期にS&P500で960ポイントあたりまで上昇すると観ている。3月6日の安値からはかなりの上昇をみたが、もう一段の上げ相場が残っていると思われる。

S&P500(日足)と抵抗ポイント

S&P500(日足)と抵抗ポイント
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドルインデックスは3月から下落基調が続いており、不景気の株高相場のなかで外為市場の流れは「ドル安・円安」の流れとなっている。

ドルインデックス(日足)

ドルインデックス(日足)
(出所:石原順、ブルームバーグ)

さて、この「ドル安・円安・株高」相場のなかで、結果としてクロス円相場の上昇が続いているが、スイスと英国は当局が通貨安を促す通貨切り下げ歓迎発言をしていることから、ややランダムな動きとなっており、「買い」が素直にワークしにくい。ユーロは上昇基調ではあるが、金利の下限や量的緩和への思惑から金利や金融政策への観測で相場が上下に振れやすくなっている。ドル安相場の中でのドル/円の上昇は結局クロス円次第だ。株高連動のクロス円相場のなかで一番わかりやすい動きとなっているのは「豪ドル/円」の相場である。

NYダウと豪ドル/円の推移

NYダウと豪ドル/円の推移
(出所:石原順、ブルームバーグ)

現在の不確実性相場の中で、景気回復ということで一番頼りになるのは世界のGDPの7%弱の財政出動効果であろう。米・中の大規模な財政出動(=公共事業)から筆者が公共事業(鉄鉱石)関連株としてBHPビリトンやリオ・ティントに注目していることはこれまで述べてきたが、鉄鉱石の需要はしばらく拡大を続けるだろう。この恩恵を受けるのは<資源通貨・公共事業通貨>としての豪ドルである。

豪ドル/ドル(日足)

豪ドル/ドル(日足)
(出所:石原順、ブルームバーグ)

BHPビリトン ADR(日足)

BHPビリトン ADR(日足)
(出所:石原順、ブルームバーグ)

リオ・ティント ADR(日足)

リオ・ティント ADR(日足)
(出所:石原順、ブルームバーグ)

5月7日にはオーストラリアの失業率が発表されたが、市場予想の5.9%に対して5.4%という良い数字が出ている。また、新規雇用者数の2.73万人は 2008年10月以来の伸び率となっている。本日発表されたRBA(豪準備銀)四半期金融政策報告では「中国経済成長の兆し、アジア・米国での経済安定はしばらく続くだろう」「経済鈍化予想に基づいた緩和、金融刺激策は大きな効果をもたらした」と強気の文言がみられる。オーストラリアの経済と密接なつながりをもつ中国経済が回復基調となっているのも豪ドル相場には大きなサポートとなる。

上海株インデックス(日足)

上海株インデックス(日足)
(出所:石原順、ブルームバーグ)

楽天FXの「通貨ペア残高構成比率情報」をみても豪ドル/円は人気があるが、動きが素直なのでFX初心者の方も比較的組みしやすい通貨だと思われる。

※楽天FXの全建玉(売建+買建)を100%とした場合の通貨ペア別比率 ()内は先々週からの増減
(出所:楽天証券)

筆者は相場のリスクを株もクロス円も上昇方向で観ている。2009年4-6月期は基本的に強気であるが、豪ドル/円相場も目先はややスピード違反の上昇となっており、フィボナッチ級数の上昇ターゲットである74円や75円を達成してしまった。(次の大きな抵抗は79円)デイトレードはともかく、しばらくポジションをもつスウィングトレードの場合は慎重に押し目買いを狙いたい。豪ドル/円はサポートが2円ずつ切りあがっており、直近の押し目を狙うポイントは 72円台である。その下は70円、68円がサポートとなる。

豪ドル/円(日足)と抵抗ポイント

豪ドル/円(日足)と抵抗ポイント
(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足)サポートライン

豪ドル/円(日足)サポートライン
(出所:石原順、ブルームバーグ)

以上、比較的強気の相場観を述べてきたが、いずれにせよ不景気の株高である。2009年の相場はしばしの猶予期間(相場の踊り場)の可能性がある。 1929年の大恐慌後の相場は1930年に半値戻しを達成したが、その後は2番底を取りに行くことになった。時価会計を緩和しても金融機関の損失が減るわけではない。相場には反省や反動がいずれやって来ることを頭に入れておきたい。

1929年の大恐慌後のNYダウの動き

1929年の大恐慌後のNYダウの動き
(出所:石原順、ブルームバーグ)

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年5月7日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。

(ATRやボリンジャーバンドの売買手法については、過去のレポートをご覧ください)

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)