毎週金曜日午後掲載

本レポートに掲載した銘柄:ASMLホールディング(ASML、アムステルダム、NASDAQ)

1.ASMLホールディングの2021年12月期4Qは、17.2%増収、35.0%営業増益

 ASMLホールディングの2021年12月期4Q(2021年10-12月期、以下前4Q)は、売上高49.86億ユーロ(前年比17.2%増)、営業利益20.31億ユーロ(同35.0%増)となりました。

 前4QのEUV露光装置出荷台数は12台で、このうち収益認識した販売台数は11台(前年同期は8台)でした。一世代前のArF液浸露光装置販売台数は20台(同24台)、さらに前の世代のKrF露光装置販売台数は35台(同35台)といずれも高水準でした。この結果、前4Qのシステム売上高(EUV露光装置などのハードウェア売上高)は34.64億ユーロ(同8.3%増)となり、一桁増ですが高水準でした。

 また、顧客に納入したEUV露光装置の稼働率が高いため、生産性向上のためのソフトウェアアップグレードが活発でした。このため、前4Qのサービス売上高は15.22億ユーロ(同44.1%増)と好調でした。

 これにより、2021年12月期通期は、売上高186.11億ユーロ(同33.1%増)、営業利益67.50億ユーロ(同66.6%増)となりました。

 なお、年初に起きたベルリンの部品工場の火災の影響は、EUV露光装置、その他の露光装置ともに軽微であり、出荷に影響はない模様です。

表1 ASMLホールディングの業績

株価(アムステルダム) 640.00ユーロ(2022年1月20日)
株価(NASDAQ) 706.46米ドル(2022年1月20日)
時価総額 258,752百万ユーロ(2022年1月20日)
発行済株数 405.0百万株(完全希薄化後)
発行済株数 404.3百万株(完全希薄化前)
単位:百万ユーロ、ユーロ、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。
注3:ASMLホールディングはアムステルダム、NASDAQに上場しているが、ここではアムステルダム市場の株価でPERと時価総額を計算した。
注4:会社予想は予想レンジの中心値。

表2 ASMLホールディング:売上高内訳(四半期)

単位:100万ユーロ
出所:会社資料より楽天証券作成
注:端数処理のため合計が合わない場合がある。

表3 ASMLホールディングの機種別売上高、販売台数、単価(四半期)

出所:会社資料より楽天証券作成
出所:会社資料より楽天証券作成
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ1 ASMLのEUV露光装置:受注台数と販売台数

単位:台、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成、注:2021年12月期より受注台数は非開示

グラフ2 ASMLのEUV露光装置:受注台数と販売台数

単位:台、年度ベース、出所:会社資料より楽天証券作成、注:2021年12月期より受注台数は非開示

2.受注は引き続き好調

 前4Qの全社受注高は70.50億ユーロ(前年比66.4%増)となりました(グラフ3)。前3Qの61.79億ユーロよりも増加しました。このうちEUV露光装置は26億ユーロ(同2.4倍)と1年前と比べ大幅に増えましたが、前3Q29億ユーロよりは減少しました。ただし、会社側はEUV露光装置の需要は依然として強いとしています。

 一方、EUV露光装置以外のArF液浸露光装置、KrF露光装置などの前世代の露光装置の受注高は、44.50億ユーロ(同40.3%増)となり、前3Q32.79億ユーロよりも増加しました。汎用半導体の設備投資増加に対応したものと思われます。

 また、次世代EUV露光装置(High NA、2ナノから先の微細化世代に対応)については、研究開発用の「EXE:5000」1台を前4Qに受注しました(5台目の受注)。量産ライン向けの「EXE:5200」は最初の1台をインテルから今年1月に受注しました。EXE:5000、EXE:5200とも2024年から出荷開始となりますが、量産ライン向けのEXE:5200の需要が強い模様です。

グラフ3 ASMLホールディングの新規受注高

単位:100万ユーロ、出所:会社資料より楽天証券作成

3.2022年12月期の出荷は好調だが、検収の遅れで業績の伸びは鈍化へ

 2022年12月期1Q(2022年1-3月期、以下今1Q)の会社側ガイダンスは、売上高33~35億ユーロ(前年比19.8~24.4%減)、営業利益6.50~7.50億ユーロ(同52.0~58.4%減)と大幅減収減益となる見込みです(会社側ガイダンスの売上総利益率49%前後、研究開発費7.60億ユーロ、販管費2.10億ユーロより楽天証券試算)。実際の出荷額は53~55億ユーロ(前1Q売上高との比較では、21.4~26.0%増)と好調ですが、検収の遅れによって収益認識が今2Qにずれ込むEUV露光装置とEUV以外の露光装置が合わせて約30億ユーロ分発生する見込みです。

 これには事情があり(主にEUV露光装置についてですが前世代の露光装置も含まれます)、EUV露光装置は需要が極めて強いだけでなく、顧客から早く工場に設置してほしいという強い要望が前期からASMLに寄せられています。そのため、ASMLでは、前期から一部のEUV露光装置について自社工場での検査を省いて完成品を直ちに顧客工場に出荷しています。そのため、顧客は早くEUV露光装置を入手でき、ASMLの工場には空きができるため、EUV露光装置を増産できるようになりましたが、顧客工場での検収(装置か動くかどうかをチェックした後、収益認識を行う)が従来よりも遅れるようになりました。

 この検収遅れの問題は2022年12月期通期にも響く見通しです。EUV露光装置の出荷台数は2021年12月期44台に対して2022年12月期は55台になる見込みです。これに対して、約6台の収益認識(売上計上)が2023年12月期にずれ込むことになる見込みです。すなわち、2022年12月期のEUV露光装置の収益認識は49台となる見込みです。

 一方、2023年12月期は検収遅れが発生しなければ、出荷台数は能力拡張により60台以上となり、売上計上は66台と予想されます。そのため、2022年12月期は業績鈍化が予想されるものの、2023年12月期には再び高成長に戻ることが期待できます。会社側ガイダンスでは2022年12月期増収率は約20%となります。

 このような見方から、楽天証券では2022年12月期を売上高225億ユーロ(同20.9%増)、営業利益80億ユーロ(同18.5%増)、2023年12月期を売上高282億ユーロ(同25.3%増)、営業利益108億ユーロ(同35.0%増)と予想します。

表4 ASMLホールディング:機種別サービス別売上高

単位:100万ユーロ
出所:会社資料より楽天証券作成

4.今後6~12カ月間の目標株価は前回の1,000ドルを維持する

 ASMLホールディングの今後6~12カ月間の目標株価は、前回の1,000ドルを維持します。

 2023年12月期楽天証券予想EPS(1株当たり利益) 22.72ユーロに成長性を考慮した想定PER(株価収益率)35~40倍を当てはめ、1ユーロ=1.13ドルでユーロをドルに換算しました。今期業績は鈍化する見込みですが、逆に来期2023年12月期は業績回復が予想されます。何よりもEUV露光装置、ArF液浸露光装置などの前世代の露光装置がともに需要が強い状態が続いています。

 引き続き中長期で投資妙味を感じます。

本レポートに掲載した銘柄:ASMLホールディング(ASML、アムステルダム、NASDAQ)