4月9日にカンザスシティー連銀のホーニグ総裁は「米国に数千行もの銀行がある中で資産が1000億ドルを超える銀行はわずか19行だということだ。そして当局による財務の健全性の審査で、さらなる政府の介入が必要と判断される銀行はほとんどないだろうと考えている」とコメントした。

先週のレポートで述べたように、4月2日に米財務会計基準審議会(FASB)が時価会計ルールの緩和を決定した。米財務会計基準審議会FASBが慌てて Q1決算発表に間に合うように以下の発表を行ったことから考えて、今回のストレステスト(米大手銀行19行に対する健全性審査・4月末が期限)の結末は、「財務の健全性に対して問題のある銀行はない」という不良債権問題先送りの措置がとられることになろう。

昨日の米国株は、米銀大手ウェルズ・ファーゴが「第1四半期の純利益が過去最高の30億ドルになるとの見通し」を発表したことや、NYタイムズ紙の「米政府によるストレステストの対象となっている米金融機関19社がすべて合格する見通し」との報道を受けて246ドル高となった。

日本のほうは、自民党が「国費15.4兆円、事業費56.8兆円程度の追加経済対策」を発表している。マンデル・フレミングの法則では財政出動は通貨高を促す。実際、日本の財政出動は過去の相場では円高の要因となってきたが、今回は世界中が財政出動を行っており、その比較感では日本の経済対策の規模は決して大きいとは言えない。外為市場は二国間の相対評価の市場なので、今回の日本の経済対策による円高圧力は限定的なものとなりそうだ。

現在の市場環境では経済のファンダメンタルズや経済対策を分析すると功罪両面あり、実践的には身動きがとれなくなる。実践的な外為相場の予測で重要なのは「株式市場」の値動きであって、それ以外の要因を分析しても収益にはつながりにくい。

さて、実践的な相場の話に移ろう。ここからは筆者の独断と偏見による「相場実践手法」の話なので、「そういう相場の見方もあるのか」という程度の話として読んでいただきたい。(注意:この売買参考事例は将来の収益を保証するものではありません)

楽天FXのホームページに大変貴重なデータが発表されている。それは「時間帯別取引情報」である。市場で収益を上げる方法の一つに「人と同じ事をやらない」という方法がある。2月から始まったリバウンドの円安相場では、筆者は「デイトレ」を盛んに行っている。一日24時間の取引の中で、筆者が円売りポジションを作ることが多い時間帯は赤の枠で囲んだ部分である。その手仕舞い(決済の円買い)をする時間帯は青の枠で囲んだ部分である。

楽天FX「時間帯別取引情報」

楽天FX「時間帯別取引情報」
(出所:楽天証券)

つまり、筆者は取組高の少ない時間帯に円を売り(新規ポジション)、取組高の多い時間帯で円買い(決済)を行っていることになる。この手法が将来においても有効か否かはまったくわからないが、少なくとも2009年のこれまでの相場では有効な取引手法であった。この手法は現在の円安トレンドが続くうちは有効に機能すると思われる。これは確率的に有利なところで売買をしようという手法であって、むろん、このような手法が毎日うまく機能するわけではない。相場に過信は禁物である。

筆者の24時間の相場イメージ(だいだいこんなものかという基本的なイメージです。この通りに相場が動くことはありません)

筆者の24時間の相場イメージ
(出所:石原順)

筆者の独断では相場が終値で21日移動平均線を維持しているうちは、円安トレンド継続とみている。より慎重な見方をとるなら13日移動平均線を代用するのがよいだろう。

豪ドル/円(日足) 13日移動平均線(ピンク)と21日移動平均線(グリーン)

豪ドル/円(日足) 13日移動平均線(ピンク)と21日移動平均線(グリーン)
(出所:石原順、ブルームバーグ)

4月9日午前中の豪ドル/円相場(10分足)

赤枠の時間帯で分散して買い下がり、青枠の時間帯(仲値近辺)で売却
赤の丸印=円売り・黄色の丸印=円買い

4月9日午前中の豪ドル/円相場(10分足)
(出所:石原順、ブルームバーグ)

上記の注文の置き方は小さな注文を分散して並べる「逆張り」になるので、日中のトレンドに逆らうことになる。(逆張りは順張りより難しい)一日の想定レンジを超えるトレンドが発生した場合、大きな損失が発生することになるので、資産管理上のレバレッジの比率(過大なポジションをとってはいけない)とストップ・ロス注文を充分に考慮する必要がある。デイトレでは一度の取引で大きな収益を狙ってはいけない。また、一回の取引で大きなポジションを作らないことが重要だ。10万豪ドル買う余力のある投資家は、1万豪ドルずつ10回にわけて買い下がるほうが収益が安定する。「利食いして破産した人はいない」という諺があるが、相場が自分の思った方向に動けば「逆指し値」をずらしながら利食いを確保することが一番だ。

4月7日と4月8日の豪ドル/円相場(10分足)

赤枠=円売りポジションを作る時間帯 青枠=円売りを決済する時間帯

4月7日と4月8日の豪ドル/円相場(10分足)
(出所:石原順、ブルームバーグ)

「時間帯別取引情報」と「日中の円高・円安のバイアス」を利用した売買手法については(建て玉方法が非常に重要なので)、「5月13日に予定されているセミナー」で詳しく説明したい。

相場は儲かる時もあれば損をする時もある。しかし、市場から「退場勧告」を受けるような過剰取引は厳に慎みたい。一般の投資家が長期に資産運用として外為取引を行うのであれば、本来レバレッジは0.3倍くらいがリスクコントロールの限界であろう。レバレッジ3倍・10倍でもよいが、そのような取引はストップ・ロス注文が必須となる。

現在の相場がどのくらいのリスクを持っているか、投資家は常に認識しておく必要がある。このリスクの大きさによってポジションを大きくしたり小さくしたりして、リスク/リターン比を考えなければならない。

下のチャートは、豪ドル/円の一日の変動幅(赤)とその5日平均=5日ATR(青)である。このチャートが教えてくれる情報は、豪ドル/円の4月9日の変動幅は概ね2円、その5日平均である5日ATRも2円である。つまり、我々が豪ドル/円のポジションをもった場合、4月9日現在は2円の変動リスクをもっていることになる。現在持っているポジションが2円反対に動けば、いくらの損失を被るかがリスク管理の要となる。セオリーでは、この情報に基づいて建て玉数や損切り幅を決定することになるが、デイトレと中期・長期のポジションでは対応が違って当然である。デイトレの場合、ATRの10分の1から1倍で損切り幅を決める職業トレーダーが多いが、その損切り幅は建て玉数(ポジションの大・小)によって違った対応となろう。

豪ドル/円(日足)一日の変動幅(赤)とその5日平均=5日ATR(青)

豪ドル/円(日足)一日の変動幅(赤)とその5日平均=5日ATR(青)
(出所:石原順、ブルームバーグ)

重要なのは投資家が1回のトレードでいくら損を許容できるかということであり、損切り幅の設定に明確な答えはない。ただし、自分が現在参入している相場がいくらの変動リスクを持っているかの認識は絶対に必要であろう。

昨今のハイレバレッジ・ブームの外為市場はリスクコントロールがないがしろにされている感が強いが、相場で一番大切なのはリスクコントロールである。レバレッジとは言い換えれば「借金」であり、決して過大なリスク=オーバー・ポジションでトレードしてはいけない。そのことに気づくのはお金がなくなった後である。高い授業料を払うのは投資家自身であり、投資家を救うことができるのはストップ・ロス注文しかないのである。

照る日、曇る日いろいろあり、それが相場の醍醐味なのだが、基本的に相場は不条理の世界である。決して無理をしてはいけない。相場は明日もある。

 

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年4月9日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。

(また、ATRやボリンジャーバンドの売買手法については、過去のレポートをご覧ください)

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯
(出所:石原順、ブルームバーグ)