2月に円のリパトリエーション(資金の本国回帰)が出ない状況のなか、ドルのリパトリエーションの圧力は強力で、対円でのドル高が加速している。世界景気が悪化の一途をたどるなかで、現在の縮小均衡相場は、不足している国際決済通貨のドルとそのヘッジ対象であるゴールドが消去法で買われている。テクニカル的にはダブルボトム(2点底)の完成をみており、市場参加者の1~3カ月の平均コストは92円~91円とドル買いが圧倒的に有利な形勢となっている。

日米共にファンダメンタルズの悪化が進行しており、基本的にこのドル高は需給相場がもたらしたものである。投機筋の多くは現在のドル高でドル売り・円買いのポジションの巻き戻しを余儀なくされており、これに追随した短期投機筋のドル買いも活発化しているようだ。チャートだけをみていると3月後半から 4月あたりまで上下動しながらも99円から101円あたりまでドル高基調が続く可能性がある。

ドル/円(日足)移動平均リボン(市場参加者のコスト)と戻りのメド


(出所:石原順、ブルームバーグ)

市場参加者の平均コスト
ドル/円(左上)・ユーロ/円(右上)・ポンド/円(左下)・豪ドル/円(右下)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

週足をみると、昨年8月からのドル/円(左上)・ユーロ/円(右上)・ポンド/ドル(左下)・ユーロ/ドル(右下)の大きなトレンド(黄色の枠の部分)は終了し、ボリンジャーバンド1σのなかにある現在は、相場の調整局面にあることが伺える。大局は円高相場の中で、円安修正がしばらく続いてもおかしくはない。

楽天FX「週足」チャート ドル/円(左上)・ユーロ/円(右上)・ポンド/ドル(左下)・ユーロ/円(右下)


(出所:石原順、楽天証券)

現在のドル高が投機筋の買い戻しや公的機関のリバランスが一巡すれば終わってしまう程度のものなのか、もう一段のリパトリエーションからドル高がしばらく継続するのかは、現時点では判断が難しいだろう。米国の景気が悪化するほどドルが買われるという現在の環境では、ドルの買いも腰の入ったものにはなりにくい。米国の銀行の国有化懸念や日本勢の3月決算にむけたリパトリエーションを考えると、相場環境は依然不透明であると言わざるを得ない。

こういった不透明感のなかで堅実な運用を行うには、予測を排して相場についていくしかない。ドル高であろうと、ドル安であろうと、相場についていくのが正しいアプローチといえるだろう。

以下のチャートは(2月27日午前9時現在)楽天FXチャートの過去24時間のポンド/ドルとユーロ/ドルの動きである。日本の投資家にはドル/円やクロス円の相場が人気のようだが、こういったドルストレートの通貨ペアも十分収益機会があるので、ぜひトライしていただきたい。

24時間相場に張り付いて相場に参戦することは不可能である。時間のあるときに相場の過去の動きを観察しながら、時間足などの短いタイムフレームで取引していくしかない。要は、どのような通貨ペアであろうと、(1)移動平均線に上下いずれかの傾きある、(2)ボリンジャーバンドの1σ(シグマ)を飛び出している、という2点の条件を満たしていれば、そこには収益機会があるのである。

楽天FX「時間足」チャート ポンド/ドル(時間足)移動平均の傾き(緑の線)と21時間ボリンジャーバンド1シグマの外への飛び出し局面(黄色の枠)


(出所:石原順、楽天証券)

楽天FX「時間足」チャート ユーロ/ドル(時間足)移動平均の傾き(緑の線)と21時間ボリンジャーバンド1シグマの外への飛び出し局面(黄色の枠)


(出所:石原順、楽天証券)

現在、ややスピード違反のドル/円やクロス円は心理的にも買いにくい。長いポジションは持ちにくいため、ドル/円が97円超の価格で推移している間はデイ・トレーディングに徹するのが良いだろう。

楽天FX「時間足」チャート
ドル/円(左上)・ユーロ/円(右上)・ポンド/ドル(左下)・ユーロ/円(右下)


(出所:石原順、楽天証券)

さて、銀行国有化の議論が活発になっているが、今後相場の大変動をもたらしかねない材料なので注意したい。バーナンキFRB議長は国有化に否定的な発言をしているが、資本主義の総本山である米国で、資本主義の原理・原則に反する国有化を肯定するようなことは発言しにくい。

「2月25日の外為ライブリポート」で取り上げた日本の銀行の国有化は、長銀・日債銀の1998年、りそな銀行の2003年ともに株価の大幅な上昇が起こった。この連想から、昨年米銀に公的資金が投入された際に米国系のファンドが金融株買いに動いたが、現状では失敗に終わっている。「国有化される金融期間が1つや2つなら良いが、国有化懸念株さがしの相場となり、株式市場は下げる可能性もある」との慎重な声も聞かれる。当面は大手銀の資産査定(ストレステスト)の結果を見守るしかないだろう。

米国の景気指標は住宅を始め、いっこうに好転のきざしがみえてこないが、世界各国が財政出動している現在、いずれ公共事業の効果から景気の持ち直し局面が到来するだろう。公共事業による景気回復の効果をみるには、鉄の需要がいちばんわかりやすい。筆者は現在、経済指標よりもバルティック・ドライ・インデックス[石炭、鉄鉱石、穀物等のメジャーバルク、砂糖、木材等の運賃市況]やリオ・ティント (Rio Tinto)やBHPビリトン (BHP Billiton)といった鉄鉱石関連の株価(楽天証券でADRの売買ができます・買い推奨しているわけではありません)に注目している。

バルティック・ドライ・インデックス(日足)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

BHPビリトン (BHP Billiton)  ADR(日足)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

リオ・ティント(Rio Tinto) ADR(日足)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

長期的な観点でみると、世界的なこの膨大な負債の処理には、最終的にインフレと通貨価値の下落が必要となるだろう。当面デフレ経済が続くことになろうが、景気が今後さらに悪化すれば、いずれどこの国も「現金を持っていると損をする」政策をとりはじめるだろう。それは歴史が証明している。プリンティング・マネーの行き着く先はインフレである。現在のデフレ局面に次のインフレ対応を考えておきたい。

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2009年2月26日まで)

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間は円の売り放置やキャリー取引はリスクが高くなる。筆者はデイトレードおよびスウィングトレードでも緑の期間は円売り、黄色の期間は円買いを中心にしている。相場の循環からみると、当面は円高バイアスがかかり続けるので過信は禁物である。また、過去にはATR上昇で円安、 ATR下落で円高となった局面も多いので注意されたい。

(また、ATRやボリンジャーバンドの売買手法については、過去のレポートをご覧ください)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ポンド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)