百年に一度と言われる【金融恐慌】の渦中に我々はいる。このところ筆者は『大恐慌』(ポール・オデル監督:大映株式会社)という古いVHSのビデオを何度も観ているのだが大変興味深い。このドキュメンタリーは「アメリカ・フーバー時代」「イギリス・金,汗そして涙」「ドイツ・ワイマールからヒトラーへ」「アメリカ・ニューディール」「再び起こりうるか? 」の全五巻で構成されている。歴史をたどっていくと、バブルの発生とその崩壊は歴史のなかに組み込まれ、10年~70年周期の景気循環の中で度々繰り返されている現象であることがわかる。

17世紀前半のオランダのチューリップバブル崩壊から今回の住宅・ファンドバブル崩壊に至るまで8回の大きなバブルの崩壊があったが、それが世界的な【経済恐慌】に発展したのは19世紀の米国の鉄道バブルと1929年の大恐慌の2回だけである。1929年からの大恐慌時には失業率が25%まで上昇したが、現在の米国の失業率は6.8%にすぎない。まだ恐慌の入口に過ぎないという悲観論もあるが、今回の金融恐慌が経済恐慌や大恐慌というレベルにまで悪化していくかどうかは今後の米・欧の政治がカギを握っている。オバマ新大統領はクリーンエネルギーの開発による雇用の創出を政策として打ち出しているが、新しい技術革新やビジネスモデルの出現にはバブルの崩壊は必要悪なのかもしれない。

今回の金融危機の震源地である米国でオバマ新政権が誕生した。CHANGEをスローガンに緻密に計算された選挙手法を駆使し長い選挙戦を戦い抜いたことをみても、ひとかどの人物であることは間違いないだろう。そのオバマ新政権の経済チームが発表されたが、これはもうオールスターチームと言っても過言ではない面子である。財務長官:ガイトナーニューヨーク連銀総裁・国家経済会議委員長:サマーズ元財務長官・大統領経済回復諮問委員会委員長:ボルカー元FRB議長と最強の布陣が揃い、ルービン元財務長官もオバマ政権をバックアップしている。これだけの実務派がそろえば、市場との対話に失敗する可能性は低いのではないだろうか。現在の管理通貨体制の下では、市場の信任さえあればいくらでも通貨量を増やすことができる。財政赤字と市場の信任という観点から見て、このオールスター経済チームが果たす役割は大きいだろう。

「百年に一度」、「1929年の再来」というプロパガンダによって、景気後退は小学生でも認識できるレベルにある。現在は財政赤字を拡大してでも景気後退を避けなければならないという世界共通の認識ができあがっている。「中国、向こう2年間で4兆元の景気刺激策」「米FRB:信用凍結緩和に向け新たな措置、8000億ドル投入へ」「米財務省:金融安定化策で3500億ドルの拠出を議会に要請へ」「フランス、3年間で1750億ドルの政府投資」・・・ドイツ、イギリス、ロシア、韓国、書いているときりがないほど財政の拡張路線が進行中だ。ここ数年の住宅・ファンドバブルは、日本のゼロ金利政策が世界中に過剰流動性をばらまいたことが発端の資産バブルであったが、国債市場が崩壊(金利が急騰)しない限り、金融緩和と積極財政で今後しばらくは世界中ジャブジャブの状況が続いていくだろう。金融危機が落ち着けば、この過剰流動性が将来新たなバブルを生成する温床になると思われる。

現在は1929年当時のような金本位制の時代ではないので、極端な通貨の切り下げや保護主義は回避されるだろう。マネーの量が増える限り世界経済はまわっていく。オバマ政権で注目すべきは米国債市場の動きである。金利が急上昇すればプリンティングマネーができなくなる。米国の財政出動が軌道に乗るか否かは米国債市場がカギを握っている。金融緩和や積極財政を行っても、90年代の日本のように流動性の罠にはまって不況からは簡単に抜け出せないという意見も多い。仮にこの流動性の罠にはまれば、世界の株式市場はITバブル崩壊後のナスダックのような動き(バブル崩壊からの調整期間が30カ月程度続く)となるだろう。いずれにせよ、2009年の株式・為替相場の動向は、財政赤字拡大のなかでの米国債市場が市場の信任を得られるか否かにかかっている。

ナスダック(月足) ITバブル崩壊後の動き


(出所:石原順、ブルームバーグ)

さて、外為市場のほうは次のトレンド待ちの状況となっている。ADX(方向性指数)や26日変動率(標準偏差ボラティリティ)は現在下落基調を続けており、相場の方向感が失われている。このような動きは次のトレンドが発生する前の準備運動期間であり、軽いポジションでの逆張りが基本となろう。先週のレポートで「相場の変動率がここから上昇に向かえば円高になる確率が高くなる。26日という中期タームでみると、現在、外為市場の変動率が上昇するかどうかは微妙な状況にあるが、ここから2~3日間の動きで相場の方向が決まってくるだろう」と述べたが、変動率が上昇しなかったことでもちあい乱高下の値堅め相場の継続となっている。

移動平均リボンは20日移動平均線から75日移動平均線までの複数の移動平均線が束ねてあるが、この移動平均リボンが意味するのは1カ月から3カ月半程度の市場参加者の平均コストである。21日移動平均線(1カ月の市場参加者の平均コスト)を相場が大きく上抜ければ、買い戻し圧力からもう一段のリバウンド相場になる可能性がでてくるが、現在の対円相場はこの21日移動平均が大きな抵抗となっている。市場参加者の1カ月の平均コストである21日移動平均線の近辺(相場のど真ん中)でポジションをもつことは売り・買いともリスクが高く、ストップ幅も大きく取らなければならない。このような局面は軽くデイトレードを行うか、次のトレンドを待つのが無難であろう。

ドル/円(日足) 26日変動率(標準偏差ボラティリティ)
方向性のある期間(ピンク色)もちあい乱高下期間(水色)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)ADX方向性指数と移動平均リボン 21日移動平均線(青色)
方向性のある期間(ピンク色)もちあい乱高下期間(水色)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/ドル(日足) 26日変動率(標準偏差ボラティリティ)
方向性のある期間(ピンク色)もちあい乱高下期間(水色)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/ドル(日足)ADX方向性指数と移動平均リボン 21日移動平均線(青色)
方向性のある期間(ピンク色)もちあい乱高下期間(水色)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足) 26日変動率(標準偏差ボラティリティ)
方向性のある期間(ピンク色)もちあい乱高下期間(水色)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)ADX方向性指数と移動平均リボン 21日移動平均線(青色)
方向性のある期間(ピンク色)もちあい乱高下期間(水色)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2008年11月27日まで)

ドル/円およびクロス円市場は“円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する”という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間では円の売り放置やキャリートレードはリスクが高くなる。ATRは過去に見ないような高い変動幅を記録しており、現在は平時よりもリスクの高い局面であることに注意していただきたい。変動幅が低下しても変動幅の絶対水準が高すぎるので相場の振れが大きくなる。

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ランド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)