信用収縮下のドル安・円安の巻き戻しという大きな市場構造のなかで、本日も豪ドル/円が63円割れ、ユーロ/円が123円割れ、ユーロ/ドルが 1.28ドル割れと、米国へのリパトリ(投資資金の米国回帰)と円キャリー取引の解消が続いている。年内はヘッジファンドの換金相場が続くが、最近は投資信託の解約売りも出ているため需給による相場の下げバイアスは強い。

アイスランド・パキスタン・ハンガリー・ウクライナ・ベラルーシが国際通貨基金(IMF)に緊急融資を申請していることや、アルゼンチン・ロシア・メキシコ・韓国などの市場が大荒れになっていることで市場の緊迫感がさらに高まっている。

外為市場ではユーロ・ショックが市場の焦点となっている。ユーロバブルの崩壊相場ではあるが、下落の値幅とスピードは尋常ではない。今回のユーロ急落は「10月21日のリーマンのCDSの決済にからむ数千億ドル規模のドル買いが引き金になった」と市場で噂されている。「Cash is King 資産デフレと現金のバブル」で「17兆6000億ドルを超えるといわれる国際分散投資資金(米ドル以外の通貨資産)の一部が米国に還流してくるだけでもドル高の圧力は相当なものになる」と述べたことが、現在の相場で実現している。また、10月21日に国際通貨基金(IMF)が発表した欧州経済の年次審査で「新たな銀行破綻が発生するとの見通し」が示されたことから、現在、ユーロはファンドの売り仕掛けの格好の対象となっている。

ユーロ/ドル(日足) リーマンのCDSの決済にからむユーロ資産売りから急落


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/ドル(日足)と支持線


(出所:石原順、ブルームバーグ)

さて、市場は悪材料のオンパレードだが、市場に安堵感が出てくる可能性についてここで言及しておきたい。当面の注目イベントは11月4日の米大統領選挙と11月15日にワシントンで開催される国際経済サミットとなろう。

銀行システムの立て直しは、政策的に長期金利と短期金利のスプレッドを拡大させて銀行の体力を回復させるしかない。しかし、これには時間がかかる。したがって、誰が大統領になっても、米国は「21世紀のニューディール政策」を行うことになろう。現在のような金融不安の下での金融政策に即効性がない事は、日本のバブル崩壊後の失われた10年で明らかである。グリーンスパン前FRB議長が「23日、議会証言で議員からの厳しい質問にさらされ、世紀に一度の信用市場の大波乱につながった自身の自由市場理論の欠陥を認めた」(ブルームバーグ)ように、市場経済から政府主導の財政拡張路線の流れはできている。バーナンキFRB議長も20日の下院予算委員会で証言し、財政措置の検討を支持している。現在、ブッシュ政権は追加の刺激策を支持していないが、ペロシ下院議長は最大1500億ドルの景気刺激策を提案している。オバマ候補の政策は大きな政府による財政拡大路線が明確であり、11月4日以降にその財政拡張路線の構想が浮上してくるであろう。

本日の日経新聞の1面には「日米欧 金融機関の損失処理促す」との見出しでCDS(金融保証商品)の清算機関設立の話がでているが、今回の金融危機の主役であるCDSの問題解決にむけた取組が11月15日の国際経済サミットで明らかになってくるだろう。ここで市場がいったんは売られすぎの修正に向かうかどうか注目したい。

金融危機が極まってきて、投資の世界は内向きとなっている。 SWF(政府系ファンド)は国際分散投資から自国投資に軸を移しているし、国際的なM&A(企業の買収・合併)も難しくなってきた。「欧州連合(EU)の独禁当局はオーストラリア最大の鉱山会社、BHPの顧問弁護士に対し、同社による英豪系リオ・ティント・グループの敵対的買収(総額760億ドル)は競争法に違反する可能性があるとの見解を伝えた」(10月22日 ブルームバーグ)と報道されているが、サルコジ仏大統領もM&Aを阻止する構想を打ち出すなど、株式市場も保護主義的な傾向を強めている。

ところで、このBHPに筆者は注目している。仮に読者の皆さんが「豪ドルは売られすぎだ。株は売られすぎだ。資源価格は下がりすぎだ」との相場観を持たれたと仮定しよう。楽天証券でBHPのADRは10株単位で購入できる。昨日のBHPのADRの昨日の値段は31ドルだから、大雑把な計算をすると31*96*10=29760円である。約3万円で株と豪ドルと資源に対する強気ポジションをつくれるのである。

ダウジョーンズの報道では、この2週間あまりで著名投資家のG・ソロス氏が率いるソロス・ファンド・マネージメントが資源探査・開発の豪レジェンド・インターナショナル・ホールディングスの株式持ち高を2倍に拡大しているらしいが、ヘッジファンドも売り一色というわけではない。

オーストラリア最大の鉱山会社BHP(日足)
BHPビリトン (BHP Billiton Limited) は国際的な資源関連会社。石炭、鉄鉱石、金、チタニウム、鉄合金、ニッケル、銅精鉱などの鉱石探査と生産、および石油探査、生産、精製を主要事業とする。


(出所:石原順、ブルームバーグ)

筆者はここでBHPを買い推奨しているわけではない。BHPのADRを買うことで「株・資源(コモディティ)・豪ドル」の3つの商品に対する《強気の合成ポジション》が作れるということを説明したいのである。

さて、外為市場は円高・ドル高が鮮明となっている。このバイアスは相当に強い。ATR(相場の変動幅)チャートの赤いレンジでの方向性のテストは下落基調の継続という答えが出ている。金融危機の最中、値頃感で売買する地合ではない。大統領選挙や国際経済サミットまでは、相場観による売買よりも相場についていくというスタンスを維持したい。

円相場の相場変動幅(ATR)の動向(データは2008年10月23日まで)

ドル/円およびクロス円市場は“円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する”という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間では円の売り放置やキャリートレードはリスクが高くなる。ATRは過去に見ないような上昇を続けており、現在は円売りリスクの高い局面であることに注意していただきたい。

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ランド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)