5つのガッテン対バッテン

 来る株式相場の状況を、投資家の5つのアプローチ法の対比によって、よりクリアにしましょう。

(1)集中か分散か

 相場に「金持ちになりたければ集中投資、金持ちで居続けたいなら分散投資」という格言があります。少なくとも利上げに向かう株式相場の逆風期間には、奇をてらわず、基本に忠実な保守的アプローチとしての分散が推奨されます。

 もちろん、不安定な場面だからこそ、得意な個別銘柄・テーマに絞って、機動性も確保する選択にも一理あります。そこで迷う人には、分散と集中を同時に実現できる全体指数ETF(上場投資信託)で妙味を取ることができます。

(2)長期か短期か

 2022年の米株式が、金融相場終息に伴う中間反落とすれば、その後には業績相場が見込まれます。2024年末の政策金利が2.0%水準であれば、この辺りまでは十分に業績相場が永らえているでしょう。この点で既存の低コスト中長期投資は、中間反落が10~20%にもなろうかという展開でない限り、ホールドが基本と考えます。

 他方、新規投資であれば、2024年への業績相場につなぐ中期投資を志向しつつも、逆風下の波乱多発でいや応なく短期投資対応せざるを得なくなることを覚悟して臨む必要があります。もともと短期投資を志向する人には、チャレンジするアップ・ダウンの波乗り機会が多そうです。

(3)景気・バリューかグロースか

 少なくとも利上げ開始前後の神経質な場面は、景気・バリュー投資が基本とされます。特に、インフレ動向を模索中の2022年半ばは、グロース銘柄は金利上昇に脆弱(ぜいじゃく)化しやすいでしょう。

 もっとも、コロナ禍での経済社会の構造変化で、グロース系には景気サイクルを超越する成長期待もあります。したがって、インフレ動向にメドが立ち、市場が利上げペースを織り込めるようになれば、グロース銘柄の見直し買いが進むと期待します。

(4)米国か非米国か

 最先端グロース分野での米国企業の優位性を踏まえると、米国株優先の投資の妙味は引き続き大きいと判断します。ただし、いよいよ世界経済全体が立ち直ろうかという場面は、2020年11月のワクチン開発の朗報がもたらされた時のように、出遅れ感のある欧州、日本などアジア、新興国の見直し買いが起こりがちです。これが短期相場に終わらず、持続するための指針としてはドル相場が注目されます。特に米利上げ先行で軟調続きのユーロに揺り戻しがあると、資源国通貨の堅調と相まって、ドル指数は軟化。それが新興国市場の復調を促す力になります。

(5)FIREか様子見か

 2021年後半はちょっとしたFIREブームでした。しかしFIREのようなアクティブな相場テーマのブーム自体が、好相場の煮詰まりの表れともいえます。周囲にFIREを実現した人がチラホラ現れ、あなたも目指せるというリアリティーとともに、焦燥感を喚起しやすいからです。その点で、相場の中間反落期は、あえて積極的にリスクをとる場面ではなく、基本に忠実に保守的アプローチが筋でしょう。心の底で「いつかはFIRE」という気構えを維持しつつも、意気込みとリスク投資の機会の区別をします。

 他方、難しそうな相場だから手を引いて様子見という姿勢も、推奨はしません。基本観は業績相場に連なる中間反落場面です。忍耐を要するかもしれないけど、買い場は買い場です。業績相場へいつ弾みがつくかも事前判定はしがたいもの。迷うなら、全体指数の時間分散買いも基本のキです。

 2022年の相場はけっしてシンプルではないでしょう。しかし、忍耐の時期こそが総じて好機になり得るというのが、相場の哲理鉄則です。

 ぜひご自身で、(1)集中か分散か、(2)長期か短期か、(3)景気・バリューかグロースか、(4)米国か非米国か、(5)FIREか様子見か、を考えてみてください。来る業績相場へつなぐ術(すべ)、道筋のイメージが具体的に見えてくるでしょう。

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