米金融安定化法案のポイントは、10月2日に日本経済新聞朝刊の8面にとりあげられた「時価会計巡り議論白熱」という記事にあるように、金融機関の経営悪化に歯止めをかけるために時価会計の適用を緩和あるいは凍結できるか否かにある。

金融安定化法案には「SECが必要もしくは適当と判断した場合、時価会計を停止する権限を与える」との条項が盛り込まれた。SECは9月30日に「市場の混乱時なら金融商品の価格が大幅安となってもその水準で評価損を計上しなくてもよい」との指針を発表し、時価会計の適用を事実上緩和することを認めている。米国企業は実現損も評価損も同じという時価会計を採用しているので、現在の信用収縮のなかでは評価損の計上で急激に財務が悪化する。しかし、時価会計を凍結することが認められれば、いったん市場の金融不安は沈静化にむかう可能性がある。時価会計を凍結してしまえば、不良債権の買い取りも時価ではなく満期保有価格で買い取ることが可能である。例えば、時価が額面の10%である金融商品を60%で買い取ることが可能となり、金融機関のバランスシートはおおきく改善するだろう。

本日も「11:21 米下院では他に4人が賛成に転換の可能性、11:21 米下院で安定化法案に反対した議員のうち最低8人が賛成に回る、 10:35 米民主下院院内総務と共和副院内総務が安定化法案の明日採決で合意、10:26 米上院、金融安定化法案に下院が修正加えれば6日に本会議を開催・・・」と米金融安定化法案をめぐってさまざまな噂や情報が飛び交っているが、今後米国の金融機関が比較的早期に体力を回復できるかは、時価会計の緩和あるいは凍結が実現するか否かと、米国の長短金利のスプレッド(大きくないと金融機関は稼げない)の動向にかかっている。

さて、現在の金融市場は平時の状況ではない。短期金融市場・CP市場・CDS市場が信用収縮によって機能麻痺となっている。このような状況のなか金融機関ではドル不足が深刻化し、企業は短期の運転資金が調達できなくなっている。その結果、為替市場では“ドルの資金不足からのドル高”“米国投資家の海外資産売却・現金化によるドル高”“ドル安・円安バブルの崩壊によるドル高・円高”“円キャリートレード資金の貸しはがしによる円高”といったマネーの動きになっており、ドル高・円高相場が進展中である。

ドル高相場を象徴するのはユーロ/ドルの動きであるが、為替相場の長期の方向性を決定する“究極のトレンドフォロー”といわれている20カ月移動平均線を9月の終値でユーロが下抜けた。今後はリバウンド(売られすぎによる自律反発としてのユーロ高)を交えながらも、中長期の大きな流れはユーロ安の方向に向かっていくと思われる。すでにユーロ圏の拡大による恩恵(企業進出・安い労働力の調達など)がなくなっているなか、住宅価格の下落が激しいといわれるスペインの金融システムも今後の不安材料だ。さらにロシアの資金繰り悪化が伝えられているが、ロシア経済と密接な関係をもつドイツの金融機関への影響には気をつけたい。

ユーロ/ドル(月足)と20カ月移動平均線
データは9月30日まで。長期のユーロ安トレンドに発展するか?


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ちなみにこちらはドル/円(月足)と20カ月移動平均線
大きな流れは円高方向。2008年の相場は円高相場のなかのリバウンドに過ぎない?


(出所:石原順、ブルームバーグ)

水曜日の外為マーケットリポートのなかで、売買の参考事例を紹介しているが、とにかく現在のような上下動の激しい相場は、長くポジションを持っていると売り方も買い方もストップ・ロス注文が打たれやすく、収益を上げるのが大変である。比較的短いタイムフレームでの短期売買に徹して、収益を確保していくのが王道であろう。短期売買においては、筆者は移動平均線に傾きがあるのを確認して、ボリンジャーバンドの1σの外でのみ取引している。移動平均線の近辺で売買すると、ストップ・ロスの幅を大きくしなければならないが、筆者はそのようなリスクを取りたくないからである。

楽天FXチャート ユーロ/円(1時間足)
大きな流れは円高方向。2008年の相場は円高相場のなかのリバウンドに過ぎない?


(出所:石原順、ブルームバーグ)

楽天FXチャート 豪ドル/円(1時間足)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

このところクロス円相場についての照会が多くなっている。クロス円相場が円安になる条件は、外為相場が“ドル安・円安”の方向性をもっていることと株高が必要である。現在の外為市場のトレンドはドル高・円高であり、株式相場も下げ止まっていない。このようななかでのクロス円相場の円売りはリスクが高く短期売買のみにとどめておきたい。

円相場の相場変動幅(ATR)の動向

ドル/円およびクロス円市場は“円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する”という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。黄色の期間では円の売り放置やキャリートレードはリスクが高くなる。
現在、相場の変動幅が尋常ではないので、ATRは高値圏で乱高下している。このような相場状況のなかでは資産管理に重点をおいたストップ・ロス注文をおいておくことが重要である。ATRが3日連続上昇していないので、ドル/円・ランド/円のシグナルは円売り時間帯となっているが、ATRは上昇傾向にあり極めてリスクの高い局面であることに注意していただきたい。

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ランド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)