円相場が荒れている。昨日は一時ドル/円が108円14銭、ユーロ/円が160円20銭、豪ドル/円が94円12銭、ポンド/円が201円80銭まで売り込まれるなど波乱相場が継続中だ。「8月は円高」というアノマリーは今年も概ね的中したといえよう。クロス円相場の急落したことで筆者のところにも照会が多かったが、「どこが買い場か」との質問が多く、日本の個人投資家の買い意欲は依然衰えていない。そのせいか、クリック365などのポジションをみると下落幅のわりにポジション調整が進んでおらず、クロス円は上値の重い展開がしばらく続くことになろう。

筆者は「どこが買い場か?」はわからないが、これまでの延長線上で円売りポジションを構築していくのはいささか危険ではないかとの危惧を抱いている。現在、「ドル安・円安・原油高」というクロス円の円売りにとっての理想的な環境が変質しているからだ。

8月21日にゴールドマン・サックス・グループが「世界経済の半分がリセッションに直面」とのレポートを発表しているが、「世界的な利上げサイクルの終焉」が明確になった現在、外為相場の決定要因としての「金利差」のウエイトは以前ほど高くないのである。どこの国も一度「利下げサイクル」に突入すれば概ね半年程度は利下げが続くことになるため、景気後退期および利下げサイクルのなかでのキャリー取引は難易度が高くなる。世界規模の景気後退や金融機関の信用不安、米政府系住宅金融機関(GSE)問題、原油価格の動向という不透明要因を抱えながら、年末あたりまでは相当神経質な相場展開となるだろう。円キャリー取引が本格的に行われるには、米政府系住宅金融機関(GSE)問題や金融機関の信用不安の問題にある程度の道筋がみえてくる必要がある。米政府系住宅金融機関(GSE)問題を解決するのは公的資金の注入が不可避だが、それを実行するには「生け贄としての金融パニック」を演出しなければなるまい。また、グルジア問題(マケインの支持率が上昇)を契機にNATO対ロシアの構図が浮上してきた。米とロシアの緊張で原油買いが復活するのか否かも含め、金融マーケットはこの問題をまだ消化出来ていない。いずれにせよ、金融市場は安定した状態と呼ぶにはほど遠く、この先にはまだ紆余曲折があるだろう。

現在、CTAやファンドの間で話題となっているのが、「ギャンアングル」である。現在のクロス円相場のような急落が起きると、ギャン・チャートが話題に上がる。確かにこれまでの急落ポイントは概ね「ギャンアングル」がチャートのサポートとなってきたが、果たして今回はどうだろうか?

ユーロ/円(日足) ギャンアングルと移動平均リボン(市場参加者のコスト)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足) ギャンアングルと移動平均リボン(市場参加者のコスト)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/ドル(日足) 長期サポートラインと支持線・抵抗線


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足) 長期サポートラインと支持線・抵抗線


(出所:石原順、ブルームバーグ)

WTI原油先物(日足) 原油相場は一番底をつけたのか?


(出所:石原順、ブルームバーグ)

いずれにせよ、現在の外為市場は市場の環境が落ち着かず、金利収益を狙うよりも短期取引に限定したほうがよい環境だ。変動率が上がっているので「売り」でも「買い」でも期待収益は悪くない。世界的な利上げサイクルは終わっており、これから年末あたりまで円キャリー取引は収益が安定しないと思われる。レバレッジ3倍以上のポジションを保有している投資家は、資産管理に重点をおいてレバレッジを調整するのがよいだろう。短期取引者は「売り」でも「買い」でもストップ・ロスを置いた割り切ったトレードに徹する局面だ。

円相場とATRの推移

ドル/円およびクロス円市場は「円の上昇時に変動幅が拡大し、円の下落時に変動幅が縮小する」という市場の構造を持っている。(特に変動幅縮小の過程では円安になりやすいというのが円相場の特徴である)ドル/円やクロス円通貨は、ATR(アベレージトゥルーレンジ)が下がる過程で円安、上がる過程で円高となるパターンが多い。この手法は将来の収益を保証するものではなく、ATR上昇で円安、ATR下落で円高となることも多々あるので注意されたい。

豪ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ランド/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)とATR 緑のATR低下期間が円売りの有効時間帯


(出所:石原順、ブルームバーグ)