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金利上昇に賭ける投機筋
石原 順
外為市場アウトルック
リーマンショックの影響による景気回復に向けた歳出の増大が、世界中で財政赤字の拡大を招いた。政治家は財政再建をしなければならず、その結果、景気対策は中央銀行に押し付けられることにな…

金利上昇に賭ける投機筋

2008/5/30
数社の海外ファンドの運用を担当する現役ファンドマネージャーとして活躍する石原順氏による外国為替市場レポート「外為市場アウトルック」。お客様の投資のヒントにお役立てください。
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筆者はここ3回にわたって「インフレ」をテーマにレポートを書いてきたが、「米インフレ率は今夏に大幅上昇へ」(モルガンスタンレー)、「原油高で米インフレ率は4.5%に上昇も」(メリルリンチ)、「原油高止まりならCPIは今夏2%接近、債券相場は正念場」(リーマンブラザーズ)、「米債買いは自殺行為、夏には大惨劇が待っている」(バークレーズキャピタル)と、今週はインフレをテーマとしたレポートのオンパレードとなっている。

5月28日に米ダラス地区連銀のフィッシャー総裁は「連邦準備制度理事会(FRB)による一連の利下げの効果が遅れて現れれば、インフレが望ましい水準以上に進行するリスクがある」「FRBがインフレ進行を容認しているとみられることは受け入れ難い」「インフレが引き続き悪化すればFRBは早目に利上げに踏み切る可能性がある」と述べたが、米国債市場では米国の年内利上げ観測が浮上している。第23回「インフレの恐怖」で、「ベアースターンズの救済後、質への逃避で米国債市場に滞留していた資金の一部はコモディティ市場や株式市場に向かっている」と述べたが、この動きはここにきて加速してきたようだ。4月の米消費者物価指数(前年比)は3.9%だったが、インフレ率が10年債利回りを上回っていた米国債市場もその修正に迫られている。

米10年国債(赤)とドル/円(黒)の推移 米国金利とドル/円の連動相場が継続中


(出所:石原順、ブルームバーグ)

米国債の金利上昇と連動するドル/円相場もついに5月2日の高値105円70銭を上抜け、5月29日の米国タイムには一時105円89銭まで上昇した。現在のドル/円は完全に米債の金利と連動しており、投機筋は米国債売りとドル買いを同時に行っている。

民主党の代表がオバマになるのか否か、また米大統領が誰になるのかは別として、こと相場の世界においてはすでにブッシュ時代は終わりポストブッシュ時代へと移行している。仮にオバマが大統領になれば、福祉のバラマキで否応なくインフレ昂進の確率が高まるだろう。オバマの経済ブレーンにはインフレファイターとして名をはせた元FRB議長のボルカーがいるが、「現在のインフレの状況は1970年台初頭に似ている。CPIのデータが示している以上の物価の上昇があるだろう」とインフレに対して危機感を表明しているのである。

ベアースターンズの救済後は金利が急速に反転上昇しているが、質への逃避で米国債市場に滞留していた資金は損失の拡大で手仕舞いを余儀なくされている。現在、一部の投機筋は米国の金利上昇に賭けて大きなポジションを構築しているようだ。

5月29日の米WSJは「ポールソン米財務長官はベアースターンズが連邦破産法11条(会社更生法に相当)の適用を申請することを恐れ、3月16日日曜までに1株当たり2ドルでのJPモルガンへの身売りに同意させた」と報道しているが、ポールソン米財務長官率いる「金融市場のための大統領ワーキンググループ」(President's Working Group on Financial Markets)のこのところの八面六臂の活躍は市場に大きな安心感を与えているのである。財務長官、連銀議長、証券取引委員長、商品先物取引委員長が協力して下落防止対策をとっているのだから、市場が「政策に売りなし」と判断するのも当然といえよう。事実上の公的資金投入であるベアースターンズの救済はやはり大きな転換点であった。金融システム危機に対する警戒感は急速に後退し、いまや株式市場やドルに対して楽観的な空気が広がっている。

為替市場の動向で特筆すべきは、相場の変動率の低下で円キャリートレードが復活していることだ。第22回の連載で紹介したATRが相場の分岐点を明確にとらえている。「当日高値-当日安値」「当日高値-前日高値」「前日終値-当日高値」の3つのうち最大の値幅(マド明けを含む最大値幅の計測)を当日の「真の値幅(トゥルーレンジ)」と呼び、「真の値幅」の20日間の移動平均線がATR(アベレージトゥルーレンジ)である。いわゆるキャリー通貨と呼ばれるドル/円や豪ドル/円などのクロス円の取引は、このATRが下がる過程で円安、上がる過程で円高となるケースが多い。円安相場はジリジリと進み、円高相場は値幅が増幅し急激に進むからだ。ドル/円やクロス円の相場はこのパターンの連続である。ATRが低下傾向であるうちは円売り継続でよいだろう。

ドル/円(日足)とATR(アベレージトゥルーレンジ)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足)とATR(アベレージトゥルーレンジ)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ランド/円(日足)とATR(アベレージトゥルーレンジ)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ユーロ/円(日足)とATR(アベレージトゥルーレンジ)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円(日足)
段:標準偏差ボラティリティと売買シグナル[買い=緑・売り=赤]
下段:ATR(アベレージトゥルーレンジ)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

5月29日にドル/円は直近の保ち合いのレンジを上方にブレイクした。チャートのフォーメーションからみてもう一度ドルが下がる可能性がないわけではないが、ここからは逆張りではなくドルの押し目買いスタンスに戦略を変更するのがセオリーであろう。あとは標準偏差ボラティリティの上昇や移動平均の傾きを待ってトレンドを確認したい。

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