インフレ警戒感のなかで5月14日に発表された4月の米消費者物価指数(前年比)は3.9%であった。市場予想の4.0%より低かったのでインフレの鈍化を指摘する向きもあるが、趨勢としての上げ基調に変化はない。

現在、米国の金利はFFレート=2.18%、2年国債=2.44%、10年国債=3.82%(5月15日現在)である。米消費者物価指数が3.9% の現状で、3.82%の実質マイナス金利で10年国債を運用してもまったく妙味のない状況である。また、4月15日に発表された中期的な資金フローを示すネットTICフロー(対米証券投資)合計は資金流出となった。

現在、多くのファンドマネージャーは「サブプライム問題での金融不安からイベントリスクを想定して米国債市場に大量に滞留していた資金がどこの市場に流入するか」に注目している。すでに米国債市場に滞留していた資金の一部は、コモディティ市場や株式市場に流入しているが、それらがさらに加速するのか否かが現在のマーケットの焦点であり、マーケットテーマとして背景にあるのはインフレである。いずれにせよ米国債の運用だけではインフレに勝てないし、今後インフレが昂進した場合大きな損失を被る可能性がある。

米国の米消費者物価指数(前年比)の推移


(出所:石原順、ブルームバーグ)

1973年~1980年の狂乱のインフレを体験したボルカー元FRB議長は「現在のインフレの状況は1970年台初頭に似ている。FRBが信任失えば、1970年代それ以上の混乱となろう。CPIのデータが示している以上の物価の上昇があるだろう」とインフレに対して危機感を表明している。世界中の運用者は景気後退および金融不安とインフレの綱引きで明確な運用方針を持てないでいるが、コモディティを買ったり、インフレに名目的に連動する株式を買ったり、インフレ連動債をかったり、現在ポートフォリオの組み換え(インフレシフト)が進行中である。

5月15日の米国株式市場ではエネルギー株が買われS&P500種株価指数は4カ月ぶり高値をつけたが、これはポートフォリオ組み換えの象徴的な動きであり、現在の市場はサブプライム問題からインフレにマーケットテーマが変質していることを意味する。また、株価の予想変動率の指標であるCBOEのボラティリティ指数(俗称:恐怖指数)が昨年10月上旬以来の水準まで低下してきたが、これも国債市場から株式市場への資金移動とベアスターンズ救済以降の大量の資金供給による楽観の結果である。

S&P500種株価指数(上段)ボラティリティ指数(下段)の推移


(出所:石原順、ブルームバーグ)

外為市場ではこのところドル上昇で利益の上がるストラテジーを組む投資家が増えている。インフレ懸念からFOMCの追加利下げ観測が後退しているなかで修正高に過ぎないとしても、いましばらくはドルインデックスベースでのドル反騰相場は続きそうだ。

ドルインデックス(週足) アナログモデルの推移
(1990年3月から1992年3月のチャートと2007年4月から2008年5月16日までのチャートを重ね合わせたもの)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

ドル/円相場のほうは実需との攻防戦である。輸出企業の今年度の採算レートは104円70銭で今年度の想定レートを105円としている企業も多い。この重い抵抗をクリアして105円70銭や106円を超えてくればさらに上値が見込めるだろう。一方、105円が重いようだと今後103円レベルへの下落もあるだろう。現在、21日のボリンジャーバンドが収縮(標準偏差ボラティリティの低下)しており、筆者はここからの動き(ボリンジャーバンド拡大のタイミング)を注視しながら次の仕掛け時を待っているところである。

輸出企業採算円レートとドル/円相場の推移


(出所:石原順、ブルームバーグ、内閣府「企業行動に関するアンケート調査」)

ドル/円(日足)標準偏差ボラティリティと売買シグナル[買い=緑・売り=赤]


(出所:石原順、ブルームバーグ)

豪ドル/円(日足)標準偏差ボラティリティと売買シグナル[買い=緑・売り=赤]


(出所:石原順、ブルームバーグ)