※この記事は2018年2月9日に掲載されたものです。

 

投資小説:もう投資なんてしない⇒

第1章 なぜ、個人投資家は、儲かっていないのか?

<第1話>新橋・日比谷神社、先生との出会い

 隆一は、手帳の地図を見ながら、日比谷神社に向かっていた。深呼吸しながら。緊張というより、少しでも酔いをさまそうとしていたのかもしれない。

 赤い鳥居の横には、下へと向かう薄暗い階段が不自然にあった。隆一が降りきると、そこには、居酒屋の男が「重厚」と言ったオークのドアがあった。

 表札も看板もないのに怯んだが、引き返すわけにも行かず、隆一はドアを開けた。想像していたよりも部屋は明るく、神社の地下室というよりは、「蓼科の別荘の書斎みたいだな」と隆一は今朝の電車で見かけたリゾート物件の広告を思い出していた。

 入った部屋の大きさは8畳ほどで、初老の男性がカウチに座ってこちらを見ていた。

「ここを訪ねて来る人は久々ですね」と言って、彼の前にある椅子に座るよう促した。
「あなたが、先生、ですか?」と隆一が聞くと、
「そうです。私のことを先生、と呼んでもらってかまいません」と、<先生>は言った。

「君は、投資のことを学びにきたのですか?」
「そうです、近くの居酒屋で先生に教えてもらうことで、投資がうまくいくようになったという話を聞いて、ここにきました」

 隆一は、まだ先生に認めてもらえたわけでもないのに、おもむろに質問をした。