昨今の過剰流動性相場の源泉は日本の低金利であり、グローバリゼーションを演出し世界にマネーをばら撒いたのは米国経由のファンドマネーであった。デカップリング(先進国と新興国の非連動性)シナリオが流行しているが、この構造からは米国でリスク収縮が起こると対米輸出が減って新興国の成長も短期的には鈍化せざるを得ないだろう。

2008年の為替相場の動向は昨年までと同じく米国マネーの資産選択の結果を映すだろう。米国景気が持ちこたえデカップリングシナリオが実現すれば円安・ドル安傾向、米国でさらなるリスク収縮(株の暴落など)がおこればファンドマネーの本国回帰でドル高・上値限定の円高傾向(円キャリーの巻き戻し)となるだろう。

ドルインデックス(日足) 昨年11月からドルの下落基調が鈍化


(出所:石原順、ブルームバーグ)

筆者は昨年11月のアブダビ通貨庁のシティグループへの資本参加以来、金融市場のマーケットテーマが変質したと感じた。そして、米連銀・EUの中央銀行の常軌を逸した額の資本注入があったことでそれは決定的になったと思われる。為替市場においても金利差とか経済のファンダメンタルズのウエイトは以前ほど大きくない。現在のマーケットを支配しているのは「政治」である。

米国の金融機関に中東マネーやアジアマネーが大挙して流入する事態となった以上、株安・ドル安が今後も継続すれば米国の面子が立たないどころか今後の米国への資金収入に支障をきたすだろう。おそらく今後3~5ヵ月月程度は、政治的なユーロ安・ドル高が演出されることになるのではないだろうか。また先のブッシュ大統領の中東訪問で大幅な原油高の懸念もしばらくはないとみている。

オイルーマネーやSWFの米国金融機関への資本参加はすべて政治的なシナリオで動いているのである。サブプライムの損失やCDO、モノラインといった問題もすべては「政治」によって解決が図られるであろう。ブッシュ大統領の1500億ドルの景気対策、バーナンキFRB議長の0.75%の緊急利下げと米国は矢継ぎ早に対策を出しているのだが、マーケットの評判は芳しくない。しかし、財政出動は通貨高要因(マンデルフレミングの法則)であり、バーナンキモデルでは緊急利下げで金利を0.01%下げると、株価は0.05%上がるという実績値があるのである。過去の緊急利下げ後のパターンをみると1月29-30日のFOMCでも利下げが行われる可能性が大きい。ここからは日々の悲観的な報道に惑わされる必要はないだろう。政治的な流れによって株価の下方硬直の構造が出来つつあるからだ。

ドル/円(日足)21日ボリンジャーバンド 11月と同様のパターンか?


(出所:石原順、ブルームバーグ)

さて、ドル円相場の動向であるが、1月23日安値104円98銭で当面の底が入った可能性が出てきた。124円からのドル安のターゲットプライス105円 ±2円の中心値に到達し、日柄も十分である。その後の反発が弱いので悩ましい動きではあるが、現在ナベ底を形成中である。特筆すべきは21日のボリンジャーバンドの下限に到達せずに反発していることだ。昨年11月のドル反騰パターンと同じである。

日々報道されるニュースを見ていて感じることは、ドル本位制の崩壊とか米国覇権の失墜が報道されるなか、それとは逆に現時点ではユーロ圏も中国も湾岸諸国も本音ではどこもブレトンウッズ体制(ドル基軸通貨制)の崩壊など望んでいないということだ。当面、ドルに変わる受け皿はないのでドルが下がると困ってしまうのである。

注目指標:2月1日 米国雇用統計(失業率・非農業部門雇用者数)
非農業部門雇用者数(“季節調整前”)


(出所:石原順、ブルームバーグ)

経済・金融政策の究極の目的は雇用の維持である。2月1日に米雇用統計の発表がある。非常にブレが大きく後で大幅修正されるので、毎回アナリスト予想が外れるように正直出てみるまではわからない。特に非農業部門雇用者数は季節調整されてしまうと傾向がつかみにくい。ただし、季節調整前のデータからは米国企業で解雇が行われるのは1月と7月であることがわかる。筆者はエコノミストが注目している貿易収支にはさほど関心がないが、失業率には注目している。米国雇用統計の発表がつぎのドル相場の正念場となりそうだ。

米国失業率の推移 (1970年1月-2007年12月)


(出所:石原順、ブルームバーグ)