「エネルギー循環社会」を実現するために越えなければならないハードル

 克服しなければならないハードルは、以下の通りです。

【1】太陽由来のエネルギー活用:地球上に広く薄く拡散しているため、それを集めて効率よく発電する方法を見つけるのが簡単ではない。
【2】地球内部のエネルギー活用:地下深くに熱源が存在するため、そこまで水を送り込んで水蒸気に変えて発電タービンを回すのは簡単でない。
【3】核エネルギーを活用:安全性が担保できない。使用済み燃料の最終処分方法が決められない。

 以下、それぞれ簡単に現状を説明します。

【1】太陽由来のエネルギーを活用

 太陽光・風力・水力・潮力などのいわゆる自然エネルギーの活用が進められています。これらはすべて、元をただすとほとんど太陽由来のエネルギーです。

 太陽から地球まで、毎日、人間が使いきれない莫大なエネルギーが届いています。そのエネルギーはほとんど地球にとどまらず、宇宙に放出されます。このエネルギーのほんの一部だけでもうまく捕らえて人類が利用できるようにすれば、今あるエネルギー問題はすべて解決します。

 ところが、太陽から来るエネルギーは、地球上に広く薄く拡散しているため、それを集めて効率よく発電する方法を見つけるのが簡単ではありません。太陽光発電や太陽熱発電は、太陽エネルギーを直接とらえる方法ですが、それだけではとても人類が使うエネルギーに足りません。

 そこで、太陽エネルギーによって生まれる風力・水力・潮力などを使って、大量の電力を得ることも必要になっています。水力を除けば、自然エネルギーを使った発電はこれまで高コストのものが多く、補助金無しには普及が進みませんでした。

 ところが、近年、技術革新によって急速にコストが低下しています。太陽光を使ったメガソーラーの一部は、補助金無しでも、競争力のある低コスト発電となってきています。

【2】地球内部のエネルギーを活用

 地球内部にも、人類が使いきれない莫大なエネルギーがあります。地球内部へ30キロメートルも掘り進むと、高温のマントルに突き当たります。そこから内側は非常に高温です。地球全体を見渡すと、温度が低いのは私たちが生活している地表(地殻)だけということがわかります。そのエネルギーをうまく活用することも必要です。

 地球内部のエネルギーで発電することにチャレンジしているのが、高温岩体発電です。地球上どこでも、平均すると地下10キロメートルまで掘れば、300度Cくらいの高温帯に達します。そこへ水を送り込んで水蒸気に変え、その蒸気でタービンを回せば発電できます。

 ただし、そこまで深く掘り進んで、水を送り込むには大変なコストがかかります。現時点では、技術的にもコスト面でも、商業利用が可能な発電方法となっていません。

 地球内部のエネルギー活用で、すでに商業利用が可能な低コスト発電が、いわゆる「地熱発電」です。

 火山地帯などで、地下水が熱せられて水蒸気になり、地下2~3キロメートルの深さに閉じ込められている場所を、地熱資源と言います。そこから水蒸気を噴き出させ、その力を使って発電するのが、地熱発電です。

 良質な地熱資源が見つかれば、低コストの基盤電源として利用可能です。ただし、そのような地熱資源は、世界に遍在しています。日本・インドネシア・米国が、三大地熱資源国と言われていますが、それらの国の地熱資源だけでは、人類全体のエネルギーは賄えません。

 将来的には、地球内部を20~30キロメートル掘り進む、高温岩体発電を主流にしていく必要があります。

【3】核エネルギー

 ウランから核エネルギーを取り出して発電するのが、原子力発電です。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して行う「プルトニウム発電」まで安全に行うことができれば、莫大なエネルギー量を確保できます。

 ただし、核エネルギーの利用には、さまざまな危険が伴います。最終的に残る「核燃料廃棄物」の保管にも、莫大なコストがかかります。安全性と経済性の両面から、人類が永続的に使っていくエネルギーとするのは、困難と考えられます。

「エネルギー循環社会」を実現するまでに、ハードルはたくさんありますが、それでも私は、未来のエネルギー問題について、楽観的です。化石燃料が枯渇する前に、人類は太陽エネルギーや地球内部のエネルギーを積極的に活用する術を身に付けると、考えているからです。

 近年、代替エネルギーの開発が滞っているのは、安価な化石燃料が大量に存在する現状が変わらないからです。米国でシェールガス・オイルの生産が急拡大し、原油・ガス価格が急落した影響が大きいと言えます。

 1970年代には、「あと30年で地球上の石油資源は枯渇する」と言われたこともあります。しかし、それは誤りでした。

 その後、採掘可能な石油・ガスの埋蔵量は大幅に増加しました。採掘技術の進歩により、従来採掘が不可能と思われていた深海やシェール層の原油・ガスまで採掘できるようになったことが影響しています。

 日本の近海にも、メタンハイドレートと言われるエネルギー資源が大量に眠っていることがわかっています。メタンハイドレートはメタンが氷状になったもので、燃える氷ともいわれます。採掘コストが高いので商業利用は進んでいませんが、将来、技術革新が進めば、利用可能になる可能性もあります。

 このように、化石燃料の可採年数は、年々伸びる一方で、なかなか化石燃料の限界が見えません。数百年は、化石燃料への依存が続く可能性があると思います。ただ、その先を見据えて、自然エネルギーの活用技術もどんどん進歩していくと予想しています。