1.ADASの普及進む、レベル2の装着も始まる

今回は、自動運転の最近の動きをまとめます。

自動運転の各段階(レベル1からレベル4まで)は、表1の通りです。レベル1のADAS(先進運転支援システム、自動ブレーキを含む)は既に普及期に入っており、各自動車メーカーが発売する新車の多くにADASが装着され始めています。ADASが全車に標準装備されている車種もあります。

次の段階のレベル2は普及の初期段階ですが、欧米の高級車の一部に装着が始まっています。日本車でも昨年8月に日本で発売された日産のセレナに装着されました。

表2は、矢野経済研究所による自動運転の市場規模予測です。台数ベースでの予想ですが、ADASが推定で1台5~10万円、レベル2が同じく約20万円(日産セレナのプロパイロットを含むオプション価格が24.3万円)なので、ADASとレベル2で合わせて2020年に3.7~6.3兆円程度の市場規模になる見込みです。デンソーの2017年3月期売上見通しが4兆4400億円なので、ADASとレベル2の市場の10%を獲得しただけで、企業業績に大きなインパクトが生じることになります。日本の完成車メーカーの考え方がどうであれ、自動運転は自動車部品メーカー、車載用半導体メーカーと電子部品メーカーにとって、見過ごすことの出来ない市場なのです。

表1 自動運転の各段階

表2 自動運転システムの世界市場規模予測

2.自動運転の普及は進むが、日系メーカーの対応は様々

一方、レベル3以降の自動運転のロードマップについて、企業間で意見の相違も見られるようになりました。

レベル3(条件付自動運転)は、2018年以降に実車装着が始まると予想されています。ただし、日系完成車メーカーと欧米完成車メーカーとの間で意見が分かれています。トヨタ自動車は、アメリカのシリコンバレーに設立したトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)、デンソーでの開発、コンチネンタルその他の非系列の自動車部品メーカーからの部品調達の3本立てで、自動運転関連の開発を行っていると思われます。そして、トヨタは完全自動運転の普及に慎重であり、条件付自動運転とも言うべきレベル3についても積極的ではないと言われています。

この理由は、トヨタが完全自動運転の安全性に対して疑問を持っているからと思われます。SUBARU(4月1日付けで富士重工業からSUBARUに社名変更)によれば、日系メーカーとしては最初のADASである「アイサイトver.2」装着車の事故件数は非装着車に比べて約60%減っています。自動運転は手動運転よりも相対的に安全なのです。

ただし、事故率が限りなくゼロに向かっているというわけではありません。トヨタは、事故を限りなくゼロにするまでは完全自動運転を実車装着したくないと考えているようです。そして、レベル3は2020年以降に普及が始まり、一般道での完全自動運転システムの実車装着が始まるのは2025年からと考えているようです。自動運転で事故が起きたときに、完成車メーカーの責任にされることを恐れている可能性もあります。

ただし、TRIや他の大手自動車部品メーカーが十分に安全な完全自動運転システムを開発した場合、トヨタが早期にそのシステムを採用する可能性がないわけではありません。ちなみにその場合は、トヨタ向けに自動運転システムを開発しているデンソーは困った立場に置かれる可能性があります。

他の日系完成車メーカーの考え方は様々です。SUBARUは完全自動運転を実車装着するつもりは今のところありません。SUBARUが4月に発表した新車「XV」に装着している「アイサイトver.3」は機能は豊富ですがレベル1です。今後レベル2(ver.4?)を経てレベル3まで進む可能性はありますが、あくまでも運転席がある車を作るというのがSUBARUの基本方針です。

マツダも、「人馬一体」の走りを実現することが車作りの大方針であることから、レベル1のADASまでしか装着するつもりはない模様です。

一方、日産自動車は日系メーカーとしては初めてセレナにレベル2の「プロパイロット」を搭載したことから、自動運転には積極的と思われます。本田技研工業は、昨年12月に同社子会社の本田技術研究所とグーグルを傘下に持つ米アルファベットの子会社ウェイモ(自動運転開発子会社)との間で、米国における自動運転技術領域の共同研究に向けた検討を開始しました。

スズキは、日本ではADASのセンサをコンチネンタル、日立製作所の2社から調達しています。レベル2の開発までは目途がついている模様であり、開発力は低くありません。ただし、スズキの主力市場は自動運転よりも車の低価格化が重要なインドのような新興国なので、当面はADAS(レベル1)搭載車種を拡大する方針です。

3.自動運転への対応はいずれ「ブランド」価値に影響する可能性がある

自動運転については、欧米の完成車メーカー、自動車部品メーカー、IT会社、半導体会社に積極的な会社が多く、レベル3が登場すれば欧米完成車メーカーから普及が進むと思われます。

レベル4については、いずれは完全自動運転が普及するという意見を否定する自動車メーカー、自動車関連メーカーはいないと思われます。しかし、その時期が2020年以降なのか、2025年以降なのか、トヨタ自動車は高速道路での完全自動運転の普及は2020年以降、一般道での普及は2025年以降としているのに対して、フォードは2021年までに完全自動運転車の量産を始めるとしています(おそらく一般道用)。積極派は、緊急時にドライバーがいなければならないレベル3よりも、全てをAIでコントロールする完全自動運転のほうが開発が相対的に易しいと主張しています。もっとも、これが実際にどうかは、やってみなければわかりません。

また、自動運転に対する消費者の意見が国によって異なることが、完成車メーカーの自動運転に対する態度に影響を与えている可能性もあります。2017年3月1日付け日経新聞の記事によれば、日本では自動運転車を購入したくない人が44.3%で購入したい人が29.7%でした(元出所はMS&ADインシュアランスホールディングス)。2015年にボストンコンサルティンググループがアメリカで実施した調査によると自動運転車を購入したいが44%でした。

完全自動運転に慎重なトヨタに対して、例えばフォードのような積極派が先に完全自動運転を実現すれば、この分野ひいては自動車技術全体でトヨタは劣後してしまいます。その場合、トヨタは系列外から完全自動運転システムを調達する道がありますが、トヨタに従っているデンソーは、完全自動運転に乗り遅れるリスクがあります。将来の問題ですが、もしレベル3や完全自動運転が実現すれば、自動運転システムの装着の有無が車のブランド価値に影響する可能性があります。完成車メーカー、大手自動車部品メーカーの動きに注目したいと思います。

4.車載用半導体の重要性が増す

自動運転では、半導体と電子部品、それに搭載するAIなどのソフトウェアが重要になります。

表3は自動運転車の中で、各社がどの位置にいるかを示したものです。自動運転車を動かす場合、まずカメラ、ミリ波レーダー、Lidar(ライダー、レーザーを使って車の周囲を計測する)や各種センサで車の前方や周囲を計測します。そのデータをAI(人工知能)を搭載した車載用コンピュータに送って、エンジン、車輪、ブレーキなどの制御用半導体に必要な指示を伝えます。あるいは、運転席のディスプレイに情報を表示します。

表3のように、自動車の「見る」「考える」「感じる」の分野に様々な企業が参入しています。新規参入も多いです。例えば、「見る」の分野には、デンソー、NXPのようなこの分野の大手から、モービルアイなどの自動運転の新興勢力、車載用高感度イメージセンサーを開発したソニーなど多くの企業が参入しています。「考える」「感じる」の分野は、モービルアイを買収することになったインテル、ゲーム用画像半導体の大手であるエヌビディアといった有力半導体メーカーが新規参入しています。「感じる(ヒューマン・インターフェース)」に限ると、カーナビメーカーが活発な開発を行っています。

一方で、「操作する」、即ち制御系半導体の分野は企業が限られています。新規参入は既存企業を買収しない限り無理です。これはエンジン制御、ブレーキ制御などの制御系が車の中で最も重要で最も難易度が高い分野だからです。この分野で最も市場シェアが高い会社はルネサス エレクトロニクス、次はフリースケール(NXPに買収されたが、そのNXPを通信用半導体大手のクアルコムが買収する)、インフィニオンと続きます。この3~4社の車載用半導体メーカーが車を動かすノウハウを事実上独占しているのです。

更に、各々の要素技術を束ねて自動運転システムを作り上げるインテグレーターとしての大手自動車部品メーカーが重要です。世界的大手のボッシュ、デンソー、コンチネンタルの大手3社から、20位くらいまでの自動車部品メーカーが重要ですが、ここ数年、上位から下位の自動車部品メーカーや全くの外部企業が自動車部品メーカーを買収する事例が増えています。例えば、サムスンがアメリカのハーマンインターナショナル(年間売上高約7600億円、うち60%強が自動車向け)を80億ドルで買収することを決めました(2016年11月)。ハーマンはグローバルランキングでは下位メーカーですが、サムスンはハーマンを軸に「コネクテッドカー」を推進する目論見です。

また、パナソニックはかねてから資本参加していたスペインの自動車部品メーカー、フィコサ(年間売上高約1300億円)の株式を買い増して連結子会社化します(49%→69%へ)。

このように、車載用半導体や自動車部品の市場では活発なM&Aが起きています。

表3 自動運転の仕組みと関連企業

表4 車載用半導体メーカーの世界ランキング

表5 自動車部品メーカーの世界ランキング(2015年度)

5.注目銘柄

今回は注目銘柄として、ルネサス エレクトロニクス、アイシン精機、クラリオンを挙げました。

ルネサス エレクトロニクス(6723)

車載用半導体の重要分野で世界シェアトップ

ルネサスエレクトロニクスは、自動運転に関して、世界のトップクラスに入る可能性のある企業と思われます。顧客は日系、海外系の完成車メーカー、大手自動車部品メーカーであり、幅広い顧客層を持っています。足元の出荷の中心はレベル2の自動運転関連半導体で、レベル3関連の受注が入り始めた模様です。

世界ランキングは、後述のインターシル買収前は3位、買収後は2位と思われます。特に、エンジン制御用半導体のような難しい分野でトップシェアを持っています。自動運転向け半導体は、制御用だけでなく、上述の「見る」「考える」「感じる」の各分野の半導体を揃えています。また、電気自動車用半導体へも注力し始めました。

インターシル買収完了

2017年2月24日付けでアメリカの半導体メーカー「インターシル」の買収を完了しました(買収費用は約3200億円)。インターシルの2015年12月期は売上高5億2,200万ドル、営業損失1,400万ドル(ただし知的財産権の訴訟関連費用8,100万ドルを除くと6,700万ドルの黒字)で、1ドル=110円換算で売上高574億円、訴訟費用控除前の営業利益74億円の会社です。売上構成比は産業用35%、民生18%、コンピューティング17%、車載用12%なので、当社にとっては新分野の開拓が可能になります。

2017年12月期業績は順調な伸びが予想される

当社は、2017年12月期の有価証券報告書から国際会計基準(IFRS)を採用します。それまでは日本基準ですが、インターシル買収に伴うのれん代が確定するのが約1年後になるため、2017年12月期通期決算は日本基準でのれん代を償却した決算を出した後、有価証券報告書でIFRSベースののれん代を償却しない決算を出すことになります。のれん代を推定2000億円、20年償却として試算した日本基準の2017年12月期見通しを、IFRSベースの見通しとともに表6に載せました。

2016年12月期(9カ月決算)は、7-9月期が大底となって熊本地震の影響を脱して業績は回復してきました。2017年12月期も順調な成長が予想されます。

2017年12月期(IFRSベース)の楽天証券業績試算をもとに計算すると予想PERは21倍になります。過去の大赤字の影響で課税が少ない影響もありますが、車載用半導体の重要性を考慮すると、より高いPERが目指せると思われます。中長期の投資妙味を感じます。

表6 ルネサス エレクトロニクスの業績

表7 車載用半導体市場におけるルネサスの市場シェア(1位の分野のみ)

アイシン精機(7259)

オートマティックトランスミッションで世界トップ

2017年3月期1-3Q累計売上高の60.3%がトヨタグループ向け(トヨタのほか、日野、ダイハツなど)です。このほか、フォルクスワーゲン、アウディ、BMW、PSA、ボルボ、GM、日産、スズキなど、数多くの自動車メーカーと取引があります。

主力製品はオートマティックトランスミッション(AT)で、世界市場で15~17%のトップシェアを持っています(2位はジャトコ約10%)。アメリカを除く日本、中国、アジアなどで新車販売台数が堅調に伸びているため、ATの販売台数も伸びています。また、現在の主流である6速ATから8速ATへのシフトが各地域で始まっています。アイシン精機全体では、6速比率が約60%、8速が約15%ですが、BMWやトヨタが8速の車を増やしています。8速ATは6速ATよりも単価が10~20%程度高くなるため、この動きは業績に寄与しています。

オートパーキングシステムに注力

自動運転では、自動ブレーキとオートパーキングシステムに注力しています。特にオートパーキングシステムはトヨタグループの中で当社が担当することになった模様です(一般道、高速道路での高速自動運転はデンソーの担当)。トヨタ向けでは、新型プリウスに当社製オートパーキングシステムが初めて搭載されました。今後採用車種の増加が予想されます。

現在のオートパーキングシステムは、運転席にドライバーが座り、アクセルを操作しなければなりません。ハンドル操作のみ自動車が行います。ただし、2020年以降には、外部から遠隔操作すると無人で駐車が可能になるバレーパーキングが実用化されると思われます。

2018年3月期も堅調に業績拡大へ

ここでデンソーではなく、アイシン精機を取り上げた理由は以下の通りです。デンソーは北米事業の比重が比較的大きく、車のグレードによって価格が高くなる先端部品も比較的多いため、アメリカ新車販売の減少が続く場合、その影響を受ける可能性があります。これに対して、アイシン精機の業績は、地域別動向よりもATの総出荷数量と為替レートが重要であり(アメリカ向けATと新興国向けATで採算に大きな差はない模様)、更に6速から8速への転換が2018年3月期業績にとって重要となると思われるためです。

また、自動運転については、一般道で走る高速自動運転が担当のデンソーは、トヨタの考え方に振り回されるリスクがあると思われます。一方、アイシン精機が手掛けるオートパーキングシステムは、特に都市部の新車販促にとって重要なツールとなっており、バレーパーキングへの技術進歩についても大きな異論はありません。オートパーキングシステムの重要性はもっと注目されてもよいと思われます。

中長期の投資妙味を感じます。

表8 アイシン精機の業績

クラリオン(6796)

日立製作所の子会社

カーナビゲーションの大手です。株式の63.8%を日立製作所が保有しています。2006年に日立製作所の傘下に入りました。日立製作所の自動車部品部門である日立オートモティブシステムズの重要部門という位置付けになっています。日立オートモティブシステムズはグローバルランキング23位ですが、日産自動車、SUBARUなど優良顧客を持ち、SUBARUのアイサイトを生産販売するなど、重要な事業を展開しています。

オートパーキングシステムが重要になってきた

自動運転関連事業として、ADASのセンサ部分とオートパーキングシステムを手掛けています。ADASについては、競争が激しい乗用車向けよりも、農機、建機、商用車向けに営業しており、2018年3月期から成果が出る見込みです。

また、オートパーキングシステムを複数の完成車メーカーに納入している模様です。オートパーキングシステムは、ADAS関連に比べて参入企業が少なく、当社の自動運転関連の核となると思われます。

現在の自動運転関連売上高は全社売上高の14~15%と思われます。今後はこの比率が上昇し、業績への自動運転関連事業の寄与が大きくなっていくと思われます。ADAS関連とオートパーキングシステムの顧客開拓に注力しており、今後数年間で成果が期待されます。

自動運転関連の中で、センサだけでなく、実際に自動車を動かす制御系(オートパーキングシステム)を手掛けることが出来る企業は日本では少数です。この点を評価したいと思います。

表9 クラリオンの業績