1.世界の半導体出荷は順調に拡大中

今回は、3月3日に掲載した「特集:半導体製造装置」の続きです。半導体製造装置株の投資妙味を探って行きたいと思います。

世界の半導体出荷は順調に伸びています。グラフ1と表1は出荷先別の半導体出荷金額の動きを見たものですが、多くのハイテク産業が集中する中国だけでなく、アメリカ、日本でも半導体需要が伸びていることが分ります。スマートフォン、企業向けサーバー、データセンター向けSSDとサーバーなどから、IoT(Internet of Things)の初期需要まで、様々な分野で半導体需要が増えています。

グラフ1 世界の半導体出荷金額

(単位:1,000ドル、3カ月移動平均、出所:米国半導体工業会(SIA)より楽天証券作成、注:2015年3月から「アジア太平洋・その他」から「中国」を分離)

表1 世界の半導体出荷金額(出荷向け先別、3カ月移動平均)

半導体市況も上昇しています。昨年秋からDRAM市況が急騰しています。NAND型フラッシュメモリも昨年夏から上昇しており、現在もジリ高となっています。特にNAND型フラッシュメモリはスマートフォンのストレージ容量拡大に伴う需要と、データセンター用SSD(NAND型フラッシュメモリを使った記録媒体、ハードディスクドライブ(HDD)を置き換え始めている)向けの需要の両方が増えており、現在はスマホ向けに優先的に供給されています。スマホユーザーの動画ブームがスマホのストレージ容量拡大を引き起こし、企業のビッグデータブームと相まってデータセンターのSSD化を引き起こしているのです。

NAND型フラッシュメモリは各社(1位サムスン、2位東芝、3位ウェスタン・デジタル(サンディスク、東芝と提携))とも設備投資と増産を急いでいますが、需要が強いため当面の市況は高い状態が続くと思われます。メモリ市況の強さは、メモリメーカーの好業績と設備投資の増加にも繋がっています。また、後述のようにフラッシュメモリによってMPUの高速化需要が喚起されているため、半導体市場全体が好況になっています。

グラフ2 NAND型フラッシュメモリの市況

(単位:ドル、多値品、出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成)

グラフ3 DRAMの市況

(単位:ドル、4ギガビット(DDR3)、出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成)

2.2018年から中国の大型投資と5ナノ投資開始か

半導体設備投資も、2016年に続き2017年も活発な動きが予想されます。グラフ2は日本製半導体製造装置の受注額と販売額の推移を見たものです(各々3カ月移動平均)。年明け後の受注は、2000年8月の2,064億円、2007年2月の1,956億円に匹敵する水準に近付きつつあります。

サムスンのNAND型フラッシュメモリ向けの大型投資の前倒し発注や、TSMCなどのロジックファウンドリ(半導体受託生産業者)の設備投資の影響で、2016年10-12月期は東京エレクトロンなどの前工程機器メーカー中心に半導体製造装置受注が大きく伸びました。特に12月はサムスンの前倒し発注で業界全体で受注が伸びたと言われています。

年明け後は12月の水準を上回るほどではない模様ですが、半導体製造装置の各々の分野の大手企業で、高水準の受注が続いている模様です。実際に3カ月移動平均の受注高は、2016年12月1,649億円(前年比48.2%増、前月比13.0%増)、2017年1月1,796億円(前年比51.3%増、前月比8.9%増)、2017年2月1,860億円(前年比47.3%増、前月比3.6%増)と増加しています。

グラフ4 日本の半導体製造装置:受注額と販売額

(単位:百万円、日本製装置の3カ月平均、出所:日本半導体製造装置協会より楽天証券作成)

グラフ5 日本の半導体製造装置:BBレシオ

(単位:倍、BBレシオは受注額÷販売額、受注、販売の3カ月移動平均より計算、出所:日本半導体製造装置協会より楽天証券作成、
注:BBレシオは1を上回れば好況、1を下回れば不況と見る)

グラフ4から過去の受注トレンドを見ると、今が今回の半導体設備投資ブームのピークと考えることも出来そうですが、実際には今のところピーク感はないようです。まず、上述のようにNAND型フラッシュメモリの需要が増加しており、品不足になっています。NAND型フラッシュメモリを使ったSSDを使うと、データセンターではHDDを使うよりも大容量データの高速処理が可能になります。そのため、データセンターのサーバーのCPUや、データセンターに繋がるスマホなどの通信機器、パソコンのCPUについても、より高速なものが求められるようになります。この傾向が続けば、スマホやデータセンターに繋がっているもの、パソコン、各種の通信機器から、近い将来の自動車(自動運転車やコネクテッドカー)、家電、工作機械、各種の公共インフラなどのCPUや周辺回路も大容量高速化することになります(図1)。この流れが始まっているようです。

例えば、世界最大のロジックファウンドリ(半導体受託生産業者、通信用、自動車用、産業用など各種のロジックICを受託生産する)であるTSMCは、2017年下期から最先端の線幅10ナノ半導体を出荷開始する計画です。そして設備投資の主流は、今年から10ナノから7ナノに移行すると思われます。7ナノの出荷開始は2018年になると言われています。

更に、TSMCは2019年下期から5ナノ半導体の試験生産に着手する計画です。5ナノ半導体の設備は2018年着工、2020年に稼動開始する模様ですが、今のところ想定される5ナノ半導体の主な用途はAI(人工知能)と自動運転です。

また、2018年からは中国各地で半導体の大型投資が始まると予想されます。中国は国策で半導体産業を育成する方針であり、今後10年間で1,610億ドル(約18兆円)を投じると言われています。表3では着工時期未定のプロジェクトが多いですが、この多くが2018年から設備投資を開始すると予想されています。

半導体製造装置メーカーには、中国の半導体投資関連と5ナノ投資に関する製造装置の引き合いが来ている模様です。本格的な商談も近い将来始まると思われます。今回の半導体設備投資ブームは、これらの要因で長期ブームになる可能性があります。

図1 IoTの世界(全てが繋がり、全てが高速化する)

出所:楽天証券作成

表2 大手半導体メーカーの設備投資額

表3 中国の300mm(12インチ)半導体工場建設計画

3.半導体製造装置受注は高水準を維持か、前工程、後工程ともに銘柄を選んで投資したい

半導体設備投資にはシリコンウェハ上に微細回路を書き込んでいく「前工程」と、ウェハからチップを切り出し、組み立てて検査する「後工程」があります。半導体設備投資の70~80%が前工程であり、半導体設備投資の動きに前工程の関連機器需要は敏感です。一方、後工程の機器、テスター、ダイサーなどは、工場の稼働率が上昇した後や、新工場の場合は前工程機器の据付が終わった後に後工程の機器が納入される傾向があり、遅れて投資が始まる傾向があります。

逆に言えば、前工程のエッチング装置、コータ/デベロッパ(東京エレクトロンなど)、洗浄装置(SCREENホールディングス、東京エレクトロンなど)などの前工程の重要機器への投資が動き出していることを考えると、テスター(アドバンテストなど)のような後工程の需要機器への投資は、2017年1-3月期から来期2018年3月期にかけて活発になる可能性があります。

ここでは、生産、販売している機器のシェアと重要性、PERの水準を考えて、東京エレクトロン、SCREENホールディングス、レーザーテック、アドバンテストを取り上げました。

表4 半導体製造装置の主要製品市場シェア

4.注目銘柄

東京エレクトロン(8035)

表4のように、コータ/デベロッパ(ウェハ上でフォトレジスト(感光剤)の塗布と現像を行う)、熱処理成膜装置(ウェハ上に回路を描画するための膜を熱酸化で形成する)で世界シェアトップの会社です。半導体製造装置会社の世界ランキング4位で、前工程機器のメーカーとして世界的な会社です。

会社側は足元の受注動向についてコメントしませんが、市場シェア、会社規模の大きさを考えると、日本製半導体製造装置の受注が増加している場合は、東京エレクトロンの受注も増加傾向にあると考えてよいと思われます。

引き続き投資妙味を感じます。

グラフ6 東京エレクトロンの四半期受注金額

(単位:億円、出所会社資料より楽天証券作成)

表5 東京エレクトロンの業績

SCREENホールディングス(7735)

SCREENホールディングスは、前工程でも重要な洗浄装置でトップシェア(45~50%)を持っています。特に、微細化が進む中で主流になっている枚様式洗浄装置(ウェハを回転させず、薬液を流して水で洗う方式)で約40%のトップシェアを持っています。微細化が進むに連れて、微細なごみを水で洗浄する必要があるため、半導体工場では1ライン当たり20~30台の洗浄装置が使われています。露光装置、エッチング装置、成膜装置などと並んで、洗浄装置は重要装置なのです。

SCREENホールディングスは、液晶や有機EL用のFPD(フラットパネルディスプレイ)製造装置も手掛けています(ファインテックソリューション事業)。FPD用コータ/デベロッパ(ガラス基板上でフォトレジスト(感光剤)の塗布と現像を行う)で世界シェア約80%を得ています。ただし、FPD向けは需要の上下変動が半導体製造装置よりも大きい事業です。足元の受注は高水準ですが一服している模様です。

セミコンダクターソリューション事業(半導体製造装置)の営業利益率が傾向的に上昇しています。2017年3月期1-3Q累計の営業利益率は12.9%で、前1-3Q累計の9.6%を上回りました。半導体製造装置が牽引し、今期は全社で32%営業増益の見通しです。来期も20%台の営業増益が期待できると思われます。

SCREENホールディングスも投資妙味を感じる銘柄です。

グラフ7 SCREENホールディングスの受注高

(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成)

表6 SCREENホールディングスの業績

レーザーテック(6920)

露光装置を使ってシリコンウェハに半導体回路を描画するときに、フォトマスクという回路図を書き込んだ原版を使います。レーザーテックは、これの欠陥検査装置(マスク欠陥検査装置)で市場シェア50%の会社です(シェアは会社コメントによる。以下同様)。また、マスクの原材料であるマスクブランクスの検査装置、マスクブランクス欠陥検査装置では市場シェア100%の会社です。前者は好調な時で市場規模150億円、後者は同じく60億円の比較的小さい市場ですが、高い市場シェアを得ることで、営業利益率20%以上の高い収益率を実現しています。

3月21日付けで当社は次世代のマスクブランクス欠陥検査装置を受注したと発表しました。受注金額は約40億円(1台)で、2019年6月期以降の納入になります。顧客名、納入されるラインの種類などの詳細は不明ですが、半導体メーカー向けではなく大手マスクブランクスメーカー向けです(例えばHOYA、凸版印刷などの1社?)。また、推定ですがEUV(極端紫外線露光装置、5ナノ以降の製造ラインで使う)を使った最先端ライン向けと思われます。

マスクブランクスは半導体生産のための重要部材であり、これの最先端分野の受注が動き出したということは、半導体設備投資全体の今後を考えるときに重要です。

受注が好調なことから、2018年6月期、2019年6月期と20%以上の営業増益が期待できると思われます。引き続き投資妙味を感じます。

グラフ8 レーザーテック受注高推移

(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成)

表7 レーザーテックの業績

アドバンテスト(6857)

前工程の大手各社の受注が活発なのに対して、後工程の中でも重要装置であるテスタは前工程ほどの勢いはありません。アドバンテストの場合、同社が得意なメモリテスタよりも競合するテラダインが高いシェアを持つ非メモリテスタの需要が強いこと、テスタの耐用年数が長くなっており、微細化投資の重点が前工程であることもあり、テスタに十分な新規投資が行われていないという事情もあるようです。

ただし、半導体工場の高稼働率が長期化し、先端工場の着工が続く場合は、従来よりも活発なテスタ投資が行われる可能性はあります。その意味で今後の受注に期待したいと思います。

また、2001年3月期2Q(2000年7-9月期)をピークとする受注の大きな山の時期に発注されたテスタが更新期を迎えています(グラフ9)。この更新需要がどの程度発生するかも注目点です。

グラフ9 アドバンテストの全社受注高

(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成、
注:2000年3月期1Qから2002年3月期4Qまでは会社資料を基に楽天証券推定)

表8 アドバンテストの業績

銘柄コメント:東芝

ウェスチングハウスは米国連邦倒産法第11章を申請した

東芝の原発子会社「ウェスチングハウス(WH)」(アメリカ)とWHの米国関係会社で米国外の事業会社群の持株会社である東芝原子力エナジーホールディングス(英国)社(以下、TNEH(UK))は、3月29日(現地時間)に米国連邦倒産法第11章(以下チャプター11(イレブン))に基く再生手続きを申し立てることを決議し、同日付けでニューヨーク州連邦破産裁判所に申し立てました。チャプター11は日本の民事再生法に相当します。

3月29日(日本時間)、東芝は説明会を開催し、この件と当面の見通しを説明しました。それによれば、チャプター11の申し立てによって、当面は以下のようになります。

  • 再生手続きの開始により東芝の実質支配から外れるため、WHは2017年3月期通期決算より東芝の連結対象から外れる。これによって、WHのリスクから東芝は遮断されるというのが東芝の見解である。
  • WHが事業を継続するために、8億ドルのDIPファイナンスを調達し、そのうち2億ドルを上限として東芝が債務保証する予定。
  • 建設費用の増大が問題となっているWHが建設中の2つの原発プロジェクト(ジョージア・パワー・カンパニー(サザーン電力子会社)のボーグル3、4号機と、サウス・カリフォルニア・エレクトリック&ガス・カンパニー(SCANA電力子会社)のV.Cサマー2、3号機)については、顧客である電力会社とこの申し立て後の作業継続について合意を目指して協議しているが、協議中は顧客の電力会社が建設コストを支払う。
  • WH及びTNEH(UK)の負債総額は98億1,100万ドル(2016年12月31日現在)で、このうち12億8,700万ドルは、東芝グループに対するもの。
  • 東芝グループのWH及びTNEH(UK)に対する出資持分は、WH4,176億円、TNEH(UK)1,462億円。東芝グループのWH及びTNEH(UK)に対する債権総額は約1,756億円(2月末現在)。

WHチャプター11申請の東芝の業績への影響

説明会と説明会資料によれば、WHがチャプター11を申し立てたことによる業績への影響は以下の通りです。

  • 東芝の決算への影響は2017年3月期3Qからではなく、2017年3月期通期決算からになる。
  • チャプター11を申し立てたため再生手続きは即日開始されたが、WHとTNEH(UK)の再建計画は今後決まるため(まだ確定していない)、決算への影響は現時点では確定出来ない。ただし、概算すると以下のようになる。
  • WH非連結化により、のれん減損をしなくてもよくなる一方で、契約上の親会社保証額(2017年2月末現在で約6,500億円)の全額引き当てと、債権全額(1,756億円)に対する貸倒引当金を見積もる必要がでてくる。この場合、2017年3月期当期純損益見通しが2月14日公表の3,900億円の赤字から1兆100億円の赤字になる可能性がある。
  • また、2017年3月末株主資本は、2月14日公表の見通しである1,500億円のマイナスから6,200億円のマイナスに、連結純資産は同じくプラス1,100億円からマイナス3,400億円となる。即ち、株主資本ベースで債務超過となるだけでなく、純資産ベースでも債務超過となる見通し。
  • WHの再建計画が固まって最終的にWHの債権債務が確定するまで、WHの東芝に対する影響度合いは不確実である。顧客である電力会社2社から訴訟を起こされる可能性がある。アメリカ政府もボーグル原発に関し、電力会社に83億ドル(約9,400億円)の債務保証枠を設けて建設を支援しているため、関与する可能性もある。上記の当期純損益見通しと株主資本、連結純資産見通しはあくまでも試算であり、赤字幅、マイナス幅が拡大する可能性がある。

次の関門は東芝メモリの売却交渉

3月30日に東芝は臨時株主総会を開催し、メモリ事業の会社分割が決議されました。2月24日付けプレスリリースによれば、新会社「東芝メモリ」に分割される資産(流動資産と固定資産)は7,537億円、負債は1,614億円なので、単純計算では純資産は5,923億円になります。

上場廃止を回避するために6,200億円の株主資本のマイナスを埋めるためには、東芝メモリ売却でこれ以上の売却益を出す必要があります。東芝メモリの持ち分の全部を売却する場合は、コストが5,923億円なので、税金を考慮すると1兆5,000億円以上で売却する必要があると思われます。出来るだけ高値で全部売却し、株主資本のマイナスを埋めるだけでなく、再成長するための成長資金を確保する考え方もあると思われます。

しかし、東芝が東芝メモリを全部売却したくない場合は、1.5兆円より高い時価総額が必要になります(今の報道の論調は全部売却です)。将来上場する可能性があるのか、東芝が一部持ち株を残す場合、どの程度の持ち株比率にしたいのか、政府系ファンド、政府系金融機関は実際に関与するのか、なども東芝メモリの株価と想定時価総額を決める重要なポイントになります。

ちなみに、報道では2兆円の買収金額を提示した投資家がいるということです。この調子で買収額が上昇していけば、東芝メモリを東芝の持ち分法適用会社(持ち株比率20%以上)にする、あるいは特別総会で拒否権を持てる33.4%の持ち株比率を確保することも可能かもしれません(東芝と投資家がそれを望めばの話ですが、東芝メモリが将来上場するという話なら可能かもしれません)。今後の動きを注視したいと思います。

東芝は再建に向けて動き出しているが、上場廃止リスクは依然としてある

WHのチャプター11申請によって事態は大きく前進しました。WHの再建計画が軌道に乗れば、WHと東芝は原発建設費用の増大から免れることが出来ます。そして、東芝の目論み通りに事が運べば、東芝はWHと事実上縁切りが出来る可能性があります。

ただし、再建計画が固まってWHの債権債務が確定しない以上は(再建計画がいつまでに固まるのか不明)、補填すべき株主資本のマイナス分も現時点ではあくまでも想定上のものです。従って、東芝を取り巻く環境にはまだまだ流動的なものが多く、ニュースに気をつける必要があります。

なお、東芝メモリの売却益で株主資本のマイナスが補填され、上場廃止を免れることと、現在東京証券取引所が審査中の内部管理体制確認書(3月15日提出)が不合格の場合に上場廃止となることとは別の問題です。株主資本のマイナスが補填されても、東証が内部管理体制確認書を合格とするまで上場廃止リスクがなくなったわけではないことに注意する必要があります。当面は4月11日に延期された2017年3月期3Q決算発表が予定通り行われるか、更に2017年3月期通期決算がいつ公表できるのかが焦点となると思われます。