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任天堂

3月3日、「ニンテンドースイッチ」発売

3月3日金曜日、「ニンテンドースイッチ」が発売されました。良い機会なので、暫定値ながら任天堂とソニーの今後の業績を試算し、ゲーム事業の今後を展望してみたいと思います。

ニンテンドースイッチのハードウェアは、事前予約と発売初日の店頭販売分は完売しており、次の出荷を待つ段階です。ファミ通によれば、日本での発売後3日間の販売台数は33万637台でした。Wii Uは発売後2日間で約31万台だったので同じような売れ行きでした。ソフトで最も多かったのは「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」で19万3,060本(ただしパッケージ版のみ)でした。

任天堂によれば、2017年3月期のスイッチ出荷計画は200万台ですが、これ以上に生産しているため、計画以上の出荷が数十万台あると思われます。ただし、それも全て売り切れると思われます。また、年度内の販売計画200万台のうち、推定で半分程度が北米向け、残りが欧州向け、日本向けの順に分け合うと思われます。

既に多くのプレイヤーがネット通販の書き込みやYouTubeなどでスイッチのハード、ソフトを評価しています。ハード同時発売の任天堂製ソフトは「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」と「1-2-スイッチ」の2作ですが、「ゼルダの伝説」の評価が高いようです。

今後の任天堂製ソフト発売スケジュールを下に示しますが、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」「マリオカート8 デラックス」「ARMS」「Splatoon2」「スーパーマリオ オデッセイ」の5作が重要になると思われます。

サードパーティのソフトも沢山出ます。ハード発売時には、スクウェア・エニックス・ホールディングス、コナミ、コーエーテクモホールディングスなどがスイッチ用ソフトを発売しました。ただし、これまでの新型ゲーム機の立ち上げ時の傾向では、最初の1年目はサードパーティのソフトは他のゲーム機からの移植もの、リメイクものが中心です。そして、ハード会社の新作ソフトの人気度合いとハードの普及度合いを見定めてから、新作を投入するというケースが多くなっています。新型ゲーム機を立ち上げるのはハード会社のゲームソフトなのです。

ニンテンドースイッチは年末まで重要ゲームが切れ目なく発売されるため、順調に普及が進むと思われます。後は、ハードの増産がどこまで進むかですが、2018年3月期は平均月産100万台以上が必要になると思われます。

ニンテンドースイッチ用ソフトの発売計画(任天堂製のみ、価格は全て税抜き)

2017年3月3日 「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(6,980円)
「1-2-スイッチ」(4,980円)
「いっしょにチョキッとスニッパーズ」(1,667円、ダウンロード専用)
2017年4月28日 「マリオカート8 デラックス」(5,980円)
2017年春 「ARMS」(5,980円)
2017年夏 「Splatoon2」(価格未定)
2017年冬 「スーパーマリオ オデッセイ」(価格未定)
2017年 「ゼノブレイド2」(価格未定)

グラフ1 任天堂のゲームサイクル:据置型ゲーム・ハードウェア

(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

グラフ2 任天堂のゲームサイクル:据置型ゲーム・ソフトウェア

(単位:万本、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

任天堂のスマホゲームはどうなるのか

任天堂のスマートフォンゲームは、これまでに2作配信されました。2016年12月16日(日本時間)配信開始のiOS版「スーパーマリオラン」と2017年2月2日配信開始のiOS版、Android版「ファイアーエムブレムヒーローズ」です。両ソフトとも事前の期待は大きかったのですが、課金収入は株式市場の期待通りには伸びていないようです。

課金方法は、「スーパーマリオラン」は日本では1,200円の買い切り(海外では9.99ドル、9.99ユーロ)、「ファイアーエムブレムヒーローズ」はアイテム課金でガチャがあります。課金が伸びていない理由は、「スーパーマリオラン」の場合は、アイテム課金に慣れたスマホゲームのユーザーには1,200円は高いと感じられたこと、ゲームが難しく、課金が必要な段階まで到達したユーザーが多くなかったと思われることなどです。「ファイアーエムブレム」の場合は、もともとマニア向けのゲームであり、「マリオ」ほどポピュラーではないこと、日本の他のスマホゲームのように、派手にガチャを煽ることを控えているためと思われます。任天堂の主なユーザー層は、小中学生とその家族、地域は日本よりもアメリカ、欧州市場が大きいので、日本の高額課金型スマホゲームのようにガチャを煽ることにはリスクがあります。

要するに、最初に無料でプレイ出来るスマホゲームは家庭用ゲームに比べはるかに課金が難しいということです。また、任天堂のゲームは各種の操作が重要な家庭用ゲームであり、画面をタップするだけのスマホゲームに向いていないのかもしれません。

iOS版「スーパーマリオラン」のダウンロード数は、昨年12月23日に5,000万DLを突破しましたが、iOSのダウンロードランキングを見ると、年明け後は勢いが落ちています。「ファイアーエムブレム」のダウンロード数は不明ですが、500~1,000万DLと思われます。両ソフトともダウンロード数に対する課金比率が10%未満と推定されるため、スマホゲームの今期営業利益は数十億円に留まると思われます。3月中にはAndroid版「スーパーマリオラン」が配信開始される計画ですが、これは来期に寄与すると思われます。

来期は、「どうぶつの森」など2~3作が配信開始される計画です。スマホゲームの営業利益は今期よりも伸びると思われますが、スマホゲームが短期間で大きな利益を生み出すことは困難と思われます。

ただし、「ポケモンGO」の効果もあって3DS版「ポケットモンスター サン・ムーン」が好調に売れるなど、スマホゲームは家庭用ゲームに対する広告効果が大きいことが確認できました。実際に「スーパーマリオラン」や「ファイアーエムブレムヒーローズ」をプレイすると家庭用ゲームをやりたくなります。この効果には無視できないものがあります。

家庭用ゲーム主軸に再成長へ

スマホゲームの大きな寄与が期待できない場合でも、家庭用ゲーム事業だけで高成長が実現出来ると思われます。表1は、暫定値ですが、スマホゲームの寄与を相当小さく見た場合の任天堂の業績予想です(前回の予想は、2016年8月19日付け楽天証券投資WEEKLYを参照)。ニンテンドースイッチのハード販売台数とソフト販売本数は、2017年3月期200万台、900万本、2018年3月期1,400万台、6,800万本、2019年3月期2,000万台、1億2,600万本と予想しました。(ソフト販売本数は、任天堂製とサードパーティ製を含む)ソフトのラインナップを見ると、スイッチのハードが順調に売れて、ハードの累積の上に更にソフトが売れる累積効果が発現すると考えられます。

また、ニンテンドー3DSはスマホゲームとの相乗効果が大きいと思われることから、当面急減はせず、3DS用ゲームは、2017年3月期5,500万本、2018年3月期5,000万本、2019年3月期4,000万本と予想しました。

前回予想では、スマホゲームの営業利益が2018年3月期から1,000億円を超えると予想していましたが、これはあまりに過大な予想でした。「ポケモンGOプラス」も今期2,000万個の販売を予想していましたが、実際には100万個に届かないと思われます。一方で、3DS用ソフトは前回予想よりも減少が緩やかになると思われますが、これはスマホゲームの広告効果が寄与すると思われるためです。また、スイッチのハードウェアは、前回は定価25,000円で今期は赤字、来期も利益ゼロと想定していましたが、実際には29,980円で初年度から黒字になっていると思われます。

これらを総合すると、任天堂の営業利益は2017年3月期200億円、2018年3月期1,700億円、2019年3月期3,100億円と予想されます。昨年8月に予想した2018年3月期2,000億円、2019年3月期4,000億円には届きませんが、高率の利益成長は可能と思われます。株価もまず3万円台の前半、ついで来々期が見通せるようになると3万円台後半が目標になると思われます。十分な投資妙味があると思われます。

表1 任天堂の業績試算(2017年3月)

表2 任天堂の業績試算の前提(2017年3月)

グラフ3 任天堂の長期業績

(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

ニンテンドースイッチは携帯型ゲーム機としても使われるのか

ニンテンドースイッチは、第一の攻略目標を据置型ゲーム機の熱心なユーザーが多いアメリカ市場としているため、基本的にテレビの前で使う据置型ゲーム機です。しかし、画面の横にジョイコンをつけて携帯型ゲーム機としても使えます。実際に、電車の中で「ゼルダ」をプレイしている人を見かけるようになりました。

上記の業績予想は、ニンテンドースイッチを据置型機として販売台数、販売本数を予想したものです。この場合、1世帯が1台購入する購入パターンになります。ところが、携帯型として使う場合は、1人1台になります。据置型機としても使い、携帯型機としても使う場合は、従来の据置機の需要と携帯機の需要を合算したものが総需要になると思われます。例えば、Wiiは累計販売台数が約1億台、DSは約1.4億台でした。もし、スイッチの需要が据置型機、携帯型機両方にまたがるものであって、人気がWii、DSに並ぶものであれば、今後8~10年間に累計でWiiを抜く1億台以上のハード需要が発生し(天井が高くなり)、通常上り3年下り5年のゲームサイクルが上り5年程度に伸びる可能性があります。

この問題は、ニンテンドー3DSの後継機問題にも繋がります(今回の業績予想では3DSの後継機は想定していません)。任天堂は3DSの後継機については肯定も否定もしていませんが、様々なタイプのハードウェアに関して研究開発しています。スイッチが携帯型機として多用されるならば、3DSの後継機が発売される可能性は低いかもしれませんが、そうでない場合、あるいは、より小型の携帯型機が欲しいというユーザーの要望がある場合には(スイッチを携帯型機として使うには少し大きいという意見があるかもしれません)、2~3年後に3DSの後継機を発売する可能性があります。これも重要な成長ドライバーになるでしょう。

任天堂のゲーム戦略が今後どうなるのかを予想するには、今後1年程度、ユーザーがスイッチをどう使うのかを見定める必要があります。スイッチの動きを注意深く観察したいと思います。

グラフ4 任天堂のゲームサイクル:携帯型ゲーム・ハードウェア

(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

グラフ5 任天堂のゲームサイクル:携帯型ゲーム・ソフトウェア

(単位:万本、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

ソニー

PS4の好調続く

ソニー・ゲーム部門(ゲーム&ネットワークサービス事業)も順調に伸びています。2017年3月期のPS4販売計画は2,000万台ですが、これは達成出来ると思われます。特に、上位機種の「PS4Pro」は4Kテレビ対応になっていることから人気です。

ソフトもソニー製「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」が昨年末までに870万本売れました。このような自社製大型ソフトが出てくると、ゲーム部門の利益に厚みがついてきます。

ゲーム部門の今期会社予想営業利益1,350億円も実現出来ると思われます。楽天証券では、PS4は当面年間2,000万台強の販売が続くと思われることから、2018年3月期営業利益1,800億円、2019年3月期2,200億円と予想しています。ここでピークになる可能性もありますが、優良ソフトが数多く出ているので、緩やかに横ばいから下方局面入りすると思われます。

グラフ6 ソニーのゲームサイクル:プレイステーションの販売台数

(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

グラフ7 ソニー・ゲーム&ネットワークサービス事業の業績

(単位:百万円、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

VRブームは実質的に来期から

昨年10月発売のプレイステーションVR(PSVR)については、今年2月19日時点で全世界実売台数が91.5万台になりました。通常このような注目される付属品は、累計販売台数の10%程度の実需があると思われます。今年1月1日現在のPS4累計販売台数5,340万台に対して約500万台のPSVRの実需があると試算されますが、これに対して、わずかな供給しかなかったため恒常的な品不足になっているものと思われます。

これは、会社側がVRがユーザーに与える影響を慎重に見極めようとしてきたためと思われます(眼や人体に与える影響)。ただし、現時点で大きな悪影響はないようなので、来期は増産する方向です。どの程度の増産か注目されますが、VR対応ゲームソフトが順次充実すると予想されるため、VR人気が収まるとは思えません。現在のところ、フルVR対応ゲームは、カプコンの「バイオハザード7」だけであり、来期も大きくは増えないと思われますが(製作が難しい)、一部VR対応のソフトはかなり充実すると思われます(例えば、ソニー製「グランツーリスモSport」など)。

会社全体が良い方向に向かっている

ゲーム部門だけでなく、ソニーのほとんどの部門が良い方向に向かっていることが2017年3月期3Q決算で確認できました。

ゲーム部門以外で注目できるのが半導体部門です。高級スマホや高級カメラに使われる高級イメージセンサで世界トップ(世界シェア44%)です。2015年12月からのiPhone減産、2016年4月の熊本地震による高級カメラ向けラインの被災で、前4Qから今2Qまで赤字になっていましたが、今3Qで黒字転換しました。

今4Q以降も順調と予想されます。本来は4Qはイメージセンサの不需要期ですが、今期は中国スマホメーカーの間でiPhone7Plusのようなデュアルカメラ(アウトカメラの眼が2つ)に追随する動きがあり、4Qは3Q比で数量の減り方が鈍く、価格も下がらずに安定しています。来期になると、高級スマホのデュアルカメラ化が一層進むと予想されます。来期営業利益は800~1,000億円に伸びると思われ、ゲーム部門に次ぐ成長部門となりそうです(表4)。

注目されるのは、ゲーム、半導体だけではありません。カメラ、テレビの利益も順調に増えています。カメラ(イメージング・プロダクツ&ソリューション)はソニー製高級カメラ(αシリーズ)の評価が高く、セミプロのサブ機、メイン機としての需要だけでなく、若い職業カメラマンの中でサブ機、メイン機に使う人が少しずつ増えるなど、「格」が上がってきています。ソニー製高級イメージセンサを装着していることがユーザーにアピールしています。

テレビ(ホームエンタテインメント&サウンド)も、ソニー製4Kテレビが日米欧で高い評価を受けています。その結果、特に欧米で高価格帯のテレビが売れており、採算改善に結びついています。

また、音楽部門も堅調に利益成長するようになりました。今期は減益見通しですが、これは前期に子会社持分の再評価益が計上されたためです。実際の事業は順調です。まずスマホゲームで、ソニー・ミュージックエンタテインメント・ジャパンの子会社であるアニメ会社「アニプレックス」が制作、運用するスマホゲーム「Fate/Grand Order」(2015年7月配信開始)が人気です。累計ダウンロード数などは開示していませんが、iOS、グーグルプレイの課金売上高ランキングでは5位内に入ることが多いゲームです。来期には新作ゲームの配信も計画しています。

日米欧のレコード事業も波はありながら堅調です。日本では、レコード、俳優を含むアーティストマネジメント、ライブハウス経営(Zeppの経営)など重層的な音楽事業を展開しています。アーティストも日本では西野カナ、乃木坂46、新人の欅坂46など、欧米ではアデル、ワン・ダイレクション、ビヨンセなどを擁しています。

金融部門(ソニー生命が中核)は伸びはありませんが、横ばいを維持しています。

映画部門の再建には時間がかかりそう

問題がないわけではありません。映画部門は長く制作が停滞したため、興行成績が悪化しています。ドラマも他のハリウッドメジャーに比べシーズン6以上の長期シリーズが不足しており、これが収益力の低下に繋がっています(シーズン6まで続くとCATVネットワークなどに放映権を販売し易くなる)。そこで、ソニーは今3Qから映画部門の立て直しに取り掛かりました。まず、映画部門の営業権1,121億円を減損しました。ソニー・ピクチャーズエンタテインメントの人事も刷新し、制作力の強化に取り掛かっています。大作映画の制作には3年以上かかるため、収益力回復には時間がかかりますが(3年程度かかると思われる)、映画強化に動き出したことは歓迎してよいと思われます。

また、モバイル・コミュニケーション部門(スマートフォンの「エクスペリア」の生産販売)は、黒字転換はしたものの、黒字なのが日本のみであり、今後どうするか課題を抱えたままです。

来期営業利益は5,000億円超えか

ソニーも暫定値ながら業績予想を表3、4に示しました。来期営業利益は5,000億円を超える可能性があります。その後も、順調な利益成長が期待できます。

株価は4,000円台の活躍が期待できそうです。投資妙味を感じます。

表3 ソニーの業績試算(2017年3月)

表4 ソニーのセグメント別営業利益:通期ベース

本レポートに掲載した銘柄

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