【論点6】FIRE達成後の資産の取崩とインカム収入をどう考えたらいいでしょうか?

 パネル・ディスカッションでは、FIRE達成後にお金を使う際に、定期的な分配金のある投資信託や、高配当利回りの株式を使うのは適切かという質問があったが、これに対して、筆者は「明確に反対です」と答えた。

 高分配の投資信託は、運用として効率が悪いし、手数料率が高いものが多い。明確にダメだ。また、「高配当利回りの株式」は実力以上に不人気で投資妙味のある銘柄を探せる場合があるかも知れないが、配当利回りに拘ると保有銘柄が偏る可能性があるし、個別株はリスクが大きいので丁寧な分散投資が必要だ。

 一般論としては、内外の株式のインデックス・ファンドで運用し続けて、計画的に資産を取り崩すことが望ましい。

「早期リタイア」が前提のFIREではあるが、取り崩しの考え方は、資産額から最晩年に持っていたい金額を差し引いて、これを平均余命に10年程度余裕を持たせた数字で割り算して、年間に取り崩していい金額の上限を決めるのが分かりやすい。取り崩し可能額は、運用資産の額によって上下する。

 尚、パネル・ディスカッションでは、私ではない参加者から、「楽天証券の投資信託の定率取り崩しサービスを利用するといい」という声があったことをご紹介しておこう。毎月分配、あるいは奇数月分配などの投資信託を利用するよりも「遥かに合理的だ」と申し上げておく。

【論点7】FIREを目指すことの問題点は何でしょうか?

 若いビジネスパーソンがFIREを目指すとした場合に、心配なのは、自分の人的資本に対する過小投資の可能性だ。知識、経験、人間関係など、将来の自分の価値を高める投資になり得るものの獲得には、時間や努力の投入だけでなく、お金もそれなりに必要だ。

 先に、FIRE達成は手取り所得の50%を投資に回して18年かかると計算したが、この期間に使うお金が少なくなることによって、18年後の自分の人的資本の価値がより小さくなってしまう可能性がある。

 一般に、教育・経験に対する投資は、より早い時期に行う方がより有効だ。理由は、その成果をより長い期間使うことができるからだ。22歳で行う教育投資は、40歳で行う教育投資よりも、より有効だと考えられる。人間関係に対する投資も同様だろう。

 具体的な数字で考えてみよう。手取り収入を500万円としよう。ここで、年間支出250万円で生活し、250万円を投資に回す「FIRE型」で18年過ごすのと、年間支出400万円で、年間100万円を投資に回す「バランス型」で18年間過ごすのとでは、どのような違いが生じるかを、想像してみて欲しい。

 因みに、想定する老後の期間や生活費にもよるが、厚生年金があるサラリーマンの場合、手取り収入の20%程度を貯蓄に回しておくと、老後の生活費と現役時代の生活費(前者は後者の70%程度と想定)のバランスが取れる計算になる場合が多い。

 バランス型の支出額400万円とFIRE型の250万円の差である、年間150万円が丸々直接的な教育投資の違いでないとしても、18年後の「人的資本」(≒稼ぐ能力×稼げる年数)はバランス型の方が大きくなるのではないだろうか。

 FIREを強く目指すあまり、それこそ爪に火(FIRE!)を灯すような生活をすることによって、人間のスケールが小さくなることが心配だ。

 もちろん貯蓄と投資も大事なので、最適なバランスを見つけて欲しい。