【論点3】人は経済的自立の達成によって、心持ちが変わりますか?

 ある程度、変わると思われる。推測の形で述べているのは、筆者自身が「FI」を達成していないからだ。

 経済的な自立を達成していると、嫌な仕事をしなくてもよくなるし、会社や上司に率直な意見を言いやすくなるという面がある。

 もっとも、人間は、他人からの承認を欲する生き物なので、人間関係を抜きにお金だけで「安心」や「幸せ」を掴むことはできない。

【論点4】どのくらいの資産があれば経済的自立を達成したと言えるのでしょうか?

 金融資産による経済的自立を、「資産からの収益だけで生活できる状態」と定義すると、年間の生活費、実質の運用利回りから資産額を計算することができる。

 運用利回りを「無リスク金利+リスクプレミアム」で考え、インフレ率の変化が無リスク金利によって相殺されると考えると、リスクプレミアム分が運用利回りになる。

 内外の株式に対して、機関投資家が想定するリスクプレミアムは年率5〜6%程度だが、これを税引き後で考えるとして、「年率4%」くらいが妥当な「実質の」運用利回りだろう。

 但し、アセット・アロケーションは内外の株式がほぼ100%程度となるので、資産額の変動はそれなりに大きいことに注意が必要だ。

 つまり、年間生活費の「25倍」を達成したら、一応のFIRE達成と見ていいのではないか。パネル・ディスカッションでも、大凡このくらいの数字を目処として挙げる人が多かった。

 年間の生活費が400万円なら、資産1億円がFIREの目処だ。

「利回り4%」と「25倍」は覚えておくといいかも知れない。例えば、資産額が2,500万円の人は、年間生活費100万円相当の小さなFIREを達成していると考えることができる。

【論点5】FIREを達成するには何年かかるのでしょうか?

 手取り所得を一定として、その50%で暮らして、50%を投資に回す場合、利回りを4%と仮定すると、概算約18年で手取り所得の12.5倍、つまり生活費の25倍に金融資産額が届く。

 22歳からスタートしたと仮定して、約40歳でFIREに達する。スタートが30歳なら48歳だ。40歳のスタートなら58歳での到達だから、もう「早期リタイア」とは呼んで貰えないかも知れない。もっとも、何れの場合も、残りの人生はかなり長いので、これをどう過ごすのかが大切だ。

 具体的な金額で考えると、手取り所得が500万円で、生活費が250万円で、毎年250万円を投資に回すと、18年で6,250万円を超え、6,250万円の4%は250万円なので、「生活費250万円相当のFIRE」が達成される。

 同じ資産額を作るには、利回りが0%だと25年かかるところが、4%の利回り(注:実質利回りである)があれば、約7年間短縮できるということだ。

 1つの注意点として指摘しておきたいのは、FIRE的な状態を目指すことについて書かれた書籍や、金融商品・サービスの勧誘などにあっては、主に米国の市場を例にとって、現在よりも金利水準が高く、また長期に株式のリターンが好調だった時期のデータから、年率7〜8%くらいの利回りで資産を増やせるかのように想定しているものがあることだ。あるいは、大きなレバレッジを掛けて不動産などに投資して短期間でFIREが達成できるかのような勧誘を行う場合もある。

「内外の株式のインデックス・ファンドに100%投資して、実質年率4%」というくらいに考えておくことが、現実的だ。もちろん、18年の中には、相当の下げ相場もあることを覚悟しなければならない。