Long Train Runnin’

 6月のFOMCで、FRBは緩和縮小の議論を始めることを認めました。とはいえ、まだ「考え始めることを考え始めた」段階で、実施はまだ先。8月のジャクソンホールで発表、9月開始という強気の予想も一部にありますが、12月発表で来年1月からとの見方が多いようです。いずれにしても今後発表される経済指標次第ということです。

 FRBが、新型コロナ対策として実施する過去最大規模の量的緩和政策。その量的緩和における金融資産の買い入れ額を順次減らすのが緩和縮小(テーパリング)です。ではFRBが緩和縮小を開始する条件とは何か? 

 第一の条件はインフレ率が上昇して、 FRBの目標値を上回ること。5月CPI(消費者物価指数)は、前月比+0.6%、前年比+5.0%という強い結果で、2008年8月以来、約13年ぶりの大幅上昇を記録しました。なかでも中古車価格は+7.3%の大幅上昇と値上がりが目立ちました。しかしインフレ率は一時的ではなく、長期間で目標値を上回る必要がある。夏場にかけての物価上昇は、緩和縮小を前倒しするための必要条件になります。

 しかし、これでもまだ十分条件とはいえない。FRBは、雇用市場が弱いままで、緩和縮小に踏み切ることはしないからです。雇用の持続的増加と賃金の上昇が伴って初めて条件が整うことになります。

 緩和縮小には、当然ですがインフレ率の上昇が必要条件となります。しかし、それではまだFRB(米連邦準備制度理事会)を決断させるには十分ではない。賃金上昇を伴う雇用増加が実現して初めて緩和縮小の条件が揃うのです。

 BLS(米労働省労働統計局)が発表した5月雇用統計では、失業率は5.8%に下がり、NFP(非農業部門の雇用者数)は55.9万人増加。2カ月連続で予想を下回ったのですが、数字自体は決して弱いわけではない。とはいえ、パウエルFRB議長が望んでいるような、月間100万人程度の雇用創出にはまだ遠い。

 一方で、平均労働賃金は前月比+0.5%、前年比+2.0%。低賃金労働者が大量に復帰している状況でも、平均賃金に上昇圧力かかっている事実は、経済再開に伴う労働需要の強さを示しています。ただ、今はまだコロナ禍で最も打撃の大きかった業種で一時的な労働力不足になっているだけで賃金高騰の兆候は見られない。

 AIT(平均物価目標)という枠組の中で、予想より結果に重点を置くFRBの政策スタンスでは、「緩和縮小を先延ばしするリスクは、早く行動するリスクを上回らない」という考えがFRB内ではまだ主流。

 雇用市場の現状は、FRB内のハト派陣営に緩和縮小は急がなくてもよいという理由を与えることになりました。マーケットもそう考えていました。ところが6月のFOMC会合で公表されたドットチャートは、予想よりも多くのメンバーが利上げを考えていることを暴露した。それがマーケットの混乱や急激なポジション調整につながったのです。