The Air That I Breathe

 緩和縮小には、当然ですがインフレ率の上昇が必要条件となります。しかし、それではまだFRB(米連邦準備制度理事会)を決断させるには十分ではない。賃金上昇を伴う雇用増加が実現して初めて緩和縮小の条件が揃うのです。

 BLS(米労働省労働統計局)が発表した5月雇用統計では、失業率は5.8%に下がり、NFP(非農業部門の雇用者数)は55.9万人増加。2カ月連続で予想を下回ったのですが、数字自体は決して弱いわけではない。とはいえ、パウエルFRB議長が望んでいるような、月間100万人程度の雇用創出にはまだ遠い。

 一方で、平均労働賃金は前月比+0.5%、前年比+2.0%。低賃金労働者が大量に復帰している状況でも、平均賃金に上昇圧力かかっている事実は、経済再開に伴う労働需要の強さを示しています。ただ、今はまだコロナ禍で最も打撃の大きかった業種で一時的な労働力不足になっているだけで賃金高騰の兆候は見られない。

 AIT(平均物価目標)という枠組の中で、予想より結果に重点を置くFRBの政策スタンスでは、「緩和縮小を先延ばしするリスクは、早く行動するリスクを上回らない」という考えがFRB内ではまだ主流。

 ブレイナードFRB理事などハト派陣営にとって、雇用市場の現状は、緩和縮小を急がなくてもよいという口実を与えることになったと、マーケットは考えて安心していました。ところが6月のFOMC会合で公表されたドットチャートは、予想よりも多くのメンバーが利上げを考えていることを暴露した。それがマーケットの混乱、急激なポジション調整に至ったのです。