本レポートに掲載した銘柄

日東電工(6988) 東芝(6502)

決算コメント

日東電工

1.液晶ディスプレイ用材料の大手、核酸医薬品に注力

日東電工は、液晶ディスプレイ用偏光板で世界最大手の会社です。特に高級スマホ向けに強いことが特色です。有機ELディスプレイ用材料(偏光板、ITO膜など)でも現在のところ最大手です。また、様々な工業品や輸送用に使われるテープ類でも大手です。

日東電工の特色は、もう一つあります。医薬品分野への多角化です。抗体医薬品(バイオ医薬品)の次の次世代医薬品と言われる「核酸医薬品」の受託生産で世界最大手であり、核酸医薬品を使った肝硬変などの治療薬の開発も行っています。肝硬変治療薬の開発パイプラインは昨年、アメリカの大手製薬メーカー、ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)に導出しました(核酸医薬品については、楽天証券投資WEEKLY2016年11月25日号を参照)。

液晶用、有機EL用材料はオプトロニクス事業に入ります。この事業部門は当社の中で最も利益貢献の大きな事業ですが、高級スマートフォンの販売動向と為替レートに左右されます。今秋発売の新型iPhoneに有機ELディスプレイ搭載版が加わると言われていますが、これが高級スマホで有機ELが普及する大きなきっかけになると思われます。そのため、来期は有機EL用材料の本格拡大が注目されます。

一方、核酸医薬品の受託生産と開発事業が入るライフサイエンス事業は、核酸医薬品の研究用試薬の受託生産が活況で、当社の業績上無視できない事業になっています。

このように当社の投資評価をする場合には、スマートフォン関連と有望なバイオベンチャーという両面を考える必要があります。

表1 日東電工のセグメント別業績

2.2017年3月期3Qは20.6%営業増益

2017年3月期3Q(2016年10-12月期)は、表2のように1.7%増収、20.6%営業増益となりました。後述のBMSからの契約一時金1億ドル(約106億円)を除くと15.4%営業減益となりました。

セグメント別に見ると、オプトロニクス事業の営業利益は前年比15.1%減の177億1,200万円となりました。円高デメリットはありましたが、1年前のiPhone減産ほどの高級スマホの減産はなく、数量ベースでは回復した模様です。インダストリアルテープは、半導体、有機EL製造設備向け材料などが順調に伸びたため、営業利益は76億1,500万円(前年比12.7%増)となりました。

表2 日東電工の業績

3.ライフサイエンス事業の重要性が高まる

ライフサイエンスの営業利益は123億3,300万円(10.3倍)でした。この中にBMSからの契約一時金1億ドル(約106億円)が含まれており、それを除くと約17億円(41%増)となりました。契約一時金を除く売上高は約78億円(前年比17%増)となり、順調に伸びています。この大半が核酸医薬品の試薬の受託生産であり、国内外の製薬メーカー、バイオベンチャー、大学等の研究機関に納入しています。フル生産になっているため、生産能力増強を進めており、来上期には生産能力が2倍以上になる見込みです。それに対応してライフサイエンス部門の業績も拡大すると予想されます。

核酸医薬品の自社開発も行っています。肝硬変(肝線維症)治療薬「ND-L02-s0201」のフェーズⅠ/Ⅱa試験が2016年6月に終了しました。次のフェーズⅡb以降はBMSが行うことになりますが、来期中に開始されると思われます。その後フェーズⅢを経て2020年頃にアメリカで申請→承認→上市と進みたいと会社側は考えているようです。各段階の臨床試験が開始される際にマイルストン(一時金)がBMSから日東電工に対して支払われる予定です。

「ND-L02-s0201」は肝硬変だけでなく肺にも出来る「線維症」に対する治療薬です。線維症とは、内臓の結合組織が異常増殖する線維化が起こる病気です。肝臓の場合、滑らかな形状ではなくなり、進行するとごつごつした形状(肝硬変)になります。

現時点でのBMSとの契約は肝硬変(肝線維症)に関するものが中心となり、肺線維症等の他の線維症に関してはオプション権をBMSに渡しています。肺線維症については、日東電工が来期にフェーズⅠをアメリカで開始する予定です。これについては、BMSがオプション権を行使すれば、BMSが臨床試験を行うことになりますが、その時にはマイルストンが発生します。上市後はBMSが全世界での販売権を持ちます。

核酸医薬品の受託生産の能力増強と、臨床試験が進むにつれてのBMSからのマイルストンが、ライフサイエンス事業の利益成長を牽引すると思われます。

4.2017年3月期通期の会社見通しは上方修正された

表2のように、2017年3月期の会社側業績見通しは上方修正されました。BMSからの1億ドルの契約一時金と為替レートを円安方向に見直したことによります(前回の為替前提は下期1ドル=105円、今回前提は4Q1ドル=115円。1ドル1円の円安で年間24億円の営業利益に対する円安メリットが発生する)。

来期2018年3月期の注目点は、有機EL用材料の動きとライフサイエンス事業です。有機ELディスプレイは既にサムスンの高級スマホに搭載されていますが、iPhoneに搭載されることによって、急速に普及する可能性があります。液晶パネル1枚に対して偏光板が2枚使われるのに対して、有機ELでは偏光板、ITO膜、フォースセンサの3枚が使われるため、当社にとってはスマートフォン1台当たりの納入単価が上昇する可能性があります。

ライフサイエンスの可能性は上述したとおりです。来期は核酸医薬品の受託生産拡大と複数のマイルストンの可能性があるため、ライフサイエンス事業の利益が今期同様高水準になる可能性があります。

これらを考えると、来期は増収増益に転換する可能性が高いと思われます。

有機EL関連としても、核酸医薬品関連としても日東電工は重要な会社です。中長期的な投資妙味を感じます。

銘柄コメント

東芝

2015年から続いている東芝に関する問題は、深刻かつ流動的な状態にあると思われます。本稿では、半導体関連セクターの理解を深めるために、東芝の経営状態と東芝メモリ事業の現状を把握したいと思います。投資推奨を意図したものではないことを御了解ください。

1.東芝は世界第2位のNAND型フラッシュメモリメーカーである

半導体関連企業には様々な種類の企業が含まれます。まず、東芝やルネサス エレクトロニクスのような半導体デバイスメーカーです。半導体デバイスには、大別してメモリとロジックICの2種類があります。メモリはパソコンやスマートフォンのメインメモリに使われるDRAM、記録媒体として使われるフラッシュメモリなどがあります。フラッシュメモリにはNAND型とNOR型があり、HDDを置き換える形で急速に普及しているのがNAND型です。東芝は、世界第2位のNAND型フラッシュメモリメーカーです。

これに対してルネサス エレクトロニクスは、ロジックICと言って、様々な電子機器や自動車の各種制御を行うための半導体のメーカーです。製法はほぼ同じですが、メモリは量産品なので市況性が強く、需給によって価格が大きく上下します。一方、ロジックICは特注品が多く、価格は比較的安定しています。

世界にはいくつものメモリメーカーがありますが、日本企業としては東芝のみです。一方、ロジックICのメーカーは、日本企業としてはルネサスのほか、富士通などがあります。

また、内外の半導体メーカーに半導体製造装置を供給しているのが、東京エレクトロン、アドバンテストなどの半導体製造装置メーカーです。半導体のもとになるシリコンウェハを供給しているのが、信越化学工業、SUMCOです。半導体業界は、デバイスメーカーだけでなく、数多くの製造装置メーカー、材料メーカーが存在しています。

表3 NAND型フラッシュメモリの市場シェア

グラフ1 NAND型フラッシュメモリの市況

(単位:ドル、多値品、出所:日経産業新聞主要相場欄より楽天証券作成)

2.2017年3月期3Qの決算発表を最大1カ月間延期、12月末は債務超過に

東芝の2017年3月期3Q決算(2016年10-12月期)は当初2月14日に予定されていましたが、最大1カ月(3月14日まで)延期されました。報道では、原子力事業に関して不適切行為があったことが、原発子会社ウェスチングハウス(WH)の社員から通報されたためとされています。また、東芝原子力事業の巨額損失の原因となった米原子力サービス会社CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)ののれん代を過小に見積もった疑いがあるとも報道されています。

一方で東芝は、2月14日に説明会を開催し、東芝による今3Qと通期の業績見通しと2016年12月末の資産状況の見通しを説明しました。その内容が表4であり、12月末時点で株主資本が1,912億円のマイナスとなっていることが判明しました。東京証券取引所の規則では、これは債務超過の状態になります。2017年3月末までにこれを解消しなければ、東証2部に降格となり、更に1年間で債務超過を解消しなければ上場廃止となります。東芝の見通しによれば、資本対策を何もしなければ2017年3月末の株主資本も1,500億円のマイナスになります。

表4 東芝:2017年3月期1-3Q見通しと通期見通し

3.原子力事業で巨額損失が発生

このような状況に陥った主な要因は原子力事業における巨額損失の発生です。アメリカにおけるボーゲル、V.C.サマーの2つの原発建設プロジェクトにおいて大幅なコスト増加が発生し、契約上発注元の電力会社にコストの増加分を転嫁できない事態となりました。このコストの増加分は会社の見積もりによれば61億ドル(約6,900億円)となります。

このため、原子力事業ののれん代(WH、S&W買収時ののれん代)を減損します。S&Wののれん6,253億円、既存ののれん残高872億円、計7,125億円(原子力事業ののれん合計)を減損します。

このため、2017年3月期1-3Q累計決算は、5,447億円の営業赤字、4,999億円の最終赤字となり、1,912億円の債務超過となりました。また、通期でも営業赤字4,100億円、最終赤字3,900億円、株主資本は1,500億円の欠損となり債務超過となる見込みです(ただし、2017年3月末の数字は資産売却等の資本対策をしない場合です)。

S&WはWHが2015年末に買収した原発建設の会社であり、上述のボーゲル、V.C.サマー両プロジェクトで原発建設に携わっていましたが、納期、仕様などについて工事に関わっていた企業連合の間で係争となりました。そこで、係争を避けるために、WHがS&Wを買収したという経緯があります。

なお、これらの数値は監査法人が承認した正式な決算によるものではありません。決算発表が延期となった理由も原子力事業であり、3Q業績と通期見通しが再度下方修正される可能もありますが、その程度は現時点では見通せません。

4.東芝メモリ事業の持分売却を仕切り直しへ

東芝原子力事業が大幅な損失に陥っている実態は昨年12月に発覚しました。そして、資本対策の一環として半導体メモリー事業を分社化し、外部資本を導入することになりました。当初は半導体メモリー事業の20%未満を外部に売り出すとしていましたが、12月末時点での債務超過という事態を受け、マジョリティー(一般的には50%超の持株比率)にはこだわらないという姿勢になりました。20%未満では出資する魅力に欠けた案件であり、調達金額もせいぜい2,000~3,000億円以下と思われます。一方、過半数の株式を売り出すことになると、後述のようにかなり大きな金額になると思われます。

東芝メモリ事業の業績を表5に示しました。2016年3月期は売上高8,456億円、営業利益1,100億円です(組織変更により今期からメモリ事業の損益を開示するようになった。前年比はない)。市況と需要が盛り上がったときには好業績、そうでないときは大きく落ち込む変動の大きいビジネスです。アメリカのメモリ会社サンディスクと提携しており、主力の四日市工場はサンディスクとの共同出資です。サンディスクは2015年にHDD大手のウェスタン・デジタルに買収されましたが、東芝との提携は維持されています。

東芝は、当初は今年3月末までにメモリ事業の持ち分を売却して債務超過を回避する姿勢だったようです。しかし最近の報道によれば、東証1部上場を維持するために東芝メモリ事業の持分売却を急ぐことはしない模様です。フラッシュメモリの需要と市況が強いため、東芝メモリ事業は来期も好業績が予想されます。そのため、急いで売却せずに、好条件での売却先を探したいのではないかと思われます。ただし、3月末で債務超過となると東証2部に指定替えとなり、その1年後には上場廃止となるため、多くの時間があるわけではありません。

表5 東芝メモリ事業の損益

5.東芝メモリ事業の価値は1.5~2.0兆円?

東芝メモリ事業の持分を売却するときに、どの程度の金額になるか試算してみました。常識的に考えれば、東芝メモリ事業の想定時価総額は、東芝の持株比率が80%以上で外部株主が20%未満のときに最低となり、外部株主が100%買収できる場合に最大となると思われます。東芝メモリ事業は大きな価値を持つ事業なので、これを完全買収するためには少々高くなっても買う企業が出てくる可能性があります。

今期のメモリ事業営業利益を1,200億円として、それに通常の税率をかけてPER20倍で単純試算してみました。あくまでも目安程度のものですが、想定時価総額は1.5~1.6兆円となります。また、来期の営業利益を1,500億円程度とすると、想定時価総額は1.9~2.0兆円となります。フラッシュメモリの市況を見る限り、東芝メモリ事業の業績は順調に拡大していると思われます。従って、3月末までに売却を成立させるよりも来期に入ってから成立させたほうが、東芝メモリ事業の価値が上がり、東芝が獲得できる金額も大きくなると思われます。

また、これは全くの私見ですが、マジョリティにこだわらないという範囲で東芝にとって最も望ましい持株比率は40~49%、外部株主51~60%と思われます。これは再度買い増して支配権を取り戻しやすいこと、東芝メモリは持分法適用会社になりますが東芝本体への業績の反映度合いが大きくできるためです。ただし、買い手がこの条件を飲むかどうかは分りません。

次が東芝34%以上、外部株主66%以下です。株主総会の特別決議(合併、会社分割などを決める際に必要となる。議決権の過半数を有する株主が出席し、出席者の3分の2以上の賛成が必要)で拒否権を持てる3分の1以上です。これは会社と筆頭株主に対して一定の影響力を持てる持株比率です。

次が東芝メモリ事業を東芝の持分法適用会社にするのに必要な20%以上。最後が持株比率ゼロの完全売却です。

仮に51%を売却するとすれば、東芝が受け取ることが出来る金額は7,000億~1兆円、66%を売却すれば1~1.3兆円、全部売却する場合は、世界第2位のNAND型フラッシュメモリ会社を完全買収できることに対するプレミアムが付いて2兆円以上になる可能性があります(ただし課税は考慮していない)。

さすがに2兆円以上の現金が入金すれば、現在の危機からはとりあえず脱することができる可能性がありますが、東芝にとってメモリ事業を完全売却したときに後に何が残るのかという問題が生じます。

一方、2月17日付け日経新聞は東芝再生シナリオとして、上述のようにマジョリティにこだわらず一気に財務改善を狙う考え方以外に、とりあえず債務超過の解消を目指す20%未満の売却、メモリ事業の利益増加や東芝本体への小額出資の受け入れで債務超過解消を狙う考え方があるとしています。どれが良い方策なのかは、リスクがどの程度なのかが明らかになる必要があります。その意味では、正式な決算が重要になると思われます。

ただし、メモリ事業をほとんど売らない場合、突発的なリスク、損失に対する耐久度の問題が生じる恐れがあると思われます。

6.今後のリスク

東芝にはいくら必要なのかは、2月14日に公表された3Qと通期の業績見通しで提示された損失以外の追加損失がどの程度なのかによります。また、実際にメモリ事業のどの程度の持分をいくらで売却するかについては、東芝の意向だけでなく、買い手、出資元との交渉になります。下に今後のリスクを列挙しましたが、これらのリスクをにらみながら、最適解を探ることになると思われます。

  • 追加損失のリスク:今回東芝が公表した損失の他にも損失がある可能性があります。アメリカにおける原発建設だけでなく、中国での原発建設や、過去に買収した会社、例えばランディス・ギアののれん代の問題などです。また、資金の出入りの発生しない減損よりも、実損のリスクが重要になります。
  • LNG販売のリスク:東芝は2013年にアメリカのフリーポートLNG社とシェールガスの液化加工契約を結びました。2019年9月に設備が稼働する予定で、20年間、年220万トンのLNGを引き受けることになります。2016年3月期有価証券報告書には、20年間このLNGを当社都合で一切引き取れなかった(全く売れなかった)場合の最大損失額が9,714億円になると記載されています。ただし、2017年1月22日付け日経新聞によれば、調達量の半分程度の買い手を見つけているということです。また、この損失は一度に発生するものではなく、20年間にわたって発生するものです。このリスクよりも、上述の追加損失リスクのほうが重要と言えます。
  • 上場廃止リスク:東芝は、不適切会計によって2015年9月15日に東証、名証より特設注意市場銘柄に指定されています。2016年9月15日に内部管理体制確認書を提出しましたが認められず、2017年3月15日以後に当社が再提出する内部管理確認書が認められなければ上場廃止となります。また、2017年3月末が債務超過の場合、その状態で1年間経過した場合も上場廃止となります。

7.東芝の着地点はまだ不透明

東芝が負担しなければならない損失の全体像が確定していないため、現時点でこの問題の着地点を見出すことは困難です。引き続きこの問題に注目したいと思います。

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