G7は「陰の主役」中国をどう“活字化”したか?
G7サミットが「陰の主役」中国をどう扱ったのかを、具体的に見ていきましょう。
中国はサミット期間中、首脳間で何が話されたのか、どういう思惑があるのかよりも、首脳宣言に活字化された内容を重視します。
私はしばしば「中国は文字の国」と説明しますが、中国は、政府から民間まで、文字として、特に公式文書にどう書かれるかを重視し、それによって判断する傾向が非常に強いのです。
中国に関して、宣言が活字化したのは主に以下の部分です。
「引き続き、世界経済の公正で透明性のある作用を損なう非市場主義政策、および慣行という課題に対する共同のアプローチについて協議する」
「多国間システムにおけるそれぞれの責任の文脈において、相互の利益になる場合には、共通のグローバルな課題において、特にCOP26(気候変動枠組条約)その他の多国間での議論で気候変動及び生物多様性の損失に対処するに当たり、協力する」
「同時に、そうした協力をする際にも、中国に対し、特に新疆との関係における人権及び基本的自由の尊重、また、英中共同声明及び香港基本法に明記された香港における人権、自由及び高度の自治の尊重を求めること等により、我々の価値を促進する」
G7外相会議に続いて、「中国」を名指しで取り上げています。
中国は、自らが欠席している舞台で名指しされることを極端に嫌う傾向にあります。その意味で、中国の反発は必至といえました。
これらの段落では、市場の公平性に関わる経済活動、新疆ウイグルや香港における人権と自由に関して、中国の姿勢やふるまいに懸念を表明し、改善を促すものです。
特筆に値するのは、(1)経済行為や人権問題で中国に厳しく求めつつも、協力の分野と可能性を排除していない点、(2)協力するには前提条件があると規定している点、(3)気候変動における多国間協力と人権問題における中国の対策をリンケージ(連鎖)させている点です。
最近、投資の分野でもESG(環境・社会・企業統治)が重視され、企業側、投資側双方にとって軽視できない基準となっていますが、気候変動と人権問題はまさにそのど真ん中の分野であり、今後、各国と中国との関係ややり取りを見ていく上で、ますます重要になるでしょう。G7は、人権をないがしろにする中国とは気候変動で協力しないと言っているのですから。ただ、以前本連載でも扱いましたが、「中国式人権」を掲げる共産党が人権問題で妥協する可能性は低く、そう考えると、中国と西側主要国との気候変動をめぐる協力は一筋縄にはいかないでしょう。
宣言は「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」「東シナ海、および南シナ海における状況を引き続き深刻に懸念し、現状を変更し、緊張を高めるあらゆる一方的な試みにも強く反対」とも明記。初めて「台湾」へ言及し、中国の台頭が招いた安全保障問題に、G7として前代未聞の懸念を示し、活字化した事実は重いです。