決算コメント

東京エレクトロン

1.半導体製造装置の国内トップ、2017年3月期3Q受注高は過去最高

東京エレクトロンは半導体製造装置で国内トップ、世界ランキング4位の大手です。半導体製造プロセスには、ウェハを切り出してその上に微細回路を描いていく「前工程」と、回路を描いたウェハをチップに切り出して組み立てて検査する「後工程」がありますが、東京エレクトロンは前工程の各種機器、コータ/デベロッパ(ウェハ上にフォトレジスト(感光剤)を塗布し現像を行う)、プラズマエッチング装置(コータ/デベロッパで処理されたウェハ上の酸化膜を削り取る)などの世界的メーカーです。ちなみに、前工程ではSCREENホールディングス、日立ハイテクノロジーズなど、後工程ではアドバンテストなどが大手になります。

半導体の中でも、DRAM、NAND型フラッシュメモリは、スマートフォンのメインメモリ、ストレージメモリの大容量化に伴い需要が増加しています。加えて、NAND型フラッシュメモリはSSDとしてデータセンター向けの需要が増えています。NAND型フラッシュメモリの約60%がSSD向けです。このため、DRAM、NAND型フラッシュメモリともに、大型投資計画が多くなっています。

また、半導体の微細化、大容量化のために、以前のような2次元型フラッシュメモリ(回路を平面に描いていく)ではなく3次元型(回路を縦方向に重ねる)が投資の主流になっていますが、製法が難しく、これも半導体製造装置需要が増える要因になっています。

当社はFPD(フラットパネルディスプレイ、液晶パネル、有機ELパネル)製造装置も販売していますが、この分野もメモリ同様大型投資計画が増えています。

このような事情で、日本の半導体製造装置受注が増加しています。当社の2017年3月期3Q受注高は過去最高を大幅に更新しました。今後の焦点は、この水準の受注が続くのかどうかに移ってくると思われます。

表1 半導体製造装置メーカーの世界ランキング(2015年)

グラフ1 東京エレクトロンの半導体製造装置受注額

(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成、2001年10-12月期までは半導体製造装置にFPD製造装置、太陽電池製造装置を含む。2002年1-3月期から2013年1-3月期まではFPD製造装置に太陽電池製造装置を含む。)

グラフ2 東京エレクトロン:半導体製造装置受注額のアプリケーション別構成比

(単位:%、出所:会社資料より楽天証券作成)

2.2017年3月期3Qは、34%営業増益

受注増加を反映して業績は好調です。今3Qは、17.4%増収、33.8%営業増益となりました。会社側は受注→売上の納期が長いことを理由に2017年3月期業績予想、営業利益1,400億円(前年比19.9%増)を変更していませんが、上乗せの余地があると思われます。

また、2016年12月末受注残高は半導体製造装置4,172億円、FPD(フラットパネルディスプレイ)665億円であり、2015年12月末の各2,241億円、399億円、2016年9月末の3,294億円、429億円から大幅に増加しています。今の高水準の受注が続けば、来期も好調な業績が予想されます。

なお、当社の輸出は円建てです。

表2 東京エレクトロンの業績

3.高水準の受注が続く可能性がある

グラフ1を見ると、大きな波の受注サイクルを繰り返しています。半導体需要には「シリコンサイクル」という激しい上下運動を繰り返す長期波動がありますが、それに沿った動きです。

今3Q受注高が過去最高となったため、ピーク感を感じる向きもあると思われます。ただし、過去の受注のピークのときの半導体需要の中心が、パソコンやスマートフォンのメモリとストレージ(記録媒体)だったのに対して、今回のブームではこれに加えてデータセンターの記録媒体としての需要が新たに加わったことが大きな違いです(データセンターでHDDだけでなくSSDが使われるようになった)。ビッグデータ時代に入ってデータセンターの需要が拡大し続けると予想されています。

また、特に中国企業の液晶パネル投資が大きくなっていること、有機EL投資も活発になりつつあることから、FPD製造装置受注の増加も期待されます。

これらのことを考えると、東京エレクトロンでは高水準な受注が続くと思われます。投資妙味を感じます。

ルネサス エレクトロニクス

1.2016年12月期3Q営業利益は前年比14%減益だが、2Q比では回復

2016年3月期までは3月決算でしたが、12月決算に変更されたため、今回の決算は2016年12月期となり9カ月間(1~3Q)の変則決算となります。

ルネサス エレクトロニクスの2017年3月期3Q(2016年10-12月期)は前年比1.0%増収、13.5%営業減益となりました。2016年4月の熊本地震の影響がない1年前と比べれば営業減益ですが、四半期ベース営業利益は2Q(2016年7-9月期)を底として回復しています。

分野別に見ると、当社の得意分野である自動車向け半導体が好調です。従来の車載制御系(エンジン制御、操縦系制御など)分野に加えて自動運転関連の売上と受注が増加しています。

汎用向け事業(家電、産業用向け半導体)も3Qは2Q比で回復しました。この分野は「IoT(Internet of Things)」に関連する分野であり、今後拡大する可能性があります。

表3 ルネサス エレクトロニクスの業績

グラフ3 ルネサス エレクトロニクスの四半期業績

(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成)

グラフ4 ルネサス エレクトロニクスの半導体売上高内訳

(単位:億円、出所:会社資料より楽天証券作成)

2.2017年12月期から成長フェーズ入り、2月にインターシル買収完了か

2016年4月の熊本地震で成長が一旦腰折れした形になりましたが、会社側では2017年から再度成長フェーズに入るとしています。2017年12月期1Q(2017年1-3月期)の会社予想(会社側は次の四半期のみ会社予想を公表)は、表3の様に売上高1,710億円(前年比1.9%増)、営業利益230億円(同46.3%増)です。2016年10-12月期と比べても、増収増益となる見込みです。

また、昨年9月に発表したアメリカの半導体会社「Intersil(インターシル)」買収(約3,200億円)については、2月中に買収が完了する見通しです。インターシルの2015年12月期は売上高5億2,200万ドル、営業損失1,400万ドル(ただし知的財産権の訴訟関連費用8,100万ドルを除くと6,700万ドルの黒字)でした。1ドル=112円換算で売上高585億円、訴訟費用控除前の営業利益75億円の会社です。売上構成比は産業用35%、民生18%、コンピューティング17%、車載用12%なので、当社にとっては新分野の開拓が可能になります。また、航空宇宙向けが12%あり、この中に軍事用が含まれるため、アメリカ当局の買収審査において論点となりますが、現時点では大きな問題ではない模様です。

3.今後の焦点は、産業革新機構が持つ株式の行方

インターシルの中身に大きな問題がないと前提して、ルネサス、インターシルを単純に合算して2017年12月期業績を試算すると(表3)、売上高8,000億円前後、営業利益1,000億円前後となります。予想EPSは私の試算では 50.4円となり、今の株価ではPER約20倍です。過去の損失のためルネサスの税率が低くなっていることを割り引く必要はありますが、このPERは世界のロジック半導体メーカー、車載用半導体メーカーのPERと比べて安くはありませんが高くもない水準です。ルネサスは、世界の有力自動車メーカー、自動車部品メーカーが顧客であり、自動運転、電気自動車からIoTへの展開にも期待できる半導体メーカーです。投資妙味を感じます。

ルネサスの筆頭株主は産業革新機構で、現在69.15%の株式を保有しています。この株式はいずれ他の株主に売却されることになります。ルネサスとしては、他の企業への売却よりも、株式市場で売り出して欲しいという希望を持っているようです。そのために、当社には投資家の目から見て魅力的な企業にしようという考え方があるように思われます。例えば、設備投資は資金負担が大きい前工程への投資を控えて、その部分をロジックファウンドリ(半導体製造の専門会社)に外注して、自社の設備投資は後工程(主に検査工程)をメインにする方針です。当社への成長期待とともに、この点も当社への投資妙味を感じるところです。

トヨタ自動車

1.2017年3月期3Qは39%営業減益

トヨタ自動車の2017年3月期3Q(2016年10-12月期)業績は、表4のように減収減益となりました。

表5の前3Q→今3Q増減益要因を見ると、円高デメリットが最も大きな減益要因ですが、次に「諸経費の増加」が減益要因として大きくなっています。これは円安でドル建ての品質関連費用(タカタのエアバッグ対策費など)が膨らんだことによります(「諸経費の増加」の中の「経費ほか」の増加要因がこれ)。また、「営業面の努力」の項目は、国内、海外で販売台数が増加したことから増益要因となっています。アメリカで販売奨励金が増加しましたが、販売台数の増加で吸収できたようです。ただし、「金融事業」の減益要因の中に、リース販売に伴う残価損失引当金(後述)の増加が含まれています。これが今後問題となる可能性があります。

表7の地域別販売台数を見ると、日本は車種に恵まれたため順調に伸びています。従って、表6の地域別営業利益にある日本部門の減益は、円高による輸出の利益の減少によるものと思われます。一方北米は、SUV、ビックアップトラックのブームが続いているため販売台数は伸びていますが、販売費、諸経費の増加、金融事業での費用増加が響き、3Qは営業利益が半減しました。今の北米、特にアメリカの販売台数の伸びは、販売奨励金の積み増しによる「かさ上げ」という面もあると思われます(これはトヨタだけでなく、業界全体での傾向です)。

2017年3月期通期の会社側業績見通しは、円安で上方修正されました。会社側の通期営業利益予想は2Q決算時の1兆7,000億円(2016年3月期は2兆8,539億円)から1兆8,500億円に上方修正されました。ただし、通期の想定為替レートを1ドル=103円から107円に見直したことによる円安メリット2,550億円を除くと、1,050億円の下方修正となります。後に詳しく述べるアメリカでのリース販売に伴う残価損失引当金や品質関連費用の円安による増加が響く見通しです。アメリカでの販売奨励金も増加しています。

グラフ5 アメリカの新車販売台数(年率換算)

(単位100万台、出所:AUTODATAより楽天証券作成)

表4 トヨタ自動車の業績

表5 トヨタ自動車の営業利益増減要因

表6 トヨタ自動車の地域別営業利益

表7 トヨタ自動車の車両販売台数(連結ベース)

2.アメリカに問題が生じている?

アメリカで顧客が車を買う時に、リースを使う場合があります(日本よりもリースを使う人が多い)。通常は3年リースですが、その場合販売金融会社は3年後の中古車価格を見積もってその車の「残価」を設定します。そして、新車価格と残価の差に利益を加えた金額を顧客が月々リース料として支払い車を使う仕組みです。3年後にリース明けした車が販売金融会社に返却されてきたときに、その車は中古車として売却されますが、売却価格が予め設定された残価を下回った場合には、販売金融会社には損失が発生します。中古車市況が下がって損失が出そうなときには、これを前倒しで見積もり、残価損失引当金として会計上引き当てます。今3Q決算では、トヨタの残価損失引当金が増加しています。通期見通しの上では減益要因としてマイナス金額が更に大きくなっています。ただし、保守的な見積もりによるものなので、今後戻入れ益が発生する可能性もあります。

しかし、中古車価格の下落がこのような形でトヨタの決算に少なからぬ影響を与えるようになっていることに注意したいと思います。中古車価格下落は、販売奨励金の積み増しによって新車販売が伸びた結果、下取りされた車が多くなったためと思われます。トヨタが無理な新車販売をしていなくても、他社が無理をすれば中古車価格が下がる要因が発生します。

前3Q→今3Qの営業利益の変化の中で金融事業のマイナス要因は50億円ですが、通期では1,150億円に膨らむ見込みです(表5)。この要因の一つがリースの残価損失引当金です。これを見ると、アメリカ自動車市場はターニングポイントを迎えたと考えたほうがよいと思われます。

トヨタではアメリカ新車販売台数を2015年暦年1,747万台、2016年1,755万台に対して2017年は1,720万台へ減少すると予想しています。最重要地域であるアメリカが変調しかけていることは、トヨタの業績と株価に対して注意すべき時期が到来したということでしょう。

3.自動運転、電気自動車でもトヨタは先行していない

自動運転と電気自動車については、トヨタと日系以外の自動車メーカーの認識にズレが生じています。トヨタの自動運転へのアプローチは2020年までに高速道路の入り口から出口までの運転支援(レベル3?)を実現するというものです。完全自動運転(レベル4)には非常に慎重と言われています。一方で、世界の大手メーカーは2020年頃をめどに完全自動運転の実車装着を目指しています。

電気自動車では、デンソー、アイシン精機などトヨタ系列の部品メーカーを含めた特別チームを組んで、2020年ごろに電気自動車を発売する計画と報道されていますが(トヨタでは発売時期は示していない)、出遅れ感は否めません。欧米の自動車メーカーの電気自動車に対する勢いがトヨタの想定以上に強いため、トヨタの電気自動車投入が1年程度前倒しされる可能性はありますが、電池の調達が不透明です。

なお、アメリカのトランプ大統領がトヨタに対して、メキシコに工場を作るならアメリカ国内に工場を作れと要求していることについては、いずれ従わざるを得なくなると思われます。ただし、最重要地域であるアメリカに新工場を作ること、あるいは新規の増産投資を行うことは、そのために日本の生産台数(アメリカに輸出している分)を削減したとしても、長期的に見てトヨタの利益になると思われます。

このように見ていくと、トヨタ株については、保有するリスクを重視すべき時期がきたのではないかと思われます。