投資家はインフレの影響を過小評価している(ラリー・フィンクブラックロックCEO)
コロナ禍を背景に米国において住宅価格が上昇していることが伝えられているが、もう一つ、米国人の生活に密接に関わるモノで急激に値上がりしているのが中古自動車の価格である。
中古車の価格動向を示す「マンハイム米中古車価格指数」は5月の時点で、前月比4.65%上昇の203となり、一年前に比べ48.2%値上がりし、指数として過去最高を記録した。
5月の卸売中古車価格
米国の中古車価格は、国の景気回復といまだに続く供給不足の両面によるプレッシャーから上昇を続けている。この急激な上昇によって、5月のインフレ指標が4%を超えてくる可能性があり、市場に大きなサプライズとなる可能性が指摘されている。
FRB(米連邦準備制度理事会)はこれまで同様、インフレは経済再開期に伴う一過性のものであるとの姿勢を崩していない。5月のインフレ指標が発表される今月、市場はその指標をFRBの言う通り「一時的である」として受け入れるのかどうかにかかっている。
しかし、世界最大の資産運用会社であるブラックロックのCEOラリー・フィンクは「一時的」との見方に警鐘を鳴らしている。
ラリー・フィンクは1976年にファースト・ボストンでキャリアをスタートさせ、1980年3月に消費者物価指数が14.8%の最高値に達したとき、当時のFRB議長であるポール・ボルカーが最大20%の利上げを実施したのを目の当たりしにしてきた。
1970年以降の米国のインフレ率とFF金利の推移
ゼロヘッジの記事「Larry Fink: Inflation Will Be A "Pretty Big Shock"(ラリー・フィンク:インフレはかなり大きなショックになるだろう)」によると、ラリー・フィンクは価格の急騰は明日には消えるという見方に反論し、投資家はその可能性を過小評価している可能性があると述べた。
「ほとんどの人は40年以上のキャリアを持っておらず、インフレ率の低下は過去30年でしか経験していない。だから、もしインフレが起きればかなり大きなショックになるだろう」と語った。そして、価格上昇が改めて懸念される場合、中央銀行は政策を再評価する必要があるかもしれないと付け加えた。
先週末、ロンドンでG7会合が開催されていた。会合後にブルームバーグのインタビューに答えたジャネット・イエレン米財務長官は、金利上昇は政策立案者にとって「プラス」になると述べた。
イエレンは、「金利がわずかに高い環境になった場合、それは実際に社会の視点とFRBの視点にとってプラスになるだろう」と、バイデン大統領の歳出計画がインフレと金利上昇を引き起こしても構わないとの姿勢を示した。
「私たちは10年間、低すぎるインフレと低すぎる金利と戦ってきました。私たちは、それらに通常の環境に戻ってもらいたいと考えている。そして、これが少しでも状況を緩和するのに役立つのであれば、それは悪いことではない。それは良いこと」と述べた。
経済が正常化する中、穏やかに金利が上昇していくことは政策立案者だけではなくもちろん経済、そして経済の中で暮らしている人々にとっても悪いことではないだろう。しかし、安易な政策によって急激な物価上昇がもたらされる可能性は否定できない。
市場は「インフレは一時的」とのFRBの甘い言葉だけを頼りに現実から目を背けているが、現実に引き戻される瞬間がありそうだ。