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銀行による『持ち合い株ゼロ目標』が需給不安につながる可能性

 日経平均株価は2月16日の終値3万467円をピークとして、5月13日に安値2万7,385円まで下落するなど、波乱の展開となりました。とくに5月11~5月13日の3営業日で約2,000円も急落したことは、投資家の意欲減退につながったものとみられます。

 現在も波乱の余韻や上値の重さから完全に抜け出せたわけではありません。「2,000円急落」以降の上値の重さは、海外要因よりも国内要因が主因となった印象です。

  • ワクチン接種進展に関する懐疑
  • 東京オリンピック開催に対する不安
  • 大手上場企業の保守的な期初業績予想
  • 緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の延長(6月20日まで)

 ここにもう一つ、新たな不安材料が加わっています。5月12日、傘下に三井住友信託銀行を持つ「三井住友トラスト・ホールディングス(8309)」が持ち合い株式など政策保有株約1兆4,000億円をゼロにする目標を示したことです(2023年3月期までの2年間でまず時価2,500億円分を売却する)。

 政策保有株とは、純投資ではなく取引先との関係維持など経営戦略上の目的で保有する株式のことです。昭和の高度成長期に生じ、平成バブル期に広がりを見せた日本特有の「株式持ち合い」です。

 金融機関はこれまでも株価下落時の財務健全性を確保するとして、政策保有株を減らしてきた経緯があります。さらに、海外投資家から指摘されることが多い企業統治(コーポレートガバナンス)の改革も背景にあります。

 ただ、今回のように大手行が「残高ゼロ」にまで踏み込んだことにより、他金融機関も政策保有株ゼロにかじを切れば、かなりの株数が市場で売られることになり、需給不安が発生する可能性もあります。

 平成バブル崩壊後には、保有株下落で損失が膨らんだ金融機関を中心に、政策保有株を手放す動きが広がりました。2002年には銀行から政策保有株を買い取る「銀行等保有株式取得機構」が政府主導で設立され、市場への影響を抑える方策が取られたこともあります。

 現在、政府が「買い取り機構」を設立する動きはなく、さらに日本銀行がETF(上場投資信託)買いを明確に縮小していることから、全体相場軟調時には下値不安が増すケースも想定されます。

 過去の需給悪による下落は、投機売りとは異なり、急落ではなくズルズルと下げるケースが見られていました。