「3人っ子政策」で出生数は増えるか?3人の中国人女性が語る不安と懸念
中央政治局による決定とその報道を受けて、中国の世論では「制限は緩和されたけれども、果たして3人目を産むか?」をめぐって、激烈な議論が交わされています。
私の観察によれば、そのほとんどはネガティブなもので、「緩和するだけでは何の意味もない」「生育コストが高すぎて3人目なんて無理だ」「政府は何もしてくれないではないか?」「これで女性の社会的地位が一層低下し、職に就くのも難しくなる」といった反応が目立ちます。
中でも興味深かったのが、フォロワー数1億を超える中国版ツイッター(微博)上で新華社が、「3人目許容政策が出ましたが、貴方は準備できていますか?」という民意調査を6月1日に行いました。すると約9割が3人目を産むことを「全く考慮にない」と回答したことから、あせってツイート自体を削除してしまいました。結果が予想外に低く、「3人目なんて産めない」という世論が炎上し、党指導部によって決定された政策が否定される局面を恐れてのことでしょう。
実際に、中国の人々は今回の3人目許容政策をどう見ているのか。6月1日、私は次の3人の中国人女性に取材しました。
Yさん(40歳、未婚、一児の母、杭州在住、国有企業勤務)
Zさん(32歳、既婚、一児の母、シンガポール在住、金融機関勤務)
Fさん(28歳、未婚、香港在住、国有企業勤務)
まず、3人の見解に共通していたのが、中国が高齢化社会に入っている中、政府が3人目を許容する政策は想定内だが、ただ許容するだけでは効果は限定的で、減税、住宅を中心とした生活コストのカット、社会保障の充実、教育、医療面での補助金などあらゆる政策をパッケージで付けなければ意味がないという見解です。
「2人目を許容した際も、効果は限られていました。3人目は、高所得者と低所得者だけが考えるでしょう。大多数の中産階級は、3人の子供を負担する余裕はありません」(Zさん)
「政策だけ出しても効果はありません。多くの一般家庭にそんな経済的余裕はありません。私自身、将来の夫にお金があれば2人目を考えますが、3人目はないです」(Fさん)
と同時に、3人が共に懸念を示していたのが、女性にとっての、出産と仕事の関係です。
「これで女性を募集する企業はさらに少なくなったでしょう。2人目の時もそうでした。中国企業はただでさえ経営が厳しいのに、3回の産休を受け入れる企業などありません。国は企業に一切の補助金を出しません。生育コストを家庭と企業で負担させ、国は何もせず、3人目を許容するなんて言っても、何の説得力もありません」(Yさん)
「私は最近、転職を考えているのですが、面接した企業からまだ子供を産む気があるか聞かれました。中国では歴史上、専業主婦は少なく、大多数が職場を持ちたいと思っていますから、出産という問題を抱える女性にとっては、さらに不公平さが増したといえます」(Zさん)
「企業は女性従業員の産休コストを嫌がる。国はそこに対して何もしない。国は家庭、企業の両方に補助を出さないと、今回の政策も効果はないでしょう。また、男性に対しても育児休暇を出すべきです」(Fさん)
このように見てくると、中国人女性にとっての出産、中国人家庭にとっての育児をめぐる状況や心情には、日本人と似通っている部分もあるように見えてもきます。
3人目許容政策公開後の世論、3人の回答を総合すると、この政策が地に足の着いた、効果的なものにするという観点から、争点になっているのは主に2点であるように思われます。
(1)国民の収入に比べて、住宅を中心に生活コストが高すぎる。政府は減税、社会保障など公共サービスの充実、住宅バブルの抑制、教育・医療コストの軽減などを通じて、国民が出産や育児に回せるお金が増えるよう尽力すべきだ
(2)家庭を持ち、出産、育児をしながらも、職場で働きたい女性が大部分を占める中、今回の政策で女性はさらなる苦境に立たされた。政府は企業への補助を強化する形で、従業員が安心して産休、育休を取れるようにサポートすべきだ