G(企業統治)は、鉱山会社と自動車会社の両面から考える必要がある

 G(企業統治)については、先述のとおり、E(環境)やS(社会)に影響を及ぼし得る、「原因」の要素が強いテーマであるため、その動向はプラチナ市場を分析する上で非常に重要です。

 鉱山会社が不正防止策を講じ、よりクリーンな会社に変わった場合、労働者、消費者、市場、自社の利益、E(環境)・S(社会)への影響度のバランスを測る動きが強まり、プラチナ市場に上昇と下落の両方の圧力がかかる可能性があります。

 世界全体の鉱山生産のおよそ6割強を、「Anglo American Platinum」(22%)、「Impala Platinum」(17%)、「Sibanye-Stillwater」(14%)、「Lonmin」(11%)、の4社が占めています。

 このうち、「Impala Platinum」と「Sibanye-Stillwater」は本拠地を主要な鉱山生産国である南アフリカ(鉱山生産1位。シェアはおよそ72%)に置いています。(いずれも2018年)

 新興国の一翼を担う南アフリカの会社として、さらなる発展を遂げるためには、これまで以上に、グローバル化が必要です。グローバル化を進めるにあたり、昨今の社会情勢を鑑みれば、ESGを順守することは必須と考えられます。

 これらの会社が、ステークホルダー(利害関係者・利害関係分野)への配慮が進めば、ステークホルダーが広範囲なだけに、プラチナ市場には、上昇と下落の両方の圧力がかかる可能性があります。

 企業に自動車会社を含めれば、より、考慮すべき点が増えます。EV(電気自動車)を流通させたいのか、FCV(燃料電池車)を流通させたいのか、自動車会社の方針次第で、プラチナ市場への影響が変わります。(どちらも走行時は温室効果ガスを排出しない自動車です)

 日本や欧州のように、水素を主要なエネルギー源とする「水素社会」を模索しているケースにおいて、それらの国の自動車会社が国の方針に準拠し、水素を充填し、発電装置の電極部分にプラチナを用いるFCV(燃料電池車)を流通させる策を講じた場合、「プラチナが政府や主要自動車会社からお墨付きを得た」と期待が高まり、プラチナ市場に上昇圧力がかかる可能性があります。(EVのバッテリー調達問題を回避できるメリットもあります)

 同時に、政府がFCVに充填する水素を調達するために、電極部分にプラチナを用いる、温室効果ガスを発生させずに水素を生成する装置(グリーン水素の生成装置)を重用した場合はさらに上昇圧力がかかると考えられます。

 Gはある意味、Government(政府)でもあります。鉱山会社や自動車会社、それを束ねる政府も含め、「G」は、プラチナ市場の動向を考える上で非常に重要な存在だと言えます。

図:「温室効果ガス削減」と期待される各種貴金属の新需要

出所:筆者作成

 図内「Life Cycle Assessment」については、以前のレポート「自動車業界とプラチナの「新しい」関係」をご覧ください。

長期視点で、引き続き、プラチナは上値余地あり

 ESGという世界的なブームともいえるテーマをもとに、プラチナ市場の材料を確認しました。全体的には以下のことが言えます。

・G(企業統治 場合によっては「政府」)の動向は非常に重要。EVとFCV、どちらを重視するか、「水素社会」をどこまで本気で目指すのか(その水素は温室効果ガスを排出せずに精製されたグリーン水素なのかどうか)、などは今後、水素と関わりが深いプラチナの動向を考える上で要注目。

・E(環境)については、まずは、排ガス浄化装置向け需要の動向に注目。2015年のフォルクスワーゲン問題発覚以降、同需要は微減(急減していない。下図参照)。排ガス浄化装置向け需要は、環境規制強化への対応のため1台あたりに用いられる排ガス浄化装置向け需要が増加していると考えられる。また、2021年は回復が見通されている。長期視点でみて、排ガス浄化装置向け需要が緩やかに減少しても、環境配慮起因の新需要が補う可能性もある。

・S(社会)については、市民のEVとFCVの選択の動向もさることながら、人権配慮が進み、鉱山労働者の発言力が強まることで、鉱山からの生産が頭打ちとなったり、市場価格が上振れしやすくなったりする可能性がある点に注目したい。

図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要 単位:千トロイオンス

出所:WPICのウェブサイトのデータより筆者作成

 ESGの側面から分析をすると、プラチナ市場を広範囲に見渡せることがわかります。本レポートで述べた点を考慮すれば、ESGの促進は、長期視点で、プラチナ市場にとっては全体的にはプラス、つまり上昇要因といえると、筆者は感じています。(上昇要因と下落要因が相殺され、どちらかと言えば上昇、という意味です)

 ESGが世界的な長期視点の取り組みであるため、プラチナ市場への影響も長期的なものになると、考える必要があります。長期的に、ESGの行方とともに、プラチナ価格の動向に注目していきたいと思います。

図:プラチナ価格の推移(月足) 単位:ドル/トロイオンス

出所:マーケットスピードⅡより筆者作成

[参考]貴金属関連の具体的な投資手法

楽天証券の純金積立「金・プラチナ取引」はこちらからご参照ください。

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

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GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
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三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)