任天堂

1.2021年3月期4Qは24.0%増収、33.6%営業増益

 任天堂の2021年3月期4Qは、売上高3,544億円(前年比24.0%増)、営業利益1,195億円(同33.6%増)となりました。

 前々4Q(2020年1-3月期)は、新型コロナ禍による巣ごもり消費が始まったところであり、かつ、2020年3月20日にニンテンドースイッチ用「あつまれ どうぶつの森」(2020年3月期販売本数1,177万本、2021年3月末累計3,263万本)が発売されたため、営業利益894億円と本来は不需要期の1-3月期としては異例の高水準の営業利益になりました。しかし、前4Q(2021年1-3月期)営業利益はこれを上回りました。

 これは、ニンテンドースイッチ用ソフト(任天堂製+サードパーティ製)が前々4Q4,559万本→前4Q5,478万本と好調に売れたことによります。ミリオンセラーになったソフトは、「マリオカート8デラックス」198万本、「リングフィットアドベンチャー」143万本、「あつまれ どうぶつの森」145万本、「スーパーマリオ 3Dワールド+フューリーワールド」(2021年2月12日発売)559万本などで、1,000万本級のソフトはなかったものの、任天堂製旧作(2020年3月期以前に発売されたソフト)と新作、サードパーティ製新作(カプコンの「モンスターハンターライズ」480万本など)などが幅広く売れました。

 会社側の見方では、巣ごもりの中で「あつまれ どうぶつの森」を買った2020年3月期、2021年3月期のニンテンドースイッチの新規ユーザーが、2本目、3本目に「マリオカート8」などの優良旧作を買った模様です。旧作は開発費が償却済みで広告費もほとんどかかっていないため、任天堂の業績の底上げ要因となっています。

 地域別に見ると、全地域でニンテンドースイッチのハード、ソフトとも好調に売れました。任天堂にとって最重要地域である北米向けが好調だったほか、まだ数字は小さいものの中国などのその他地域向けも好調でした。

 ハードは、半導体と部品が足りず、昨年春から秋にかけて長期間店頭で欠品となる事態になりましたが、標準型とライトを合わせた販売台数は前々4Q329万台から前4Q473万台へ増加しました。通期ではニンテンドースイッチ・ハード(標準型+ライト)は2020年3月期2,103万台、2021年3月期2,883万台、ソフトは同じく1億6,872万本、2億3,088万本といずれも大きく伸びました。

 この結果、2021年3月期通期は、売上高1兆7,589億円(同34.4%増)、営業利益6,406億円(同81.8%増)となり、過去最高の業績となりました。

表5 任天堂の業績

株価    60,120円(2021/5/13)
発行済み株数    119,123千株 
時価総額    7,161,675百万円(2021/5/13)    
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの。
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。

表6 任天堂:ニンテンドースイッチ・ハード、ソフトの販売台数、本数(四半期ベース)

単位:万台、万本
出所:会社資料より楽天証券作成。
注:端数処理の関係で一部合計が合わない場合がある。

表7 主要な任天堂製ニンテンドースイッチ用ソフトの販売本数

単位:万本
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:任天堂出荷ベース、ダウンロード、ハードウェア同梱を含む。
注2:端数処理のため合計が合わない場合がある。

表8 主要な任天堂製ニンテンドースイッチ用ソフトの販売本数(年度ベース)

単位:万本
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:任天堂出荷ベース、ダウンロード、ハードウェア同梱を含む。
注2:端数処理のため合計が合わない場合がある。

2.2022年3月期会社予想は減収減益だが、上乗せ余地があろう

 2022年3月期会社予想は、売上高1兆6,000億円(前年比9.0%減)、営業利益5,000億円(同22.0%減)です。前提は、ニンテンドースイッチ・ハード2,550万台(標準型+ライト、2021年3月期は同2,883万台)、同ソフト1億9,000万本(2021年3月期は2億3,088万本)です。

 現時点で公表されている2022年3月期発売予定ソフトはリメイク物が多く、大作ソフトはない模様です。注目ソフトは、「ミートピア」(2021年5月21日発売)、「マリオゴルフ スーパーラッシュ」(2021年6月25日)、「ポケットモンスター ブリリアントダイアモンド」「ポケットモンスター シャイニングパール」(2021年冬、リメイク版)、「Pokémon LEGENDS アルセウス」(2022年初頭)などです。また、「スプラトゥーン3」が2022年に発売予定です。「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」続編は発売日未定のままです。

 会社側の今期減収減益の考え方は、前1Q、2Qは巣ごもり消費真っ盛りで旧作ソフトが良く売れ、ダウンロード販売も通常の四半期に比べ多いという(旧作のダウンロード販売の営業利益率はほぼ100%と推定されます)、かつてない好条件での好業績だったため、これを上回る業績を達成することは容易ではないというものです。

 この考え方は一理あるものですが、楽天証券では、前期に2,883万台のニンテンドースイッチが売れているため、このユーザーが今期に新たに数本のソフトを購入すると考えました。また、会社側のハード販売の見積もりは保守的過ぎると思われます。半導体不足の中ですが、前期+αの台数分の半導体と電子部品の調達は可能と思われます。そのため、前期と今期の新ユーザーが活発にソフトを購入すると思われます。ただし、ニンテンドースイッチ発売後1~3年目頃にハードを購入したユーザーがニンテンドースイッチに飽きてしまい、ソフトの年間購入本数を減らす可能性があるため、今期のソフト販売本数の大幅増加は期待しにくいと考えます。楽天証券では今期のハード販売台数を3,000万台(標準型+ライト)、ソフト販売本数を2憶4,000万本と予想します。

 また来期2023年3月期は、これまでにハードを購入した人たちが、特に前期に買ったライトユーザーを含むユーザーが、各国の社会が正常化し、映画館、劇場、テーマパークなどリアルの遊びが再開するにつれて、少しずつゲームから離れていく可能性があります(北米では今年6月以降映画館が再開。一部のディズニーランドは4月から再開。ブロードウェイは9月から再開予定)。任天堂はこれに対して、今期または来期に発売する可能性のあるニンテンドースイッチのバージョンアップ版と大作ソフトを発売すると思われますが、ハードとソフトの下降局面入りを防ぐことはかなり難しいと思われます。

 これらの考察から、楽天証券では任天堂の2022年3月期を売上高1兆8,800億円(同6.9%増)、営業利益6,800億円(同6.1%増)、2023年3月期を売上高1兆7,800億円(同5.3%減)、営業利益6,200億円(同8.8%減)と予想します。

表9 任天堂の業績予想の前提(2021年5月)

出所:楽天証券作成
注:家庭用ゲーム(前回、今回)のニンテンドースイッチ(標準型)会社予想には、ライトを含む。同楽天証券予想はライトを除く。

3.任天堂の問題点は今後も残るだろう

 任天堂の問題点は、ソニーと同じです。卓越したコンテンツ制作能力を持ちながら、これを全世界に対して広めるためのハードウェアの生産能力、半導体と部品の調達能力、販売能力が低く、かみ合っていないということです。そもそも精度の高いハード需要予測がないと思われます。ハードの需要予測と生産計画は常に保守的で、足りなくなると部品を追加発注するのですが、ソフトに人気がでるとすぐにハードが欠品を起こし、ビジネスチャンスを逃がしてしまうのです。

 これが繰り返されるうちに、初期のユーザーが飽きてしまい、長期にわたる右肩上がりの成長ができなくなり、結局はこれまで通りの循環的成長になってしまうと思われます。

 任天堂がこの問題を問題として捉えているようには思えません。常にハードの生産計画を保守的に行う一つの理由は、任天堂もソニーもハードの過剰在庫を恐れているためです。結局、家庭用ゲームビジネスのビジネスモデルに由来するこの問題は(プラットフォームホルダーが専用ハードの生産を独占する)、今後も残り続けると思われます。

4.今後6~12カ月間の目標株価を前回の7万2,000円から6万6,000円に引き下げる

 任天堂の今後6~12カ月間の目標株価を前回の7万2,000円から6万6,000円に引き下げます。2023年3月期の楽天証券予想EPS3,685.3円に、業績が緩やかに下降局面入りするであろうことを想定したPER15~20倍を当てはめました。投資妙味は限定的と思われます。

グラフ4 任天堂のゲームサイクル:据置型ハードウェア

(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

グラフ5 任天堂のゲームサイクル:携帯型ハードウェア

(単位:万台、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券)

グラフ6 任天堂のゲームサイクル:据置型ソフトウェア

(単位:万本、出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券、注:ニンテンドースイッチ用ソフトにはライト用も含まれる)

本レポートに掲載した銘柄:ソニーグループ(6758)任天堂(7974)