毎週金曜日夕方掲載
本レポートに掲載した銘柄:ソニーグループ(6758)、任天堂(7974)
ソニーグループ
1.2021年3月期4Qは27.0%増収、87.5%営業増益
ソニーグループの2021年3月期4Q(2021年1-3月期、以下前4Q)は、売上高2兆2,204億円(前年比27.0%増)、営業利益665億円(同87.5%増)、税引前当期純利益955億円(前年同期は40億円の赤字)、当社株主に帰属する当期純利益1,070億円(同8.5倍)となりました。持分証券に関する利益を計上したため、営業外収支が大きくなりました。更に、日米で繰延税金資産に対する評価性引当金の見直しを行ったため法人税が減額され、税引前当期純利益よりも当社株主に帰属する当期純利益が大きくなりました。
この結果2021年3月期通期は、売上高8兆9,994億円(同9.0%増)、営業利益9,719億円(同15.0%増)、税引前当期純利益1兆1,924億円(同49.1%増)、当社株主に帰属する当期純利益1兆1,718億円(同2.0倍)となりました。当社株主に帰属する当期純利益は初めて1兆円台に乗りました。
表1 ソニーグループの業績
表2 ソニーのセグメント別営業利益(四半期ベース)
表3 ソニー:2021年3月期4Qセグメント別業績
表4 ソニー:セグメント別業績動向(通期ベース)
2.セグメント別動向
1)ゲーム&ネットワークサービス
ゲーム&ネットワークサービスの2021年3月期4Q(2021年1-3月期、以下前4Q)は、売上高6,603億円(同52.3%増)、営業利益330億円(同28.6%減)となりました。売上高はプレイステーション5(PS5)・ハードウェアが前3Q450万台、前4Q330万台販売されたこと、PS4用、PS5用ゲームソフトはパッケージ、デジタル販売ともに前年比減収でしたが、PS4用アドオンコンテンツ(追加ソフトウェア)が売上高2,369億円(同43.0%増)と好調で、シーズンである前3Q2,565億円(同47.1%増)に並ぶ売上高となったことが寄与しました。「フォートナイト」などの追加コンテンツが好調でした。
前4QはPS5ハードウェアの赤字と販促費の負担によって営業減益になりましたが、PS5ハードウェアの赤字は前3Qから前4Qにかけて縮小しており、周辺機器を含むハードウェア全体の採算は向上している模様です。
PS5ハードウェア販売台数は2021年3月期780万台となりました。会社予想がPS4の1年目、760万台以上だったので、これをやや上回りました(楽天証券予想は900万台)。会社側では今期2022年3月期はPS4の2年目1,480万台を上回ることが目標で、来期2023年3月期は今期を超える台数を目指したいとしています。半導体調達の難しさは順次改善されると予想されますが、急には無理なので、楽天証券ではPS5販売台数を今期1,500万台、来期2,000万台とし、PS4よりも1年早く2,000万台に到達すると予想します。前回予想の同じく2,000万台、3,000万台から下方修正します。
表4のように、ゲーム&ネットワークサービスの2022年3月期、2023年3月期楽天証券業績予想も下方修正します(前回予想の営業利益2022年3月期4,100億円、2023年3月期5,500億円から、同じく3,300億円、4,000億円に下方修正)。ただし、PS4ユーザーのロイヤルティが高く、アドオンコンテンツを含むゲームソフトを継続的に買っており、PS5への移行もPS5が供給される限り進んでいます。今期会社予想は売上高2兆9,000億円(同9.2%増)、営業利益3,250億円(同5.0%減)と減益予想ですが、多少の上乗せ余地はあると思われます。
もっとも、PS5によってソニーグループのゲーム&ネットワークサービスが長期的に大きな成長を実現できるか、不透明です。PS5が今日の極端な品不足を招いた背景には、半導体不足以前の問題として、まず、ソニーグループの需要予測の精度が低かったと思われることが挙げられます。PS5発売(2020年11月)の1年以上前にはスペックと発売時期が決まっていたと思われますが、その時点で満足な需要予測が出来ていなかったと思われるのです(ソニーグループがPS5のスペックの一部を始めて開示したのは、2019年5月のIRDAYにおいてです。精度の高い需要予測ができていれば、十分な数量の半導体を予約できていた可能性があります)。
また、半導体を含む部材を大規模に調達して生産販売することも出来ませんでした。以前から行っている初期ロットを保守的に見積もって、需要に応じて追加発注するというやり方では、半導体不足の中では十分な数量の調達と生産が出来なくなるのです(ちなみに後述しますが、任天堂もこのような調達のやり方を続けています)。
要するに、ソニーグループはグローバルに展開するメーカーとしての機能が弱いと思われます。
グラフ1 ソニーのゲームサイクル:プレイステーションの販売台数
グラフ2 ソニー・ゲーム&ネットワークサービス事業の売上構成
2)音楽
音楽分野の前4Qは、売上高2,674億円(前年比26.5%増)、営業利益406億円(同34.0%増)と好調でした。音楽制作(ストリーミング)が好調だったこと、「Fate/Grand Order」「ディズニー ツイステッドワンダーランド」からなるスマホゲームが堅調に推移したこと、アニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が大ヒットしたこと(日本での公開日が2020年10月16日。2021年4月26日付けで興行収入397.8億円と歴代1位を記録)によります。
なお、前4Qの音楽制作(ストリーミング)売上高1,013億円(同44.8%増)の中に売上計上基準の変更による約105億円(1年分)が計上されています。
今期会社予想は、売上高9,900億円(同5.3%増)、営業利益1,620億円(同13.9%減)です。前期営業利益の約30%がスマホゲーム、アニメなどからなる映像メディア・プラットフォームの利益貢献ですが、この部分の利益を今期は慎重に考えている模様です。ただし、音楽制作(ストリーミング)の好調持続が予想され、海外での『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のヒット、鬼滅の刃のスマホゲームが今期に配信開始される可能性があること(会社側は配信時期は未定としている)などから、会社予想に対する上乗せの可能性もあります。
来期を考えると、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の寄与が剥落するマイナス面がありますが、音楽、スマホゲーム、アニメと収益源の多様化が進んでいるため、安定した業績が予想されます。