「調査失業率」、特に若年層の失業問題は不安要素

 このように見てくると、中国経済は極めて順調に運行していて、先行き安泰という印象を受けますが、そうではありません。劉報道官は、各種経済指標を紹介し「今年第1四半期の経済回復の態勢は継続しており、前向きな要素が蓄積、増加している」としつつも、次のように不安要素やリスクを指摘しています。

「海外における新型コロナウイルスは依然まん延している。国際環境は依然複雑で厳しい。国内経済が回復するための基礎も強固とはいえず、一部サービス業や零細企業の生産や経営は依然比較的多くの困難に直面している」

 このような現状を乗り切るため、中央政府として、生産や経営が困難な企業へのサポートを強化し、マクロ政策の連続性、安定性、持続可能性を保持することを通じて、経済の安定的回復を推し進めるとのことです(昨年末のレポート「2021年、中国経済成長8%超か。 8つ視点で予測:内需、環境、IT、食糧、不動産…」ご参照)。

 劉報道官が会見で記者たちからの質問に答える中で、私が注目した不安要素を2つ挙げます。

 一つ目が製造業投資。今年の第1四半期は前年同期比で+29.8%ということですが、2年平均では▲2%。「これは、製造業投資がコロナ禍以前の水準に回復していないことを意味する」(劉報道官)。背景にある要因としては、企業の生産や経営が依然、比較的多くの困難に直面していて、回復の過程にあること、また、投資家の中国マーケットへの自信という意味で、一定の憂慮が存在することを挙げています。

 劉報道官によれば、今年は第14次五カ年計画の1年目であり、一部大きな投資プロジェクトは現在計画中の段階にあるとのこと。民間企業が参入できる機会は増える見込みであり「伝統的産業の改造、新興産業の成長過程で、大量の投資空間があるだろう」と指摘した上で、「将来を見据えると、中央政府としては、製造業投資の回復に自信を持っている」と総括しています。中央政府として、国内外を含め、投資家たちに中国の経済・マーケットへの自信を失ってほしくないという危機感が如実に表れているコメントと受け取りました。

 二つ目が失業率。中国では「調査失業率」という指標が用いられています。要するに、政府として調査できる範囲における失業率ということです。実情はそれよりも高くなるのは言うまでもありません。第1四半期の失業率は5.4%、昨年の同時期よりも0.4ポイント下がっています。うち、3月は5.3%で、昨年3月より0.6ポイント下がっています。

 これらの数値から、劉報道官は「昨今の雇用情勢は比較的安定している」としつつも、「1年を通した雇用総量の圧力は比較的大きい。経済回復の過程における構造的矛盾も現れてきている」と懸念を示しています。

 例えば、第1四半期における、農村から都市部へ出稼ぎに出てきた労働者の数は1.7億人強で、コロナ前の2019年と比べて246万人少ない。これは、一部サービス業、特に中小企業の生産や経営が依然厳しく、回復の過程にあるため、就業需要に影響が出ているとのこと。私が特に注目したのは、16~24歳の失業率が13.6%と、昨年同時期よりも高く、全体の2倍以上になっている現状です。

 中国の大学は9月入学ですが、これから夏にかけて、史上最大とされる909万人の大学卒業生が一気に労働市場に出てきます。若年層の失業問題は、経済成長、マーケットの活力だけでなく、中国共産党が最も警戒する要素の一つである「社会不安」にも影響してきます。昨今の中国経済にとっての不安要素の一つといえるでしょう。

 また、劉報道官が指摘する「構造的矛盾」も、中国経済の今後を占う上で重要です。問題になっているのが、特に沿岸部で工業が発達し、貿易への依存度が高い地域で普遍的に発生している「招工難」という、企業の労働者招へいが困難に陥っている問題です。

 最近、国家統計局が9万社以上の一定規模以上の工業企業に対して調査を実施したところ、約44%の企業が「招工難が目下、直面する最大の問題」と回答し、この数字は近年で最高。調査によれば、特に、工場で働く労働者や高い技術を持った技術者の招へいが困難に直面しているとのことです。

 労働市場における買い手側と売り手側のマッチングという問題は、日本を含めたすべての国に存在する問題なのでしょうが、中国はその規模が巨大なだけに、問題は深刻ということなのでしょう。上記のように、これだけ多くの若者が失業状態にあり、これだけ多くの大学卒業生が労働市場に一挙に出てくるにもかかわらず、これだけ多くの企業が「人材不足」に困窮しているという構造的矛盾は、中国経済にとって一つの不安要素だといえるでしょう。

 劉報道官は、「次の段階だが、経済の持続的回復に伴い、我々は引き続き雇用優先の政策を強化し、就業が困難な人々への扶助を拡大してく。雇用サービスの保障を通じて、市場化、社会化の雇用チャネルを拡大することで、雇用分野が直面する問題を徐々に解決していく」としています。行政による政策を打ち出しつつも、最後は市場原理に基づいたマッチングを実現したいということなのでしょう。引き続き情勢を注視していきたいと思います。