回復基調にある中国経済の現在地

 今回のレポートでは、先日、中国国家統計局によって発表された、2021年第1四半期(1-3月)の経済統計指標を参照しながら、「中国経済の現在地」を紐解いていきたいと思います。時期的に、中国でも「五・一黄金周」と呼ばれるゴールデンウイークに突入します。

 日本ではこの期間、東京、大阪、兵庫、京都で緊急事態宣言が、その他地域でもまん延防止等重点措置が敷かれていることもあり、「経済を犠牲にしてでも新型コロナウイルスを抑え込む」という“国策”が如実に表れていますが、中国では果たしてどうなのでしょうか。今後の中国経済、日中経済関係を占う上でも参考になる事象といえるでしょう。以下、議論していきたいと思います。

+18.3%

 中国国家統計局が4月16日に発表した2021年第1四半期(1-3月)の実質GDP(国内総生産)成長率(前年同期比)です。比較対象となる2020年第1四半期が、新型コロナウイルスまん延の影響を直接的に受けた(▲6.8%)こともあり、例年とは異なる高い数値となったことは、この日、記者会見に臨んだ同局報道官の劉愛華(リュウ・アイファー)氏も認めています。

 この日に発表された、その他の主要経済指標を見てみましょう。

 一定規模以上の工業増加値+24.5%、社会消費品小売総額+29.2%、固定資産投資(農業含まず)+25.6%。いずれもGDP成長率を超える2桁成長を示していますが、2020年第4四半期と比べると、+2.01%、1.86%、2.06%となっており、この日、劉報道官が用いた「ここ2年間の平均成長率」(2020年第1四半期と2021年第1四半期を足して2で割った数値)で示すと、GDP成長率が+5%、一定規模以上の工業増加値が+6.8%、社会消費品小売総額が+4.2%、固定資産投資が+2.9%となっています。ちなみに、貨物の輸出入に関しては、2021年第1四半期が+29.2%、昨年第1四半期との平均で+10%近い成長とのこと。

 これらの数値結果を受けて、劉報道官は「経済は全体的に安定的回復の状態にある」と、中国経済の現在地を総括しました。

 中国政府は今年の経済成長率目標を「6.0%以上」と設定しています。この数値が発表された3月の全国人民代表大会(全人代)前後、本連載でも適宜議論してきましたが、「6.0%以上」という数値は、中国政府にとって、「最低限の目標」「ほぼ100%の確率で達成可能な目標」ということだと思います。

 例えば、IMF(国際通貨基金)は最近、今年の中国経済の成長率を+8.4%に上方修正をしています。上記の会見にて、この点について聞かれた劉報道官は、「IMFによる予測結果の修正は、国際社会の中国経済発展に対する自信と期待を示しているのだろう。あらゆる要素を総合的に分析すれば、中国経済は、1年を通して安定の中で強固になり、好転していく態勢が期待できる」とコメントしています。

 本連載でも扱いましたが、全人代閉幕後に行われる恒例の記者会見にて、李克強(リー・カーチャン)国務院総理は、「我々は6%以上の成長と言った。6%は低くない。現在、中国経済は100兆元に達したが、6%ということは6兆元。仮にこの数字を第13次五カ年計画初期(筆者注:2016年頃)に当てはめれば、8%以上の成長が必要なことになる」と述べた上で、

「6%以上というのはやや低めに設定してある。実際の過程では、成長はもう少し高くなる可能性もある」と心の内を披露しています。

 昨年の中国経済は、コロナ禍からの回復基調にあった第3四半期に+4.9%、第4四半期に+6.5%で、1年全体では+2.3%という結果でした。仮に今年の残り3つの四半期において、「+6.0%以上」という目標を下回り、例えば+5.5~6.0%のあたりをさまよったとしても、第1四半期の18.3%が効いて、年平均で+8.0%以上の成長になる公算が高いでしょう。

 ただ、李総理が同会見で指摘したように、中国政府として重視しているのは、今年の経済成長が、「特に来年、再来年の目標につながることで、大きな上げ下げを引き起こさないこと」であり、「さもなければ、市場予測は混乱する。一時的に成長スピードが速いことは安定を意味するわけではない。安定してこそ、経済が力強く回る。中国のような巨大な経済は、将来を見据えて安定的に成長してこそ、長期的な前進が保持できる」と考えているようです。

 中国経済を安定的、持続的に発展させる上で、規制緩和や構造改革、内需を重視した成長モデルへの転換などがうたわれてきましたが、それと同時に、中国が官民を挙げて重視しているのが、経済成長のための新たな原動力です。

 前出の記者会見にて、劉報道官は、「新動能が急速に成長している」と指摘しました。「新動能」とは、経済成長を促す新たな原動力のことを指します。これがもたらされた背景には、政府による規制緩和や構造改革、民間による情報や技術の革新などがあります。劉報道官が挙げた、第1四半期の数値には以下のものがあります。

・一定規模以上のハイテク製造業が前年同期比で+31.2%。2年平均で+12.3%。装備製造業増加値が前年同期比で+39.9%。2年平均で+9.7%→これら2つの成長率はいずれも一定規模以上の工業値の全体成長率よりも高い

・ハイテク産業投資は前年同期比で+37.3%。2年平均で+9.9%→投資全体よりも7ポイント高い

・代替燃料車、工業ロボット、マイクロコンピューターの生産量は前年同期比でそれぞれ3.1倍、1.1倍、73.6%で、2年平均で成長速度は2桁に上る

・オンラインショッピングが前年同期比で+25.8%、2年平均で+15.4%→オンライン消費の比重が社会消費品小売総額の21.9%に到達

 中国で使用される用語で分かりにくいものもあったかと察しますが、ハイテク関連の商品、EV(電気自動車)、ロボットやAI(人工知能)、そして中国で近年急速に発展してきたオンライン消費、デリバリーサービスといった、情報テクノロジーの進化によって育まれた産業、ビジネス、商品、サービスが、経済成長を推進するというのが中国経済社会における総意であるというのが私の解釈です。

 政府はこれらの新たな分野を成長に反映し、経済を持続的に繫栄させたい。企業はこれらの分野をビジネスとして活用したい。国民はこれらの商品やサービスを享受することで、生活を便利に、豊かにしたい。そして、私の観察では、これら「新動能」に関わる分野というのは、政府のマーケットに対する規制が比較的少なく、逆にサプライヤーやバイヤーに対する優遇措置が比較的多いのが特徴になっています。

 中国で起業する、ビジネスを展開する企業にとって(外資を含む)、政府による規制というのは常時向き合い、付き合っていかなければならない難題であり、その意味でも、「新動能」の分野というのは、例えば新規投資にとっても魅力的になり得るといえるでしょう。

「調査失業率」、特に若年層の失業問題は不安要素

 このように見てくると、中国経済は極めて順調に運行していて、先行き安泰という印象を受けますが、そうではありません。劉報道官は、各種経済指標を紹介し「今年第1四半期の経済回復の態勢は継続しており、前向きな要素が蓄積、増加している」としつつも、次のように不安要素やリスクを指摘しています。

「海外における新型コロナウイルスは依然まん延している。国際環境は依然複雑で厳しい。国内経済が回復するための基礎も強固とはいえず、一部サービス業や零細企業の生産や経営は依然比較的多くの困難に直面している」

 このような現状を乗り切るため、中央政府として、生産や経営が困難な企業へのサポートを強化し、マクロ政策の連続性、安定性、持続可能性を保持することを通じて、経済の安定的回復を推し進めるとのことです(昨年末のレポート「2021年、中国経済成長8%超か。 8つ視点で予測:内需、環境、IT、食糧、不動産…」ご参照)。

 劉報道官が会見で記者たちからの質問に答える中で、私が注目した不安要素を2つ挙げます。

 一つ目が製造業投資。今年の第1四半期は前年同期比で+29.8%ということですが、2年平均では▲2%。「これは、製造業投資がコロナ禍以前の水準に回復していないことを意味する」(劉報道官)。背景にある要因としては、企業の生産や経営が依然、比較的多くの困難に直面していて、回復の過程にあること、また、投資家の中国マーケットへの自信という意味で、一定の憂慮が存在することを挙げています。

 劉報道官によれば、今年は第14次五カ年計画の1年目であり、一部大きな投資プロジェクトは現在計画中の段階にあるとのこと。民間企業が参入できる機会は増える見込みであり「伝統的産業の改造、新興産業の成長過程で、大量の投資空間があるだろう」と指摘した上で、「将来を見据えると、中央政府としては、製造業投資の回復に自信を持っている」と総括しています。中央政府として、国内外を含め、投資家たちに中国の経済・マーケットへの自信を失ってほしくないという危機感が如実に表れているコメントと受け取りました。

 二つ目が失業率。中国では「調査失業率」という指標が用いられています。要するに、政府として調査できる範囲における失業率ということです。実情はそれよりも高くなるのは言うまでもありません。第1四半期の失業率は5.4%、昨年の同時期よりも0.4ポイント下がっています。うち、3月は5.3%で、昨年3月より0.6ポイント下がっています。

 これらの数値から、劉報道官は「昨今の雇用情勢は比較的安定している」としつつも、「1年を通した雇用総量の圧力は比較的大きい。経済回復の過程における構造的矛盾も現れてきている」と懸念を示しています。

 例えば、第1四半期における、農村から都市部へ出稼ぎに出てきた労働者の数は1.7億人強で、コロナ前の2019年と比べて246万人少ない。これは、一部サービス業、特に中小企業の生産や経営が依然厳しく、回復の過程にあるため、就業需要に影響が出ているとのこと。私が特に注目したのは、16~24歳の失業率が13.6%と、昨年同時期よりも高く、全体の2倍以上になっている現状です。

 中国の大学は9月入学ですが、これから夏にかけて、史上最大とされる909万人の大学卒業生が一気に労働市場に出てきます。若年層の失業問題は、経済成長、マーケットの活力だけでなく、中国共産党が最も警戒する要素の一つである「社会不安」にも影響してきます。昨今の中国経済にとっての不安要素の一つといえるでしょう。

 また、劉報道官が指摘する「構造的矛盾」も、中国経済の今後を占う上で重要です。問題になっているのが、特に沿岸部で工業が発達し、貿易への依存度が高い地域で普遍的に発生している「招工難」という、企業の労働者招へいが困難に陥っている問題です。

 最近、国家統計局が9万社以上の一定規模以上の工業企業に対して調査を実施したところ、約44%の企業が「招工難が目下、直面する最大の問題」と回答し、この数字は近年で最高。調査によれば、特に、工場で働く労働者や高い技術を持った技術者の招へいが困難に直面しているとのことです。

 労働市場における買い手側と売り手側のマッチングという問題は、日本を含めたすべての国に存在する問題なのでしょうが、中国はその規模が巨大なだけに、問題は深刻ということなのでしょう。上記のように、これだけ多くの若者が失業状態にあり、これだけ多くの大学卒業生が労働市場に一挙に出てくるにもかかわらず、これだけ多くの企業が「人材不足」に困窮しているという構造的矛盾は、中国経済にとって一つの不安要素だといえるでしょう。

 劉報道官は、「次の段階だが、経済の持続的回復に伴い、我々は引き続き雇用優先の政策を強化し、就業が困難な人々への扶助を拡大してく。雇用サービスの保障を通じて、市場化、社会化の雇用チャネルを拡大することで、雇用分野が直面する問題を徐々に解決していく」としています。行政による政策を打ち出しつつも、最後は市場原理に基づいたマッチングを実現したいということなのでしょう。引き続き情勢を注視していきたいと思います。

10%未満のワクチン接種率でも経済が活性化する現状

 さて、中国では、5月1日から5日まで「五・一黄金周」に入ります。中国の知人にこの期間の予定について話を聞きましたが、国内に住む多くが「家族で国内旅行へ行く」と意気込んでいます。湖北省在住の女性(40代)は、家族や兄弟と上海市と杭州市に旅行に出かける予定のようで、「高速鉄道の切符が予約しにくい」「上海のホテルがものすごく高い」といった不満をぶつけてきました。

 ゴールデンウイーク期間中の旅行者数は、史上最大規模に上り、5日間でのべ2億人を突破するという試算もあるほどです。香港に上場するシートリップ社(9961、HKG)が発表した予測報告によれば、この期間の人気都市トップ10は、上から順に、上海、北京、三亜、広州、成都、重慶、西安、アモイ、杭州、深センと、地域的にも各地にばらついている感があります(観光地のトップは上海のディズニーランド)。

 比較対象になると思われるのが、この前の清明節連休(4月3~5日)です。この期間、国内旅行者数はのべ1.02億人で、コロナ前の同時期の94.5%まで回復したと、劉報道官が会見で紹介しています。

 私が見る限り、中国国内では、仕事、休日、連休中の外出を含め、もはやコロナ前の「日常」に戻ったという様相を呈しています。中国政府としては、引き続き入国管理を強化することで、ウイルスの逆輸入を断固防ぎ、仮に国内でクラスターが発生した場合には、地域を限定してロックダウンをかけつつ、人の移動を含めた経済活動を活性化させていこうということなのでしょう。

 中国政府の発表によれば、4月25日時点において、コロナワクチン接種の回数は2.2億となっています。一人2回接種すると考えても、その普及率はいまだ人口の10%にも達していません。

 中国の官製メディア『光明日報』が、ワクチン接種回数が1億を超えたあたり、4月7日に発表した論考によれば、ワクチン接種が始まって以来、1日で最も接種人数が多かったのが3月26日ののべ611.9万人で、「中国で新型コロナウイルスに対する集団免疫を実現するためには、ワクチン接種率を70~80%、すなわち9億~10億人にまで高める必要がある。このように見ると、仮に3月26日のペースで接種人数が増加していったとしても、この目標に到達するのは来年の上半期ということになる」と指摘した上で、いまだ道半ばという現状を記載しています。

 興味深いのは、ワクチン接種率が、他国と比べても決して高くない状況にもかかわらず、中国ではコロナ感染者数が抑制されており、前述のように、経済活動がコロナ前の状況にまで回復しつつあるという点です。換言すれば、コロナ抑制→経済再生の過程で依拠したのはワクチンではないということ。これからの1年、仮にワクチン接種率が集団免疫を実現できるまで高まったとして、中国経済がどんな展開を見せるのか。注意してみていきたいと思います。

 コロナ抑制、経済再生、ワクチン接種。すべての分野でいまだ困難な状況にある日本にとっても参考になるかもしれません。