日銀は1月29日、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和の導入」を発表しました。日銀はインフレ目標2%を掲げる限り、その達成見込みが低いと見れば策を講じるべきであり、その点で私は今回の決定を高く評価しています。マイナス金利政策は日本史上初ということで市場関係者の多くにとって未知の世界であることから期待が膨らみやすく、当面市場は好意的に反応するでしょう。しかし残念ながら、その効果は長続きしないと見ています。その理由は第一に、時期的に導入が遅すぎたからであり、第二に、水準的にまだまだ足りないから、そして第三に、外的要因です。

ご存知の通り、ヨーロッパにはここ数年でゼロ金利になり、マイナス金利に移行した国がいくつかあります。一方日本は、ゼロ金利政策が始まってから、ほぼゼロ金利という時期も含めると17年近くになるという「ゼロ金利の大先輩」です。そう考えると、デフレ退治に向けて果敢に取り組んでいるヨーロッパに比べて、マイナス金利政策の導入はかなり遅れたことになります。この点は、既成概念にとらわれてゼロ以下の金利を想定するというクリエイティブな発想ができない、日本の弱点が出てしまったと認めざるを得ません。マイナス金利政策は、日本だけで見れば史上初かもしれませんが、世界的に見れば日本は「マイナス金利の後輩」なのです。

私はいつも金融政策の遅れを、「誤診」と、「副作用を恐れる医者」に例えます。診察を間違える(インフレ目標達成可能と油断する)→病状が悪化する→副作用を恐れてなかなか薬を処方しない→病状が悪化する→ようやく薬を処方するが病状が悪化しているためなかなか効かない→もっと薬が必要になる。。。そもそも診察を間違えたのも問題ですが、薬の処方が遅れたことによって、かえって後になって大量の薬が必要になっているというパターンの繰り返しです。副作用ばかり恐れて薬を処方しなかったツケが今に回ってきているということで、かねてから申し上げている通り、タイミングは非常に重要だと思います。

さらに今回の程度のマイナス金利では、実質的な効果は殆ど期待できません。ご存知の通り、アベノミクス開始以降、ドル円と日経平均株価の動きはほぼ完璧に連動しており、ドル円が1%上昇すれば、日経平均株価は概ね2.3%上昇する計算です。これは感覚的にも分かりやすいと思います。円が安くなれば、ドル建てで見た日本の株価が安くなるのでそれを修正しようという動きが働きます。日本の物が割安になるので、海外で売れるようになるだけでなく、海外から人が来るようになります。日本の労働者も割安になるので、海外から企業が来るように、と円安はビジネスに相乗効果をもたらします。その点では、今後の日本経済を占うにあたって為替は非常に大きな要素です。そしてその為替の大きな決定要因となっているのは日米実質金利差です。